落ちこぼれ兵士の僕が女子高生の幽霊に助けてもらうのはダメですか?

エリーゼ

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国立魔法兵士学園編

第2話 夢 後半

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来たる次の日の朝。ステアは書き置きだけを残して寝ている俺たちを背に朝早くハウスを出た。書き置きには特にこれといったことは書いてなかったが、俺と千隼に対する注意書きだけで紙の半分を使っていた。

午前8時。いつもの時間帯に目を覚まして古谷特製ソースのかかった目玉焼きを平らげると、朝の日課であるランニングに出かけた。玲王那は俺よりも早く起きて剣の素振りをしている。玲央名は誰よりも剣の使いが上手く、交戦的な千隼すら凌ぐ。俺は剣というよりも弓や槍といった狩猟的な武器が得意なため、剣の凄さなど素人目になってしまうが、それでも玲央名の剣は美しかった。とても農村の娘とは思えないほどに。

古谷はステアに代わって遅くに起きてくる子供達の朝食の下拵えや洗濯や掃除など家事を行なっている。ステアが風邪を引いたり、今回のように留守にしたりなどした際にいつも代わりをこなすのが古谷だ。千隼は今日も変わらずトレーニングをしている。薪割りをしつつ自身のウエイトトレーニングに加えるなどハウスの仕事をこなしつつ肉体強化をしていた。

言い忘れていたが16歳の年長組は俺に玲王那、あと千隼に古谷の4人だ。古谷は早生まれなので15歳だが、ハウスを回しているのは何もステアだけでなく、俺たち年長組も僅かだが貢献している。ハウスで暮らしていない玲王那や千隼には感謝しかないな。

村の周りを走るもいつもは見かける農家のおじさんや千隼の家の親父さんなど全く見かけなかった。建国記念日で出払っているにしても静かすぎた。まぁ今回の建国記念日は恒例と違ってダウカー王国に所属している農村や都市に住む成人は異性を問わず全員参加だからだな。

「おかえりカナタ。お昼、出来てるって」

「そうか。わかった」

「帰るのいつもより遅くなかった?」

「今日は村の大人達がいないからな。パトロールも兼ねて長く走ってきた」

ハウスに入ると既に俺と玲王那以外の席は埋まっていた。正面に座る千隼は相当きついトレーニングをしたのか額や首に汗を流しており、古谷から貰ったであろう白タオルで拭っていた。

「どうだったよカナタ。村の様子は」

「どうだったって‥‥別になんもなかったよ。大人は全員出払ってるし、村の家畜達も大人しく寝るか餌を食べてるかだったしな」

特にその後は千隼と会話が生まれることはなく、そのまま昼食は食べ終わった。午後は俺と玲王那が働く番だ。午前は古谷と千隼が働いてたから交代だ。俺はイスから降りて立ち上がるとそのまま午後の狩猟へと出かけようとした。

——がここで思いもよらない人物に俺は止められた。

「どうした?アン」

いつもは昼食を済ましたらすぐにお昼寝に入る幼児組筆頭のアンが仕事に出かける俺を止めたのだ。

「ねーね。カナタ兄ちゃん」

眠たそうな顔を擦りながら俺の裾《すそ》を引っ張ってくる。

「遊ぼうよ。ね?ダメ?」

アンは幼いが俺や玲王那がこの時間帯になると狩猟に出かけることは知っている。が、今日に限って玲王那は俺を引き止めた。少し考えるも俺は自分やるべきことを思い出し、小さく柔らかい手を服の裾から離させた。

「ごめんな。兄ちゃん今から仕事なんだ。遊びならーほら、ルイと一緒に」

「やーだ!カナタ兄ちゃんがいいのーー!!」

今度は右足にしがみつかれる。ここまで強情なアンは始めてかもしれない。俺は苦笑いしながら古谷に目を合わせると、古谷はそっとこちらに近づいてきてアンを持ち上げた。

「こーら。カナタのお邪魔をしちゃダメだよ?カナタはこれなら夕食の美味しいお肉やお魚を取ってくるんだから」

暫くアンは俺と遊ぶことを熱烈に求め、古谷の腕の中で暴れたが、時間が経つにつれて体力が底をつき、眠りについた。俺は食卓から離れると自室に戻り、狩猟道具や服装を整えた。

そして一度リビングに戻り、古谷を含めた全員に行ってきますの挨拶をしようとすると、古谷が腕を組み、眉間に皺《しわ》を寄せていた。

「どうしようか、これ」

「どうするも何も。あのババアが忘れてったんだろうが」

そこには千隼も揃っており、2人揃って頭を悩ませていた。

「どうしたんだお前ら?お通夜にでも参加するのかってくらい顔が暗いが」

「縁起でもないこと言わないでよカナタ。今はそれどころじゃない」

古谷がこちらに見向きもしないで冷酷な返事を返した。

「えっと」

「あのクソババアが忘れてったんだよ」

「忘れた?何を?」

「財布」

「財布!?」

突然のポンコツ展開につい大声を上げてしまった。

「うっせーな。だからそうだって言ってんだろ」

「いやいやいや、あのステアおばさんだぞ?そんなうっかりミスするか?」

そう言って本来の目的を忘れた俺はズカズカとリビングに足を踏み入れる。

「マジかよ‥‥」

「財布だけならどうにかなったんだけどね。身分証も入ってるし、これじゃあ王国に入る前に門前払いだよ」

王国に入るには自身の身分を証明するものが必要だ。6歳になると発行される身分証は王国により発行され、一度紛失すれば再発行するのに半年はかかるため財布や家のタンスなど無くさないところに入れておくのが大事だ。

「どうすんだよ。確か今回の式典って王国領地の成人は全員参加だったよな?」

「そう。だからこれがないとそもそも式典に参加できないし、理由もなしに欠席したらそれこそ王国から刑罰が課せられるよ」

千隼の質問に答えると、古谷は顔を青ざめながらことの事態を冷静に分析する。

「今頃気づいてるといいが」

「いや、もうお昼時だよ?今からこっちに戻ってまた向かうなんてしてたら式典が始まる。よくて遅刻。最悪本当に欠席になるよ」

どうすればいいか。そんなことを3人で塾考していると、俺が開けっぱなしにしていた扉から一つの意見が提案される。

「なら渡しに行けばいいんじゃない?」

そう言ったのは足音もなく急にリビングに入ってきた玲王那だった。

「渡しにって、今から?」

古谷がそう尋ねると小刻みに一度頷いた。

「そう」

「あのババアは村連中と馬車で行ったんだぜ?もう馬なんていねぇし、そもそもあったとしても従える奴なんていねぇし、無理だろ」

「無理じゃない」

首を横に振ると玲王那は走るポーズを取った。

「まさか‥‥」

「走る」

「馬鹿じゃねぇの!?いや馬鹿だろ!何キロあると思ってんだ!!」

「30.365キロメートル」

「そこまで正確な数値割り出しといて何でそんな真顔で走るなんて言えるんだよ!」

「えへ」

赤く頬を染めると、玲王那照れ臭そうに下を見つめた。

「多分褒めてないと思うよカナタは。でもまぁいい案だ」

「は?お前までおかしくなったのかよ。30キロだぞ?馬がねぇと無理だろ」

「でも実際手段はそれしかないと思うよ。30キロなら今から走って休憩なしで全力でやればいけると思う」

「本気かよ」

疑うように鋭く睨む千隼前に古谷は笑みを浮かべながら一度頷いた。

「僕は何度もステアおばさんに助けられた。だから僕ができることならどんな形でも恩返ししたいし、助けたいと思ってる。みんなはどうかな?もちろん僕1人でも行くつもりだよ。元々玲王那の考えは何も思いつかなかった時はそうしようと思ってたしね」

俺は千隼と目を合わせると久しぶりに笑い合った。
そうだ。古谷祐樹はそういう奴だったって。

「しゃーねぇな、わーったよ。行くか」

「だな。言っとくがバテても置いてくからな」

俺は千隼の言葉に共感するの意を表すと共に発破《はっぱ》をかけた。

「それはテメェだカナタ。勝手にバテてて帰りの馬車でも待ってろ」

「もう‥また喧嘩してる」

「これも、帰ってきたらステアおばさんに報告だね」


そうだ。これが俺たちだった。小さい頃からこの4人は一緒で。無茶をするときも、誰かが言い出しっぺで何かをやろうとするときも。常に一緒だった。

千隼が鼓舞して。古谷が作戦を立てて。玲王那が突拍子もないことを言って。みんなで笑い合う。そんな毎日。欠けてはいけない毎日だった。


でも。


今日この日。そんな思い出が全て灰色に染まる。



笑い合った日も、喧嘩した日も、泣いた日も、全部、全部が。


消えてしまう。





「カナタ」

  

「もし、この夢を見て何かを思い出したら。あの場所に来て。ずっと‥‥ずっと待ってるから」






















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