わからせ! もののけ生徒会の調教師1年生

水都 おこめ

文字の大きさ
19 / 24
2章

19 猛獣

しおりを挟む
路地の先。

男たちの肩越しに見える、金髪の美女の姿。

・・・神々しい。

教子は、そこに女神を見た。



紫苑しおん 「まったく、ホントに手のかかる子なんだから・・」

カオル「会長・・」

カオルの顔は、なぜかバツの悪そうな顔。

紫苑 「しょうがないんだから・・」



教子を取り囲んだ暴漢ぼうかん達も、不意の闖入者ちんにゅうしゃに気づき、振り向く。

こちらにツカツカと歩み寄る紫苑。

腕は、組んだままだ。

視線は、カオルと教子だけに向けられており、男達には目もくれてやらない。

汚らわしい存在は、極力、目に触れたくないように。



いや・・・一応、視界には入れさせてもらえているのだろう。

ただ、それは網膜に像として映っているというだけで、紫苑の脳内つまり意識に入ることは、できない。

ゴミは。



紫苑は無造作に、本当に無造作に腕を組んだまま、こちらへ近づいてくる。

さっき"ポンキ"の店内を歩き回っていた時と同じように。

男2「どうします・・?」

男3「・・・・」


男 「・・・・どうもこうも、え」

男 「・・やるんだよ」

不意に現れた闖入者の存在。

そしてそれが、滅多にお目にかかれないような絶世の美女だったとしても、男達は戸惑っていない。

そして、獲物ではなくすでに『敵』だと認識しているような男達の素振り。



これらの事実から、想像するに・・・・

私たち、最初から、狙われていた?

カラダ目当てとかじゃ、ない?



・・・・よくわからない。

色々なことがありすぎて。

非日常すぎて。



リーダー格らしき、教子たちに最初に声をかけた男がジャンパーの内側に手を入れて、なにかを取り出した。

・・・警棒?

50cmくらいはある。

男が棒の握り・・の部分をすこしイジった。

すると、


バヂヂヂヂ!!


刺激的な音を立てて警棒が、光を放つ。

電気警棒。

スタンガンと、鈍器どんきが合わさったもの。



教子は、軽く眩暈めまいを覚えた。


私たち、学校帰りに買い物に来ただけよね?

なんでこんな映画の中みたいになってんの?

これはいったいどういうこと?




リーダー格が警棒を手にしたのにならって、部下2人も似た得物えものを取り出す。

凶器を握った3人の男。

そして、武器を取り出すと同時に、紫苑に対してのフォーメーションをすでに、組んでいる。

あきらかに、ただのチンピラじゃない。




紫苑は、全く変わらない。

無造作に歩いてくるだけだ。

教子たちまでに至る数メートルの距離すら、面倒くさげに。

その目は、眠たそうに見える。

・・・教子よりも近くにいる、武器を手にした暴漢の存在なぞ、それこそ眼中にすらないらしい。




紫苑と、男たちの間が縮まってゆく。

もう、警棒を振れば届くまで、あと数歩の距離。




紫苑が、さらに近づく。

教子からも、その美しい顔がはっきりと見えるくらい。

男  「・・フッ!」

ギリギリまで引き寄せたのだろう、男は一気に踏み込んで右手の警棒を振るった。

必要最小限の素早い動き。

紫苑の鎖骨辺りを狙っている。

カラダの中心を狙った、避けようのない一撃。

まともに食らえば鎖骨か肩の骨が折れるか、腕でガードしたとしても、その腕は砕かれる。

続いて、数万ボルトの電撃。

骨折して、電気が流れて、一瞬で昏倒する。

後遺症も残るだろう。

本気で、生身なまみの暴力。



なんで?

なんでそんなことするの・・・?

教子は疑問に思う。

そこまでして、人に危害を加える気持ちが理解できなかったからだ。

ましてや、あの美しい紫苑。

飾られた名画に包丁を突き立てるような行為。




教子の目では、暴漢達の動作は鮮明ではなかった。

訓練された動き。

リーダー格の男が警棒を振るうと同時に、残りの2人が左右に回り込む。

獲物を取り囲む用意だ。



が。

果たして獲物はどちらだったのか。

それは、紫苑にとっては、あたかも木の枝がそよ風で揺れるかの如き速度だったらしい。



決着は一瞬だった。

紫苑 「・・・・」

紫苑は無言のまま、組んだ腕を解き、片手を上げ・・

警棒を握った男の腕を"ふわっ"と捕まえた。

男を見もせず。

男  「ぐっ!!?」


体重の乗った渾身の一撃を、片手で無造作に捕られた男の驚愕は、いかばかりだったろう。

そして。

バヂン!!

男2 「がっ・・!!」

バヂン!!

男3 「ごっ・・!!」

腕を掴んだまま、男を"ハエたたき"の要領で振り回して、後ろのやからどもごと、壁に叩きつけた。

1人につき1回ずつ、計2回。

男2 「げぇ・・・・」
男3 「ぐぁ・・・・」

あっという間に、2人の男が路地の狭い左右の壁にハエのように叩きつけられて、勝負はついた。




いや・・・まだ。



男  「あ・・・ぎ・・・」

"ハエたたき"にされた男は、まだ意識を保っていた。

訓練の賜物たまものか。それともリーダーとしての意地か。

紫苑 「・・・・」

地面に仰向けに倒れながらも、紫苑に片腕を掴まれたまま、うつろな目でぼんやりと宇宙をさまよっている。

ちょうど、気絶していた男が、紫苑に助け起こされている途中のような光景だ。

肩口が、少し不自然ぶらんと垂れている。

脱臼しているらしい。

肘も、変な方向に曲がっている。

それもそうだ。

物凄いスピードで2回、部下ごと・・・・壁に叩きつけられたのだ。

猛獣の腕力で。




教子 「・・・・」

カオル「・・・・」

教子もカオルも、何も言えなかった。





紫苑 「・・・」

男  「・・・・たすけ・・」

ほんの少し意識を取り戻した男。

教子から見えたのは、先ほどの残忍な顔とは違う、赤子のような顔・・・恐怖と無力さに満ちた表情。



対する紫苑の表情は・・

・・・教子からは、見えない。




紫苑は・・どんな顔をしていたのだろう。

想像するだに恐ろしい。

教子 「やめ・・・・」

先ほど、男にされかかった行為も忘れ、教子は叫びそうになった。

自分でもなぜだかわからないが。

でも、多分・・・・。

猛獣に食い殺されかかっている、かよわい・・・・人間を目にしたら、誰でもそうするのではないだろうか・・・。


ミキミキ


男  「ぎぃっ・・!」

教子は、思わず顔をそむけた。

カオルは、さっきから目をつぶっている。


ベキッグジッ


男の腕を掴んでいる紫苑の拳が、徐々に小さくなってゆく。

・・・・ゆっくりと握手をするように。



男が、感電したように背中を反りあがらせた。

骨と肉をゆっくりと潰される痛みから、せめて意識だけは他に向けるようにする、反射的な防御反応だ。

もはやそれしか、男にできることはない。

途方もない腕力でおのが腕を握りつぶさているのだ。

石臼で挽きつぶされるように。

強引で破壊的な握手。


・・・ブチュッ


チューブからケチャップの最後の一滴を絞ったような音を立てて、男の手の先っぽ・・・が、垂れ下がった。

もう一つ関節が増えたかのように、紫苑の右手を支点にして。

千切ちぎれてしまったかもしれない。





男の目は見開かれ、顔は真っ赤に紅潮し、赤子を生む母親のような顔になっている。

骨ごと、肉ごと、皮ごと腕を握りつぶされる痛みは、どんなものなのだろう?

たぶん、手術でも元に戻せない壊れ方。

男の顔が赤から青に変わる。

男 「ぐげ」

痰を吐くような声をだして、今度こそ気を失った。

紫苑が手を離すと、肩も肘も腕もなくなってしまった男の腕は、ミミズのように地面に折りたたまれて落ちる。



全てが終わった後、紫苑は・・・

紫苑は、男を掴んでいたそのたなごころを広げる。

そして、なにかを目指すようにその手をあげて・・・

べちゃ。

そのまま、壁に手を付けた。

繁華街の薄汚れた路地裏の、これまた薄汚れたホコリまみれの壁。

虫も這い回ってるような。



その壁に紫苑は手をつき・・・

ぐししっ、

と、手についた泥をなすり付けるようにして、上から下に向かって、一回、スライドさせる。

手にこびり着いてしまった汚れを、払うように。

猫が、虫が付いた背中を壁にこすりつける仕草によく似ていた。





--------------------





紫苑 「・・・・ケガは、ない?」

こちらを振り向いた紫苑の顔は、いつも通りだった。

教子 「・・・」

教子 「ああぁ・・・」


教子は、その場にへたり込む。



もう疲れと、背負っているリュックの重さがドッ、と肩にきて・・

立っていられなかった。



そしてココロの疲労は、もうとっくに臨界点を超えている。

紫苑 「情けないわねぇ・・・・」

なぜか、それを見て、優しげに笑う紫苑。

よかった・・・見た感じ、普段通りの紫苑だ。




・・・・あんなことをした後でも、すぐに普段通りに戻れるのか。



いや、考えるのは、よそう。



カオル「・・・会長。申し訳ございませんでした」

クチを開いたのは、カオル。

紫苑 「ホントよ、もう・・」

紫苑 「こいつら、訓練されてるわ。カオルでも"読めなかった"ようね」

カオル「はい・・重ね重ね、申し訳ありません・・」

紫苑 「いいわよ、もう・・」

教子 「・・・・」






--------------





紫苑 「ふぅ・・今日は、ちょっと疲れたわ・・」

・・同意。

紫苑 「ちょっと、カフェでお茶でもしましょうか?」

教子 「・・・え?まじっすか?」

私もクタクタで休みたいのはやまやまだし、確かにこの荷物を抱えたまま電車に揺られるのは大変だけど、でも精神的な疲労のほうが大きくて、要するにおうちかえりたい・・


じゃなくて。それ以前に。

教子 「あの、"それ"・・どうしましょうか・・」


目の前で、3人の男がのびて・・・しまっている。

1人は、けっこう危険な状態だろう。



紫苑が、無造作にしたこと。

壁に叩きつけられた2人は、当然のごとく病衣送りだろう。

何週間か、何か月の入院か、はわからないが・・



そして、腕をつぶされた男は・・・

ああいうケガは、手術で治るものなのだろうか?




教子 「救急車とか・・・どうします?」

紫苑はあからさまに不愉快な顔を見せる。

紫苑 「いいのよ、こいつらは、放っておいて・・」

え?いいの?

教子 「え、あ、でも・・」

紫苑 「・・いいから」

紫苑 「気・に・す・る・な」

ギロ、と紫苑が教子をにらむ。

その視線に先ほどの猛獣紫苑が少し宿っている。

うっ・・ちょっと怖い。

違う。かなり怖い。ガチで。


紫苑 「どうせ、お仲間が回収にくるわ・・・」

教子 「え・・?」

ボソリ、とした紫苑の呟きは、教子にはよく聞き取れなかった。



紫苑 「まずは、一休みしましょ。これは決定事項」

教子 「はぁ・・」

もう、なんでもいいや・・・と教子は思ってしまった。

紫苑 「でも・・・その前に」

カオル「はい・・」

教子 「えっ?」




紫苑 「いるんでしょ?そこに」




紫苑が暗がりに、声をかける。


「・・・・・」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

せんせいとおばさん

悠生ゆう
恋愛
創作百合 樹梨は小学校の教師をしている。今年になりはじめてクラス担任を持つことになった。毎日張り詰めている中、クラスの児童の流里が怪我をした。母親に連絡をしたところ、引き取りに現れたのは流里の叔母のすみ枝だった。樹梨は、飄々としたすみ枝に惹かれていく。 ※学校の先生のお仕事の実情は知りませんので、間違っている部分がっあたらすみません。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

義姉妹百合恋愛

沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。 「再婚するから」 そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。 次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。 それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。 ※他サイトにも掲載しております

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

処理中です...