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2章
19 猛獣
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路地の先。
男たちの肩越しに見える、金髪の美女の姿。
・・・神々しい。
教子は、そこに女神を見た。
紫苑 「まったく、ホントに手のかかる子なんだから・・」
カオル「会長・・」
カオルの顔は、なぜかバツの悪そうな顔。
紫苑 「しょうがないんだから・・」
教子を取り囲んだ暴漢達も、不意の闖入者に気づき、振り向く。
こちらにツカツカと歩み寄る紫苑。
腕は、組んだままだ。
視線は、カオルと教子だけに向けられており、男達には目もくれてやらない。
汚らわしい存在は、極力、目に触れたくないように。
いや・・・一応、視界には入れさせてもらえているのだろう。
ただ、それは網膜に像として映っているというだけで、紫苑の脳内つまり意識に入ることは、できない。
ゴミは。
紫苑は無造作に、本当に無造作に腕を組んだまま、こちらへ近づいてくる。
さっき"ポンキ"の店内を歩き回っていた時と同じように。
男2「どうします・・?」
男3「・・・・」
男 「・・・・どうもこうも、無え」
男 「・・やるんだよ」
不意に現れた闖入者の存在。
そしてそれが、滅多にお目にかかれないような絶世の美女だったとしても、男達は戸惑っていない。
そして、獲物ではなくすでに『敵』だと認識しているような男達の素振り。
これらの事実から、想像するに・・・・
私たち、最初から、狙われていた?
カラダ目当てとかじゃ、ない?
・・・・よくわからない。
色々なことがありすぎて。
非日常すぎて。
リーダー格らしき、教子たちに最初に声をかけた男がジャンパーの内側に手を入れて、なにかを取り出した。
・・・警棒?
50cmくらいはある。
男が棒の握りの部分をすこしイジった。
すると、
バヂヂヂヂ!!
刺激的な音を立てて警棒が、光を放つ。
電気警棒。
スタンガンと、鈍器が合わさったもの。
教子は、軽く眩暈を覚えた。
私たち、学校帰りに買い物に来ただけよね?
なんでこんな映画の中みたいになってんの?
これはいったいどういうこと?
リーダー格が警棒を手にしたのにならって、部下2人も似た得物を取り出す。
凶器を握った3人の男。
そして、武器を取り出すと同時に、紫苑に対してのフォーメーションをすでに、組んでいる。
あきらかに、ただのチンピラじゃない。
紫苑は、全く変わらない。
無造作に歩いてくるだけだ。
教子たちまでに至る数メートルの距離すら、面倒くさげに。
その目は、眠たそうに見える。
・・・教子よりも近くにいる、武器を手にした暴漢の存在なぞ、それこそ眼中にすらないらしい。
紫苑と、男たちの間が縮まってゆく。
もう、警棒を振れば届くまで、あと数歩の距離。
紫苑が、さらに近づく。
教子からも、その美しい顔がはっきりと見えるくらい。
男 「・・フッ!」
ギリギリまで引き寄せたのだろう、男は一気に踏み込んで右手の警棒を振るった。
必要最小限の素早い動き。
紫苑の鎖骨辺りを狙っている。
カラダの中心を狙った、避けようのない一撃。
まともに食らえば鎖骨か肩の骨が折れるか、腕でガードしたとしても、その腕は砕かれる。
続いて、数万ボルトの電撃。
骨折して、電気が流れて、一瞬で昏倒する。
後遺症も残るだろう。
本気で、生身の暴力。
なんで?
なんでそんなことするの・・・?
教子は疑問に思う。
そこまでして、人に危害を加える気持ちが理解できなかったからだ。
ましてや、あの美しい紫苑。
飾られた名画に包丁を突き立てるような行為。
教子の目では、暴漢達の動作は鮮明ではなかった。
訓練された動き。
リーダー格の男が警棒を振るうと同時に、残りの2人が左右に回り込む。
獲物を取り囲む用意だ。
が。
果たして獲物はどちらだったのか。
それは、紫苑にとっては、あたかも木の枝がそよ風で揺れるかの如き速度だったらしい。
決着は一瞬だった。
紫苑 「・・・・」
紫苑は無言のまま、組んだ腕を解き、片手を上げ・・
警棒を握った男の腕を"ふわっ"と捕まえた。
男を見もせず。
男 「ぐっ!!?」
体重の乗った渾身の一撃を、片手で無造作に捕られた男の驚愕は、いかばかりだったろう。
そして。
バヂン!!
男2 「がっ・・!!」
バヂン!!
男3 「ごっ・・!!」
腕を掴んだまま、男を"ハエたたき"の要領で振り回して、後ろの輩どもごと、壁に叩きつけた。
1人につき1回ずつ、計2回。
男2 「げぇ・・・・」
男3 「ぐぁ・・・・」
あっという間に、2人の男が路地の狭い左右の壁にハエのように叩きつけられて、勝負はついた。
いや・・・まだ。
男 「あ・・・ぎ・・・」
"ハエたたき"にされた男は、まだ意識を保っていた。
訓練の賜物か。それともリーダーとしての意地か。
紫苑 「・・・・」
地面に仰向けに倒れながらも、紫苑に片腕を掴まれたまま、うつろな目でぼんやりと宇宙をさまよっている。
ちょうど、気絶していた男が、紫苑に助け起こされている途中のような光景だ。
肩口が、少し不自然ぶらんと垂れている。
脱臼しているらしい。
肘も、変な方向に曲がっている。
それもそうだ。
物凄いスピードで2回、部下ごと壁に叩きつけられたのだ。
猛獣の腕力で。
教子 「・・・・」
カオル「・・・・」
教子もカオルも、何も言えなかった。
紫苑 「・・・」
男 「・・・・たすけ・・」
ほんの少し意識を取り戻した男。
教子から見えたのは、先ほどの残忍な顔とは違う、赤子のような顔・・・恐怖と無力さに満ちた表情。
対する紫苑の表情は・・
・・・教子からは、見えない。
紫苑は・・どんな顔をしていたのだろう。
想像するだに恐ろしい。
教子 「やめ・・・・」
先ほど、男にされかかった行為も忘れ、教子は叫びそうになった。
自分でもなぜだかわからないが。
でも、多分・・・・。
猛獣に食い殺されかかっている、かよわい人間を目にしたら、誰でもそうするのではないだろうか・・・。
ミキミキ
男 「ぎぃっ・・!」
教子は、思わず顔をそむけた。
カオルは、さっきから目をつぶっている。
ベキッグジッ
男の腕を掴んでいる紫苑の拳が、徐々に小さくなってゆく。
・・・・ゆっくりと握手をするように。
男が、感電したように背中を反りあがらせた。
骨と肉をゆっくりと潰される痛みから、せめて意識だけは他に向けるようにする、反射的な防御反応だ。
もはやそれしか、男にできることはない。
途方もない腕力で己が腕を握りつぶさているのだ。
石臼で挽きつぶされるように。
強引で破壊的な握手。
・・・ブチュッ
チューブからケチャップの最後の一滴を絞ったような音を立てて、男の手の先っぽが、垂れ下がった。
もう一つ関節が増えたかのように、紫苑の右手を支点にして。
千切れてしまったかもしれない。
男の目は見開かれ、顔は真っ赤に紅潮し、赤子を生む母親のような顔になっている。
骨ごと、肉ごと、皮ごと腕を握りつぶされる痛みは、どんなものなのだろう?
たぶん、手術でも元に戻せない壊れ方。
男の顔が赤から青に変わる。
男 「ぐげ」
痰を吐くような声をだして、今度こそ気を失った。
紫苑が手を離すと、肩も肘も腕もなくなってしまった男の腕は、ミミズのように地面に折りたたまれて落ちる。
全てが終わった後、紫苑は・・・
紫苑は、男を掴んでいたその掌を広げる。
そして、なにかを目指すようにその手をあげて・・・
べちゃ。
そのまま、壁に手を付けた。
繁華街の薄汚れた路地裏の、これまた薄汚れたホコリまみれの壁。
虫も這い回ってるような。
その壁に紫苑は手をつき・・・
ぐししっ、
と、手についた泥をなすり付けるようにして、上から下に向かって、一回、スライドさせる。
手にこびり着いてしまった汚れを、払うように。
猫が、虫が付いた背中を壁にこすりつける仕草によく似ていた。
--------------------
紫苑 「・・・・ケガは、ない?」
こちらを振り向いた紫苑の顔は、いつも通りだった。
教子 「・・・」
教子 「ああぁ・・・」
教子は、その場にへたり込む。
もう疲れと、背負っているリュックの重さがドッ、と肩にきて・・
立っていられなかった。
そしてココロの疲労は、もうとっくに臨界点を超えている。
紫苑 「情けないわねぇ・・・・」
なぜか、それを見て、優しげに笑う紫苑。
よかった・・・見た感じ、普段通りの紫苑だ。
・・・・あんなことをした後でも、すぐに普段通りに戻れるのか。
いや、考えるのは、よそう。
カオル「・・・会長。申し訳ございませんでした」
クチを開いたのは、カオル。
紫苑 「ホントよ、もう・・」
紫苑 「こいつら、訓練されてるわ。カオルでも"読めなかった"ようね」
カオル「はい・・重ね重ね、申し訳ありません・・」
紫苑 「いいわよ、もう・・」
教子 「・・・・」
--------------
紫苑 「ふぅ・・今日は、ちょっと疲れたわ・・」
・・同意。
紫苑 「ちょっと、カフェでお茶でもしましょうか?」
教子 「・・・え?まじっすか?」
私もクタクタで休みたいのはやまやまだし、確かにこの荷物を抱えたまま電車に揺られるのは大変だけど、でも精神的な疲労のほうが大きくて、要するにおうちかえりたい・・
じゃなくて。それ以前に。
教子 「あの、"それ"・・どうしましょうか・・」
目の前で、3人の男がのびてしまっている。
1人は、けっこう危険な状態だろう。
紫苑が、無造作にしたこと。
壁に叩きつけられた2人は、当然のごとく病衣送りだろう。
何週間か、何か月の入院か、はわからないが・・
そして、腕をつぶされた男は・・・
ああいうケガは、手術で治るものなのだろうか?
教子 「救急車とか・・・どうします?」
紫苑はあからさまに不愉快な顔を見せる。
紫苑 「いいのよ、こいつらは、放っておいて・・」
え?いいの?
教子 「え、あ、でも・・」
紫苑 「・・いいから」
紫苑 「気・に・す・る・な」
ギロ、と紫苑が教子をにらむ。
その視線に先ほどの猛獣紫苑が少し宿っている。
うっ・・ちょっと怖い。
違う。かなり怖い。ガチで。
紫苑 「どうせ、お仲間が回収にくるわ・・・」
教子 「え・・?」
ボソリ、とした紫苑の呟きは、教子にはよく聞き取れなかった。
紫苑 「まずは、一休みしましょ。これは決定事項」
教子 「はぁ・・」
もう、なんでもいいや・・・と教子は思ってしまった。
紫苑 「でも・・・その前に」
カオル「はい・・」
教子 「えっ?」
紫苑 「いるんでしょ?そこに」
紫苑が暗がりに、声をかける。
「・・・・・」
男たちの肩越しに見える、金髪の美女の姿。
・・・神々しい。
教子は、そこに女神を見た。
紫苑 「まったく、ホントに手のかかる子なんだから・・」
カオル「会長・・」
カオルの顔は、なぜかバツの悪そうな顔。
紫苑 「しょうがないんだから・・」
教子を取り囲んだ暴漢達も、不意の闖入者に気づき、振り向く。
こちらにツカツカと歩み寄る紫苑。
腕は、組んだままだ。
視線は、カオルと教子だけに向けられており、男達には目もくれてやらない。
汚らわしい存在は、極力、目に触れたくないように。
いや・・・一応、視界には入れさせてもらえているのだろう。
ただ、それは網膜に像として映っているというだけで、紫苑の脳内つまり意識に入ることは、できない。
ゴミは。
紫苑は無造作に、本当に無造作に腕を組んだまま、こちらへ近づいてくる。
さっき"ポンキ"の店内を歩き回っていた時と同じように。
男2「どうします・・?」
男3「・・・・」
男 「・・・・どうもこうも、無え」
男 「・・やるんだよ」
不意に現れた闖入者の存在。
そしてそれが、滅多にお目にかかれないような絶世の美女だったとしても、男達は戸惑っていない。
そして、獲物ではなくすでに『敵』だと認識しているような男達の素振り。
これらの事実から、想像するに・・・・
私たち、最初から、狙われていた?
カラダ目当てとかじゃ、ない?
・・・・よくわからない。
色々なことがありすぎて。
非日常すぎて。
リーダー格らしき、教子たちに最初に声をかけた男がジャンパーの内側に手を入れて、なにかを取り出した。
・・・警棒?
50cmくらいはある。
男が棒の握りの部分をすこしイジった。
すると、
バヂヂヂヂ!!
刺激的な音を立てて警棒が、光を放つ。
電気警棒。
スタンガンと、鈍器が合わさったもの。
教子は、軽く眩暈を覚えた。
私たち、学校帰りに買い物に来ただけよね?
なんでこんな映画の中みたいになってんの?
これはいったいどういうこと?
リーダー格が警棒を手にしたのにならって、部下2人も似た得物を取り出す。
凶器を握った3人の男。
そして、武器を取り出すと同時に、紫苑に対してのフォーメーションをすでに、組んでいる。
あきらかに、ただのチンピラじゃない。
紫苑は、全く変わらない。
無造作に歩いてくるだけだ。
教子たちまでに至る数メートルの距離すら、面倒くさげに。
その目は、眠たそうに見える。
・・・教子よりも近くにいる、武器を手にした暴漢の存在なぞ、それこそ眼中にすらないらしい。
紫苑と、男たちの間が縮まってゆく。
もう、警棒を振れば届くまで、あと数歩の距離。
紫苑が、さらに近づく。
教子からも、その美しい顔がはっきりと見えるくらい。
男 「・・フッ!」
ギリギリまで引き寄せたのだろう、男は一気に踏み込んで右手の警棒を振るった。
必要最小限の素早い動き。
紫苑の鎖骨辺りを狙っている。
カラダの中心を狙った、避けようのない一撃。
まともに食らえば鎖骨か肩の骨が折れるか、腕でガードしたとしても、その腕は砕かれる。
続いて、数万ボルトの電撃。
骨折して、電気が流れて、一瞬で昏倒する。
後遺症も残るだろう。
本気で、生身の暴力。
なんで?
なんでそんなことするの・・・?
教子は疑問に思う。
そこまでして、人に危害を加える気持ちが理解できなかったからだ。
ましてや、あの美しい紫苑。
飾られた名画に包丁を突き立てるような行為。
教子の目では、暴漢達の動作は鮮明ではなかった。
訓練された動き。
リーダー格の男が警棒を振るうと同時に、残りの2人が左右に回り込む。
獲物を取り囲む用意だ。
が。
果たして獲物はどちらだったのか。
それは、紫苑にとっては、あたかも木の枝がそよ風で揺れるかの如き速度だったらしい。
決着は一瞬だった。
紫苑 「・・・・」
紫苑は無言のまま、組んだ腕を解き、片手を上げ・・
警棒を握った男の腕を"ふわっ"と捕まえた。
男を見もせず。
男 「ぐっ!!?」
体重の乗った渾身の一撃を、片手で無造作に捕られた男の驚愕は、いかばかりだったろう。
そして。
バヂン!!
男2 「がっ・・!!」
バヂン!!
男3 「ごっ・・!!」
腕を掴んだまま、男を"ハエたたき"の要領で振り回して、後ろの輩どもごと、壁に叩きつけた。
1人につき1回ずつ、計2回。
男2 「げぇ・・・・」
男3 「ぐぁ・・・・」
あっという間に、2人の男が路地の狭い左右の壁にハエのように叩きつけられて、勝負はついた。
いや・・・まだ。
男 「あ・・・ぎ・・・」
"ハエたたき"にされた男は、まだ意識を保っていた。
訓練の賜物か。それともリーダーとしての意地か。
紫苑 「・・・・」
地面に仰向けに倒れながらも、紫苑に片腕を掴まれたまま、うつろな目でぼんやりと宇宙をさまよっている。
ちょうど、気絶していた男が、紫苑に助け起こされている途中のような光景だ。
肩口が、少し不自然ぶらんと垂れている。
脱臼しているらしい。
肘も、変な方向に曲がっている。
それもそうだ。
物凄いスピードで2回、部下ごと壁に叩きつけられたのだ。
猛獣の腕力で。
教子 「・・・・」
カオル「・・・・」
教子もカオルも、何も言えなかった。
紫苑 「・・・」
男 「・・・・たすけ・・」
ほんの少し意識を取り戻した男。
教子から見えたのは、先ほどの残忍な顔とは違う、赤子のような顔・・・恐怖と無力さに満ちた表情。
対する紫苑の表情は・・
・・・教子からは、見えない。
紫苑は・・どんな顔をしていたのだろう。
想像するだに恐ろしい。
教子 「やめ・・・・」
先ほど、男にされかかった行為も忘れ、教子は叫びそうになった。
自分でもなぜだかわからないが。
でも、多分・・・・。
猛獣に食い殺されかかっている、かよわい人間を目にしたら、誰でもそうするのではないだろうか・・・。
ミキミキ
男 「ぎぃっ・・!」
教子は、思わず顔をそむけた。
カオルは、さっきから目をつぶっている。
ベキッグジッ
男の腕を掴んでいる紫苑の拳が、徐々に小さくなってゆく。
・・・・ゆっくりと握手をするように。
男が、感電したように背中を反りあがらせた。
骨と肉をゆっくりと潰される痛みから、せめて意識だけは他に向けるようにする、反射的な防御反応だ。
もはやそれしか、男にできることはない。
途方もない腕力で己が腕を握りつぶさているのだ。
石臼で挽きつぶされるように。
強引で破壊的な握手。
・・・ブチュッ
チューブからケチャップの最後の一滴を絞ったような音を立てて、男の手の先っぽが、垂れ下がった。
もう一つ関節が増えたかのように、紫苑の右手を支点にして。
千切れてしまったかもしれない。
男の目は見開かれ、顔は真っ赤に紅潮し、赤子を生む母親のような顔になっている。
骨ごと、肉ごと、皮ごと腕を握りつぶされる痛みは、どんなものなのだろう?
たぶん、手術でも元に戻せない壊れ方。
男の顔が赤から青に変わる。
男 「ぐげ」
痰を吐くような声をだして、今度こそ気を失った。
紫苑が手を離すと、肩も肘も腕もなくなってしまった男の腕は、ミミズのように地面に折りたたまれて落ちる。
全てが終わった後、紫苑は・・・
紫苑は、男を掴んでいたその掌を広げる。
そして、なにかを目指すようにその手をあげて・・・
べちゃ。
そのまま、壁に手を付けた。
繁華街の薄汚れた路地裏の、これまた薄汚れたホコリまみれの壁。
虫も這い回ってるような。
その壁に紫苑は手をつき・・・
ぐししっ、
と、手についた泥をなすり付けるようにして、上から下に向かって、一回、スライドさせる。
手にこびり着いてしまった汚れを、払うように。
猫が、虫が付いた背中を壁にこすりつける仕草によく似ていた。
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紫苑 「・・・・ケガは、ない?」
こちらを振り向いた紫苑の顔は、いつも通りだった。
教子 「・・・」
教子 「ああぁ・・・」
教子は、その場にへたり込む。
もう疲れと、背負っているリュックの重さがドッ、と肩にきて・・
立っていられなかった。
そしてココロの疲労は、もうとっくに臨界点を超えている。
紫苑 「情けないわねぇ・・・・」
なぜか、それを見て、優しげに笑う紫苑。
よかった・・・見た感じ、普段通りの紫苑だ。
・・・・あんなことをした後でも、すぐに普段通りに戻れるのか。
いや、考えるのは、よそう。
カオル「・・・会長。申し訳ございませんでした」
クチを開いたのは、カオル。
紫苑 「ホントよ、もう・・」
紫苑 「こいつら、訓練されてるわ。カオルでも"読めなかった"ようね」
カオル「はい・・重ね重ね、申し訳ありません・・」
紫苑 「いいわよ、もう・・」
教子 「・・・・」
--------------
紫苑 「ふぅ・・今日は、ちょっと疲れたわ・・」
・・同意。
紫苑 「ちょっと、カフェでお茶でもしましょうか?」
教子 「・・・え?まじっすか?」
私もクタクタで休みたいのはやまやまだし、確かにこの荷物を抱えたまま電車に揺られるのは大変だけど、でも精神的な疲労のほうが大きくて、要するにおうちかえりたい・・
じゃなくて。それ以前に。
教子 「あの、"それ"・・どうしましょうか・・」
目の前で、3人の男がのびてしまっている。
1人は、けっこう危険な状態だろう。
紫苑が、無造作にしたこと。
壁に叩きつけられた2人は、当然のごとく病衣送りだろう。
何週間か、何か月の入院か、はわからないが・・
そして、腕をつぶされた男は・・・
ああいうケガは、手術で治るものなのだろうか?
教子 「救急車とか・・・どうします?」
紫苑はあからさまに不愉快な顔を見せる。
紫苑 「いいのよ、こいつらは、放っておいて・・」
え?いいの?
教子 「え、あ、でも・・」
紫苑 「・・いいから」
紫苑 「気・に・す・る・な」
ギロ、と紫苑が教子をにらむ。
その視線に先ほどの猛獣紫苑が少し宿っている。
うっ・・ちょっと怖い。
違う。かなり怖い。ガチで。
紫苑 「どうせ、お仲間が回収にくるわ・・・」
教子 「え・・?」
ボソリ、とした紫苑の呟きは、教子にはよく聞き取れなかった。
紫苑 「まずは、一休みしましょ。これは決定事項」
教子 「はぁ・・」
もう、なんでもいいや・・・と教子は思ってしまった。
紫苑 「でも・・・その前に」
カオル「はい・・」
教子 「えっ?」
紫苑 「いるんでしょ?そこに」
紫苑が暗がりに、声をかける。
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