姫をやめて魔王様のメイドになりまーす!

アクアマリン

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第一部 アリア編

新米メイドが起こします

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「魔王様! 夜でございますっ!」

地下室に安置された棺の蓋をガバッと開け、アリアは中をのぞきこんだ。

そこに横たわるのは真っ黒な燕尾服に身を包んだ美丈夫だった。

艶やかな黒髪に囲まれた白皙の美貌に、引き締まった体躯。その髪は背中の中ほどもある長いものだが、女々しさは微塵もない。むしろ男らしさの中に優雅さを加味し、その美貌を引き立てている。

寝ていても魔王様は完璧だ、とアリアはうっとりした。何度見ても見飽きない。むしろもっとよく見たい。

ぐっと身をのりだし燭台の灯火を近づけると、横たわる人物がカッと目を見開いた。

「近い!」

ビシィッ!

「あいたぁっ!」

鋭い美声と共に眉間に手刀を叩き込まれ、アリアは痛みにのたうった。
手にしていた燭台を棺の中に取り落とす。

「熱い!」

「すみませんっ!」

涙目であわてて掴むと「それじゃない!」とまた叱責が飛ぶ。

「えっ、えっ? 今のって」

「もういい! 起きる」

「おはようございますっ、魔王様」

「………」

魔王が棺の中から身を起こした。
寝起きはたいてい不機嫌なので、アリアは気にせずその場に控えて棺から出てくるのを待つ。

メイドのお仕着せ、白いフリフリエプロンからメモ帳を取りだしペラリとめくった。

「今日は《境界の砦》から使者が参られます。魔王様との謁見後に魔都の兵舎に視察に行かれるそうです。なんでも30人ばかり人員の補充がしたいとか。それからドラゴン飼育舎からさきほど連絡がありまして、新たに二つの卵が孵化するようです。つきましては魔王様に名を賜りたいとの要請がございました。火竜の双子だそうです。なにか考えておいてくださいね。次に」

「待て」

「はい? あ、今日の朝食ですか? メニューはイグルヤシのソテーと、魔界牛のシチューと」

「違う。砦の人員が不足しているのは初耳だが」

「あ…」

気まずそうに目をそらすアリアに魔王はいぶかしげな目を向けた。

「なんだ」

「えーと、それは…先日の勇者パーティーが砦をすこーし破壊したからかと…」

「すこーし、とは具体的にどのくらいだ」

「えぇ? う~ん。ちょっと砦の半分が欠けたくらい? です…」

メモを揉みしだきながらしどろもどろに言うアリアに魔王はため息をついた。

「犯人はお前だな?」

件の勇者パーティーの一員であったアリアは上目使いで目をしばたかせた。

「私ではなくグゥちゃんとガァちゃんが……」

「誰だそれは」

「私の騎竜です。二頭ドラゴンの体の大きい子なんですが、すこーし着陸に失敗してしまって…」

「すこーし砦を欠けさせてしまったと」

「はい…。すみません」

ペコリと頭を下げるアリアに魔王はため息をついた。

「してしまったことは仕方がない。そなたは勇者パーティーをこの魔界から弾き出し、結界を強固に張り直した先の大戦の功労者だ。減給三ヶ月で勘弁してやる」

「ありがとうございますっ! あ、でも」

「なんだっ」

「私そもそもお給金をいただいておりませんっ」

えへへ、と頭をかくアリアに魔王は遠い目をした。



   







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