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国立魔法兵士学園編
第5話 レジメント・スカーミッシュ
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「目を覚ましたようね」
意識が覚醒した瞬間、カナタの目の前にあったのはなんの変哲もないただの白い天井だった。隣からやんわりした声が聞こえたため頭を横に傾けようとも正体不明の激痛が首から頭へと走り、俺の試みは失敗に終わった。
「あまり首は動かさない方がいいわよ。軽い打撲で済んでるからいいけど、下手すれば一生首が動かせない生活になるわ」
とてもじゃないが笑えない冗談に冷や汗を浮かべると、少しずつ今の自分の状況が理解できるようになった。どうやらここは保健室で、僕はあのクソ教官の竹刀で脳天一撃を食らったせいで首やら頭が痛んでいる。そういうことだろう。
「意識はしっかりあるわよね?しばらくそのままの体制でいることね、まぁ私が言わなくても軽い脳震盪のせいで身動きが取れないでしょうけど」
「あの~先生」
「なに?」
俺は変わらず真っ白な天井を見つめたまま、ゆっくりと声を絞り出した。
「今って何限目ですか?」
とりあえず今は自分がどれくらい意識が飛んでいたのか確認をしたかった。外を見るにまだ日が暮れていないからそれほど時間は経っていないと思うのだが。
「今は3限目よ。あなたが運ばれてきたのは1限目だからあれから2時間くらい経つわね。あ、そうそう。後で兵藤さんにお礼を言ってあげなさいね。あなたをここまで運んできたのは彼女だから」
アイツが?案外面倒見のいいやつなのか‥‥いや違うな。きっと俺をここまで運ぼうとする奴が名乗り出なかったのだろう。それで人のいいアイツに押し付けられて‥‥やめよう、想像すればするほどキツい。
「ガーベラン君?」
「そうですか。わかりました。あとでちゃんとお礼を言っときます」
その日は結局体の身動きが取れないまま保健室で1日過ごす事になったため茜に対して感謝をすることができなかった。後日俺は登校時に遭遇した茜に感謝を述べることになるのだが、何故か苦笑いされて終わったのは別の話にしておこう。
頭を教官にかち割られてから数日が経った。まだ後頭部が痛むが、俺は兵士希望の学園生徒だ。これくらいの怪我で怯《ひる》むわけにはいかない。今日も俺は一人の訓練生として、訓練に励んでいた。
「48、49、50!」
額に大量の汗を流して懸命に木刀を振り続ける。単純な行動パターンに見えるがこれが案外キツい。上腕二頭筋だけでなく肩から木刀を振り下ろさなければ負担が腕全てにかかるため、翌朝筋肉痛地獄を味わうことになる。
「よし。素振り50回 50セットはこれで終了だ。次は権能応用訓練に入るが‥‥ガーベラン」
「は、はい」
「今日は始まる5分前に大広間に来ていたようだな。この前の行いを反省しているようで何より」
教官は一度僕に目を合わせると、踵を返してその場から去ってしまった。あくまで教官と訓練生、鞭ばかりで褒めるといった飴はくれないらしい。この後僕たち訓練生は自分の権能にあったトレーニングメニューを行うため、バラバラに散らばった。と言っても俺はそもそも権能を持ち合わせちゃいないため、またひたすら素振りの往復になる。
「さて、今度は素振り100回 50セットでもしようかな」
そう思い、僕は再び木刀を振り上げて素振りを開始しようとすると。先ほどまで閉じられていた大広間の入り口の扉が轟音と共に開かれた。腰に木刀を携えた他クラスの訓練生がぞろぞろと入場し、集団を率いて先頭に歩いていた中年男性が教官の前で立ち止まった。
「これはこれは神林教官今日もお美しい限りで」
「ゴーワンダ教官。どうしました?11時まで大広間は我々の貸切になっているはずですが」
身長はおよそ190くらいだろうか。女性の中ではかなり高身長な神林教官が見下ろされている。
「いやなに。あなたが育成している優秀な訓練生を是非この目で見ておきたくてね。あーもちろん、私の訓練生にもね」
そう言うとゴーワンダ教官は背後に視線を寄せると1人の女子生徒が、ゆっくりな歩調で悠々と訓練生の集団を掻き分けながら姿を現した。
「彼女は」
「おっと!紹介なら私がさせてもらおう。彼女名前は————」
「はじめまして神林教官。私の名前はレオナ・ペンドラゴン。レオナと呼んでもらって構いません。以後よろしくお願いします」
鈴の音のように凛とした声色に、艶のかかった金髪の長髪。そして同じ人間とは思えないほどに対称的なスタイルは彼女を美少女として完成させていた。
「れ、レオナ君?どうして先に言っちゃうの?」
「え?何か言ってましたか?」
おろおろとした態度のゴーワンダ教官に対して、さっぱりしたペンドラゴンさん。側から見るととても歪な関係に見えてしまう。僕が苦笑いを浮かべていると、神林教官は大きく一度咳払いをした。
「で?ゴーワンダ教官。本題に入りたいのですが。私の育成方針を彼女たちに見せたいと言った話でしたよね?」
「‥‥あぁそうだ。是非とも私の生徒たちにも君の教育を施してもらいたい」
「はぁ。まぁそれはいいですけど。先ほど申し上げた通り私たちがここの大広間を支えるのは11時までです。今の時刻は10時45分、残り15分ではろくな指導はできませんよ?」
それを聞いたゴーワンダ教官は生徒を連れて潔くこの場を去る———ことはなく。むしろ先ほどから気になっていた鼻息が一層荒くなり、怪しげな笑みを浮かべた。
「それなら心配ない。今から12時までここの大広間を使うといい」
「というと?」
「先ほど学年主任に許可をいただいてきた。これより11時から12時は神林教官の生徒と私の生徒とで合同訓練を行う」
なんて自分勝手な。クソ上官の分際でいい気になるなよ?と言いたげな神林教官はめっちゃ顔面に青筋を浮かべていた。
「次の授業は講義です。それに我々にも都合というものがあるのですが?」
「講義などしなくとも戦術くらい生徒が自主的に行うものだ。それより生徒たちを成長させるにはもっと大事な事があるではないか。我々教官の最優先事項はレオニド王国に捧げるための屈強な兵士たちの育成だ。それを覆す都合が他にあるかね?」
腕を組みながら長々と偉そうに語ると、鼻で笑って神林を見下ろした。本来ならばキッパリとゴーワンダの挑発を蹴りたいところだが、レオニド王国の名を出された以上、教官の立場である神林は大人しく上司の身勝手な決定に従うしかなかった。
「では、これより15分は今日のメニュー通り権能応用訓練を行い、11時以降は各自自身の扱う武具を使った—————」
「やはりやめよう」
「は?」
クラス別に整列させられた俺たちは神林教官の次なる訓練のメニューを聞いていた中、再びゴーワンダの一声で急遽これからの成り行きという舵を180度回転させられた。
「つまらないとは思わないか?折角他クラス同士が揃っているというのにいつもと同じ訓練に取り組むなど、愚の骨頂であろう」
提案に見せているが、その発言は完全に遠回しに神林の訓練を侮辱していた。わざわざ語尾に嫌味を置いてくるあたり馬鹿でも分かる。
「ならどうしろと?申し訳ありませんが私ができる指導にご不満があるのならご自身でやられたらいかがです?」
「そうだな。そうしたいところなのだが、何か面白い案はないだろうか」
自分勝手で人任せ。もはや救いようのないクズ教官に鉄槌を下してやろうとついに堪忍袋の尾が切れた神林が向けていた背を翻し、怒声を浴びせようとしたその瞬間。
「はい」
先ほど紹介されたペンドラゴンが小さく挙手をした。誰しもが想像しなかった展開に神林を含んだ全員がこの場に静寂を生みだした。1人の男を残しては。
「なにかねレオナ君。あれとは?」
「折角他クラスが集まったことですし。どうせなら盛り上がるものがやりたいと思いました」
「ほう。それで?」
「以上です」
‥‥‥
‥‥
‥
「??????」
全員の頭に文字通りクエスチョンマークが浮かんだ。てっきり何か具体的な提案があるのかと思ったが、まさかの感想を伝えただけだったとは。流石のゴーワンダ教官も口を開けたままだ。
「なら、あれやろうじゃねぇか」
銀髪の少年が列から外れ、ズカズカと大股で前へと進んでいくとゴーワンダ教官の眼前で立ち止まった。
「なにかね?」
「クラス対抗での模擬試合ってのはどうだ。ゴーワンダ教官殿よぉ」
「ほぉ対抗とな。確かにそれはこの場における最適解の選択だな少年」
深い笑みを浮かべると手を2回鳴らした。それは他ならぬ少年の意見を肯定した合図他だった。
君はいい趣向を持っている。折角だ、名前を聞いておこうか」
「あ?んなことどうだっていいだろ。さっさと始めろや」
制服のズボンに手を突っ込み、お淑やかさの「お」の字もない態度を見せる少年。僕はこいつを知っている。もちろん同じクラスメイトということもあるが、それよりも彼の知名度が高いのは家柄ゆえだ。
「鈴鹿龍平君だね。英雄の血筋である鈴鹿家の跡取り。この学園の教官を名乗る以上、君を知らない人はまずいないさ」
「肩書きなんかどーだっていいんだよ。でどうなんだよ?やんの?やらねぇの?」
その好戦的な性格は入学して早々脳内の#海馬_かいば__#に刻み込まれた。入学式が終わったと同時に、彼は片っ端らに神林教官を含めた教官に模擬戦を嘆願した。もちろん大概の教官には断られていたが、興味本位に彼の挑戦を受諾した教官は訓練生のいる公衆の面前で完膚なきまでに大敗したという。それ以後、その教官は学園に姿を見せたことはない。そう言った意味でも鈴鹿龍平という訓練生は学園の教官からの知名度が高いのだろう。
「クラス対抗は大歓迎さ。ならばルールは例年学園とレオニド政府が共同して行う剣戟祭のメイン競技に習って、連隊試合でどうかね?」
「レジメント・スカーミッシュですか。いいじゃないですか?とても盛り上がると思います」
と、ここで再びペンドラゴンさんが登場すると賛成の意を示した。
「よろしいならば神林先生。1つ提案なのですが」
「なんでもいいですよ。ゴーワンダ教官」
神林教官はこれ以上のフラストレーションを溜めないためにも最小限の対応をしていた。腕を組み、目を閉じ、少しでも苛立ちを抑えようと努力している様子が声色から見なくてもわかる。
「ならばこの際だ、混合で行こう。こちらの生徒代表と神林教官のところの生徒代表を1人ずつ選抜し、くじで無作為に抽出したお互いのクラス生徒4人同士を交換して行うというのは」
話を整理するとつまりこうだ。あらかじめお互いの代表生徒を1人選抜したら、他の4人は他クラスの訓練生をランダムに編成して試合を行うということ。つまり代表生徒が他クラスの生徒の戦闘能力や特徴を深く理解し、連隊の混戦にどう指示を出して行くのか。統率力が問われている。まぁ、お互いのクラスが出す代表生徒など決まっていないようで決まっているものだが。
「それでは神林教官のクラスは鈴鹿岳大がクラス代表を務め、私のクラスからはレオナ・ペンドラゴンが代表を務めるということに決定した」
いつのまにか神林教官の存在意義は失われ、大広間の空間はゴーワンダ教官によって支配されていた。神林教官は鈴鹿にクラス代表を任命すると、後の流れは進行のゴーワンダ教官が務めることになったため、いまのところ神林教官がこれといったことをすることがなかった。
「それでは早速だが、両チームの兵士の役割を担う訓練生を適当に選出させてもらう。今から私と神林先生がそれぞれ適当にクラス名簿番号を4名呼ぶから、該当の訓練生は前に出なさい」
いよいよ始まるクラス対抗戦。いつもの訓練に突如として現れたゴーワンダ教官には驚かされたが、こういうみんなでワイワイ何かをすることはいつもの過酷な日常と違って新鮮だ。実際今の1学年の権能持ちの中でトップレベルの戦いが見られことにワクワクしてる自分もいる。
神林教官は順当にゴーワンダのクラスの名簿番号を適当に選出していくと、該当する訓練生はそのまま鈴鹿の真横に整列した。そしていよいよこちらのクラスが選出される番だ。ゴーワンダ教官が僕らの前に立つと、名簿番号を口にした。
意識が覚醒した瞬間、カナタの目の前にあったのはなんの変哲もないただの白い天井だった。隣からやんわりした声が聞こえたため頭を横に傾けようとも正体不明の激痛が首から頭へと走り、俺の試みは失敗に終わった。
「あまり首は動かさない方がいいわよ。軽い打撲で済んでるからいいけど、下手すれば一生首が動かせない生活になるわ」
とてもじゃないが笑えない冗談に冷や汗を浮かべると、少しずつ今の自分の状況が理解できるようになった。どうやらここは保健室で、僕はあのクソ教官の竹刀で脳天一撃を食らったせいで首やら頭が痛んでいる。そういうことだろう。
「意識はしっかりあるわよね?しばらくそのままの体制でいることね、まぁ私が言わなくても軽い脳震盪のせいで身動きが取れないでしょうけど」
「あの~先生」
「なに?」
俺は変わらず真っ白な天井を見つめたまま、ゆっくりと声を絞り出した。
「今って何限目ですか?」
とりあえず今は自分がどれくらい意識が飛んでいたのか確認をしたかった。外を見るにまだ日が暮れていないからそれほど時間は経っていないと思うのだが。
「今は3限目よ。あなたが運ばれてきたのは1限目だからあれから2時間くらい経つわね。あ、そうそう。後で兵藤さんにお礼を言ってあげなさいね。あなたをここまで運んできたのは彼女だから」
アイツが?案外面倒見のいいやつなのか‥‥いや違うな。きっと俺をここまで運ぼうとする奴が名乗り出なかったのだろう。それで人のいいアイツに押し付けられて‥‥やめよう、想像すればするほどキツい。
「ガーベラン君?」
「そうですか。わかりました。あとでちゃんとお礼を言っときます」
その日は結局体の身動きが取れないまま保健室で1日過ごす事になったため茜に対して感謝をすることができなかった。後日俺は登校時に遭遇した茜に感謝を述べることになるのだが、何故か苦笑いされて終わったのは別の話にしておこう。
頭を教官にかち割られてから数日が経った。まだ後頭部が痛むが、俺は兵士希望の学園生徒だ。これくらいの怪我で怯《ひる》むわけにはいかない。今日も俺は一人の訓練生として、訓練に励んでいた。
「48、49、50!」
額に大量の汗を流して懸命に木刀を振り続ける。単純な行動パターンに見えるがこれが案外キツい。上腕二頭筋だけでなく肩から木刀を振り下ろさなければ負担が腕全てにかかるため、翌朝筋肉痛地獄を味わうことになる。
「よし。素振り50回 50セットはこれで終了だ。次は権能応用訓練に入るが‥‥ガーベラン」
「は、はい」
「今日は始まる5分前に大広間に来ていたようだな。この前の行いを反省しているようで何より」
教官は一度僕に目を合わせると、踵を返してその場から去ってしまった。あくまで教官と訓練生、鞭ばかりで褒めるといった飴はくれないらしい。この後僕たち訓練生は自分の権能にあったトレーニングメニューを行うため、バラバラに散らばった。と言っても俺はそもそも権能を持ち合わせちゃいないため、またひたすら素振りの往復になる。
「さて、今度は素振り100回 50セットでもしようかな」
そう思い、僕は再び木刀を振り上げて素振りを開始しようとすると。先ほどまで閉じられていた大広間の入り口の扉が轟音と共に開かれた。腰に木刀を携えた他クラスの訓練生がぞろぞろと入場し、集団を率いて先頭に歩いていた中年男性が教官の前で立ち止まった。
「これはこれは神林教官今日もお美しい限りで」
「ゴーワンダ教官。どうしました?11時まで大広間は我々の貸切になっているはずですが」
身長はおよそ190くらいだろうか。女性の中ではかなり高身長な神林教官が見下ろされている。
「いやなに。あなたが育成している優秀な訓練生を是非この目で見ておきたくてね。あーもちろん、私の訓練生にもね」
そう言うとゴーワンダ教官は背後に視線を寄せると1人の女子生徒が、ゆっくりな歩調で悠々と訓練生の集団を掻き分けながら姿を現した。
「彼女は」
「おっと!紹介なら私がさせてもらおう。彼女名前は————」
「はじめまして神林教官。私の名前はレオナ・ペンドラゴン。レオナと呼んでもらって構いません。以後よろしくお願いします」
鈴の音のように凛とした声色に、艶のかかった金髪の長髪。そして同じ人間とは思えないほどに対称的なスタイルは彼女を美少女として完成させていた。
「れ、レオナ君?どうして先に言っちゃうの?」
「え?何か言ってましたか?」
おろおろとした態度のゴーワンダ教官に対して、さっぱりしたペンドラゴンさん。側から見るととても歪な関係に見えてしまう。僕が苦笑いを浮かべていると、神林教官は大きく一度咳払いをした。
「で?ゴーワンダ教官。本題に入りたいのですが。私の育成方針を彼女たちに見せたいと言った話でしたよね?」
「‥‥あぁそうだ。是非とも私の生徒たちにも君の教育を施してもらいたい」
「はぁ。まぁそれはいいですけど。先ほど申し上げた通り私たちがここの大広間を支えるのは11時までです。今の時刻は10時45分、残り15分ではろくな指導はできませんよ?」
それを聞いたゴーワンダ教官は生徒を連れて潔くこの場を去る———ことはなく。むしろ先ほどから気になっていた鼻息が一層荒くなり、怪しげな笑みを浮かべた。
「それなら心配ない。今から12時までここの大広間を使うといい」
「というと?」
「先ほど学年主任に許可をいただいてきた。これより11時から12時は神林教官の生徒と私の生徒とで合同訓練を行う」
なんて自分勝手な。クソ上官の分際でいい気になるなよ?と言いたげな神林教官はめっちゃ顔面に青筋を浮かべていた。
「次の授業は講義です。それに我々にも都合というものがあるのですが?」
「講義などしなくとも戦術くらい生徒が自主的に行うものだ。それより生徒たちを成長させるにはもっと大事な事があるではないか。我々教官の最優先事項はレオニド王国に捧げるための屈強な兵士たちの育成だ。それを覆す都合が他にあるかね?」
腕を組みながら長々と偉そうに語ると、鼻で笑って神林を見下ろした。本来ならばキッパリとゴーワンダの挑発を蹴りたいところだが、レオニド王国の名を出された以上、教官の立場である神林は大人しく上司の身勝手な決定に従うしかなかった。
「では、これより15分は今日のメニュー通り権能応用訓練を行い、11時以降は各自自身の扱う武具を使った—————」
「やはりやめよう」
「は?」
クラス別に整列させられた俺たちは神林教官の次なる訓練のメニューを聞いていた中、再びゴーワンダの一声で急遽これからの成り行きという舵を180度回転させられた。
「つまらないとは思わないか?折角他クラス同士が揃っているというのにいつもと同じ訓練に取り組むなど、愚の骨頂であろう」
提案に見せているが、その発言は完全に遠回しに神林の訓練を侮辱していた。わざわざ語尾に嫌味を置いてくるあたり馬鹿でも分かる。
「ならどうしろと?申し訳ありませんが私ができる指導にご不満があるのならご自身でやられたらいかがです?」
「そうだな。そうしたいところなのだが、何か面白い案はないだろうか」
自分勝手で人任せ。もはや救いようのないクズ教官に鉄槌を下してやろうとついに堪忍袋の尾が切れた神林が向けていた背を翻し、怒声を浴びせようとしたその瞬間。
「はい」
先ほど紹介されたペンドラゴンが小さく挙手をした。誰しもが想像しなかった展開に神林を含んだ全員がこの場に静寂を生みだした。1人の男を残しては。
「なにかねレオナ君。あれとは?」
「折角他クラスが集まったことですし。どうせなら盛り上がるものがやりたいと思いました」
「ほう。それで?」
「以上です」
‥‥‥
‥‥
‥
「??????」
全員の頭に文字通りクエスチョンマークが浮かんだ。てっきり何か具体的な提案があるのかと思ったが、まさかの感想を伝えただけだったとは。流石のゴーワンダ教官も口を開けたままだ。
「なら、あれやろうじゃねぇか」
銀髪の少年が列から外れ、ズカズカと大股で前へと進んでいくとゴーワンダ教官の眼前で立ち止まった。
「なにかね?」
「クラス対抗での模擬試合ってのはどうだ。ゴーワンダ教官殿よぉ」
「ほぉ対抗とな。確かにそれはこの場における最適解の選択だな少年」
深い笑みを浮かべると手を2回鳴らした。それは他ならぬ少年の意見を肯定した合図他だった。
君はいい趣向を持っている。折角だ、名前を聞いておこうか」
「あ?んなことどうだっていいだろ。さっさと始めろや」
制服のズボンに手を突っ込み、お淑やかさの「お」の字もない態度を見せる少年。僕はこいつを知っている。もちろん同じクラスメイトということもあるが、それよりも彼の知名度が高いのは家柄ゆえだ。
「鈴鹿龍平君だね。英雄の血筋である鈴鹿家の跡取り。この学園の教官を名乗る以上、君を知らない人はまずいないさ」
「肩書きなんかどーだっていいんだよ。でどうなんだよ?やんの?やらねぇの?」
その好戦的な性格は入学して早々脳内の#海馬_かいば__#に刻み込まれた。入学式が終わったと同時に、彼は片っ端らに神林教官を含めた教官に模擬戦を嘆願した。もちろん大概の教官には断られていたが、興味本位に彼の挑戦を受諾した教官は訓練生のいる公衆の面前で完膚なきまでに大敗したという。それ以後、その教官は学園に姿を見せたことはない。そう言った意味でも鈴鹿龍平という訓練生は学園の教官からの知名度が高いのだろう。
「クラス対抗は大歓迎さ。ならばルールは例年学園とレオニド政府が共同して行う剣戟祭のメイン競技に習って、連隊試合でどうかね?」
「レジメント・スカーミッシュですか。いいじゃないですか?とても盛り上がると思います」
と、ここで再びペンドラゴンさんが登場すると賛成の意を示した。
「よろしいならば神林先生。1つ提案なのですが」
「なんでもいいですよ。ゴーワンダ教官」
神林教官はこれ以上のフラストレーションを溜めないためにも最小限の対応をしていた。腕を組み、目を閉じ、少しでも苛立ちを抑えようと努力している様子が声色から見なくてもわかる。
「ならばこの際だ、混合で行こう。こちらの生徒代表と神林教官のところの生徒代表を1人ずつ選抜し、くじで無作為に抽出したお互いのクラス生徒4人同士を交換して行うというのは」
話を整理するとつまりこうだ。あらかじめお互いの代表生徒を1人選抜したら、他の4人は他クラスの訓練生をランダムに編成して試合を行うということ。つまり代表生徒が他クラスの生徒の戦闘能力や特徴を深く理解し、連隊の混戦にどう指示を出して行くのか。統率力が問われている。まぁ、お互いのクラスが出す代表生徒など決まっていないようで決まっているものだが。
「それでは神林教官のクラスは鈴鹿岳大がクラス代表を務め、私のクラスからはレオナ・ペンドラゴンが代表を務めるということに決定した」
いつのまにか神林教官の存在意義は失われ、大広間の空間はゴーワンダ教官によって支配されていた。神林教官は鈴鹿にクラス代表を任命すると、後の流れは進行のゴーワンダ教官が務めることになったため、いまのところ神林教官がこれといったことをすることがなかった。
「それでは早速だが、両チームの兵士の役割を担う訓練生を適当に選出させてもらう。今から私と神林先生がそれぞれ適当にクラス名簿番号を4名呼ぶから、該当の訓練生は前に出なさい」
いよいよ始まるクラス対抗戦。いつもの訓練に突如として現れたゴーワンダ教官には驚かされたが、こういうみんなでワイワイ何かをすることはいつもの過酷な日常と違って新鮮だ。実際今の1学年の権能持ちの中でトップレベルの戦いが見られことにワクワクしてる自分もいる。
神林教官は順当にゴーワンダのクラスの名簿番号を適当に選出していくと、該当する訓練生はそのまま鈴鹿の真横に整列した。そしていよいよこちらのクラスが選出される番だ。ゴーワンダ教官が僕らの前に立つと、名簿番号を口にした。
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