落ちこぼれ兵士の僕が女子高生の幽霊に助けてもらうのはダメですか?

エリーゼ

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国立魔法兵士学園編

第7話 各々の思惑を添えて

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「ようやくやっと面白くなってきたな。わざわざこんな学園に足を運んだかいがあったってもんだぜ」

 眼光をギラつかせる鈴鹿。それはまさに獲物を前に来た猛虎のようだった。

「やっぱ無理じゃね?流石に相手が悪いって」

「だ、だよなぁ~今から降参すればどうにか‥」

「もう!ハルク君!ラム君!いい加減気合い入れようよ!相手が龍平君だからって怖がらないの!」
 
 いざ試合が始まるという直前に腰が引けた2人に喝を入れたアカネ。顔を膨らませて、プンプンといった文字が出てきそうだ。

「いや、アカネちゃんだって知ってるっしょ?アイツのヤバさをさ」

「それは‥うん。そうだけど‥‥」

 ハルク達との話の中で戦闘訓練での鈴鹿が頭によぎったのか、アカネの口が籠った。手加減を知らない戦い方はいつだって俺たちを驚かせ、毎度戦慄させられている。

「俺嫌だぞ?アイツ相手が誰であっても完膚なきまでにボコボコにするスタイルだから、絶対怪我なしじゃ済まねえって‥‥‥あーあ、アイツが大将だったらよかったのに」

「ちょっと!ハルク君!———ごめんなさい!」

アカネはハルク叱りつけると同時にペンドラゴンさんの元へと振り返り謝罪する。

「ううん大丈夫、気にしてないよ。信頼できる仲間と組めた方が安心できるもんね」

「ま、相手はうちらの世代で最強の相手。胸を借りるつもりでいこうぜ、あんまり気合きおいしないようにな?レオナちゃん?」

 レオナの右肩を軽く叩き通り過ぎていくハルク。先ほどの謝罪に関して全く悪気がないことがわかる行動だった。

「まったくもう‥‥」

 様々な感情や思惑が交錯する中、ゴーワンダ教官の掲げる腕が振り下ろされると同時に狼煙が上げられた。湧き上がる歓声は大広間にいる訓練生全員のボルテージを最大まで高め、これからの激闘を予感させた。

 既に前方ではラムと相手側の訓練生が剣を交えていた。互いに武器が剣ということもあり、近距離戦の接戦を見せていた。本物の刃ではない木刀であるため、重く鈍い音が大広間に響き渡る。

「—————ウッ!!!」

「しゃあぁぁぁ!」

ラムの木刀が見事に相手の肩を撃ち抜くと、相手の潰れた悲鳴が漏れる。その一撃に周りの観衆と化している訓練生達は雄叫びに近い歓声を上げた。しかし相手も鍛え抜かれた訓練生。たった一度のダメージでは決定打にはならない。

「すげぇ‥‥」

 僕も観衆同様に感嘆の言葉が漏れていた。しかし壁に沿って試合を眺めている訓練生と僕とでは立場が違う。ぼーっと油断していると、目の前の砂埃が相手の登場と共に晴れ、躊躇なく斬撃が僕の左手を貫いた。

「————グッッ」

 反射的に距離をとり、目の前の敵に視線を送った。

「何ぼーっとしたんだよあんた。自分が兵隊だって忘れたのか?」

もはやグーの音も返せない正論をかまされると、肉体だけでなく精神的にも抉られた。僕は敵に集中しようと剣を構えた。

「なんだよその構えは!手元震えてんじゃねぇか!!」

 もはや緊迫した戦いなどとは程遠い。笑いながら剣を振り回してくる相手に対し、カナタは的確な防御が決まらず腕や脚、肩など斬撃の応酬を雨の如く喰らい続けた。

「てかおまえ噂の権能なし君だろ?学園史上最弱の訓練生だよな?だって普通こんだけ痛ぶられたら権能使うくらいするよな。ってことはこれがお前の限界値ってことだろ?」

 自身の弱さに打ちひしがれながら、カナタは反撃に転じる暇もなくただただ一方的にサンドバックとして相手の攻撃を受けるしかできなかった。そして放たれる一撃に身を空中で翻しながら後方へと吹き飛ばされる。

「—————痛いッ!!!」

 勢いよくその場に落ちるとコンクリートの衝撃に悶絶する。背中には青痣を作り、激痛が電気の如く駆け抜けた。

「さーてと、痛ぶる趣味はねぇし。さっさと終わらせるか」

 剣を天に掲げて僕を見下ろし、ニタッと笑うと残酷なほどに銀光煌めく刃を振り下ろした。

「アル・ウィンド!!」

 絶望的な状況を打ち砕さんと、一筋の風が刃を纏って放たれる。先ほどまで仁王立ちして僕の前に立ち塞がっていたアイツは予期せぬ奇襲によって体を庇う。

「魔法!?いや違う。魔力を感じねぇし、てことは権能か————!」

「はぁはぁ———ッ!大丈夫!?カナタ!!」

 強風が発生した出どころを見ると、そこには右手の掌を掲げながら息を切らしているアカネがいた。

「————!アカネ!?」

「よかった!無事で!」

 先ほどまでの疲労を忘れさせてくれるほどの満面の笑みを見せるアカネ。どんな状況時でも自分より他人を思いやる精神はアカネが天使と呼ばれる所以《ゆえん》だろう。

「おいおい嘘だろ?男と男のタイマンに水差すんじゃねぇよ」

 先ほど散々俺を痛ぶってきた奴は舌打ちをしながらアカネを睨みつけている。その様は絶好の獲物を取り逃したハイエナのようだった。

「邪魔した覚えはないよ?私は仲間を助けただけ」

「それが邪魔してるって言ってんだよ。てかなに?不意打ちで権能使ってくるとか雑魚のしてくることだから、あんまし調子乗ってると殺すぞ」

「やってみれば?私も1人の兵士志望だし、そう簡単に負けるわけにはいかないけど」

そう言うとアカネも臨戦体制に入る。

「女子の癖に兵士とか。夢見てんじゃねぇよッ!」

 剣を振り上げアカネにかかる。アカネは冷静に対処し、再び手のひらから強風を噴出させる。男は立ち止まり剣を盾のようにして身を防いだ後、アカネに向かって侵攻を続けた。

「しつこいなぁもー」

「そんなモブ権能で俺は勝てると思うなよ!」

 すると男は剣を眩く光らせると、アカネまでの距離が圧倒的に足りない状況であるのにも関わらず剣を振り下ろした。

「はい!おわりぃぃぃぃ!」

 声が裏返り、自信に満ち溢れた表情で男は権能を解き放つ。剣より放たれた斬撃はあたりのコンクリートを擦り減らしながら真っ直ぐにアカネへと突き進む。

「——飛ぶ斬撃!?」

 驚きと同時に反射的にアカネは体を左に反らして回避を試みる。判断がもう少し早ければ逃れたかもしれない。放たれた斬撃はアカネの右腕を確実に貫き、その場に鮮血が散る。

「————ッッッ!!!」

「アカネさん!!!」

 致命傷は避けたものの、傷口からはポタポタと一定のリズムで血が垂れている。今すぐに大声を上げたいだろうに舌を噛んで抑えている。下手に悲鳴を上げれば周りの仲間の心配を買い、隙を作りかねないからだろう。

「油断した‥‥そうだよね、ここは国立魔法兵士学園。兵士を目指す金の卵達が集まる場所。持ってる権能だってそれ相応の強いものばかり」

「だ、そうだぜ?最弱さんよぉ。そんな権能すら持ってないお前は一体なんなんだろうなぁ?」

 黙ってこの戦いの結末を見届けるしかできない僕にそう問いかけると、男はニヤニヤした表情を崩せずアカネもとへとどめを刺そうと歩いていく。

「さぁどうする?もうその右腕は使えねぇよな?ご自慢の風も満足に噴出できねぇよ?」

「そうだね‥‥ねぇ、貴方の権能。とても強いわね、どんな神様から貰ったの?」

 涙目になりながらそう問いかけるアカネ。何か狙いがあるのか雑談じみた話をし始めた。

「あ?なんでそんなことが気になるんだ?」

「別に?ただカッコいいなーって思ったから」

 息を乱しながら、上目遣いで見つめるアカネは妙に色っぽかった。そんなアイドル級に可愛い同級生に問いかけられると大概の男子は喜んでしまう。

 そしてそれはこの男も例外ではない。

「お、俺の権能は天使サブリナっつう天使の加護だよ。力を込めて剣を振ると斬撃が形になって飛ぶようになってる」

「ふーん。そうなんだ、やっぱりいいね。でも、私の権能の方がかっこいいよ?」

「へ?」  

 アカネはいきなり立ち上がったと思うと、先ほどまで後ろに回していた左手を相手の顔面に向けた。

「———アルマ・ウィンド!!!!」

 先ほどの強風とは比にならない暴風が男を襲う。男は言葉を漏らす暇もなく体を反時計周りに回転させながら大広間の天井を貫いて文字通り吹き飛ばされた。備え付けられていた電光掲示板の数字が5-5から5-4に変わる。それは相手の男がアカネの前に敗北したことを意味していた。

 まさに大番狂せの大逆転勝ちに周りの訓練生は雄叫びをあげながら賞賛する。そんな光景の裏でアカネは体力に底がつき、膝から崩れ落ちた。

「ア、アカネ!?」

「ご、ごめん。ありがとう」

肩を貸すと彼女は体が震えていた。聞いたことがある。権能は人によって限度があり、使い過ぎると暫く動けなくなる者や気絶するものなど最悪死に陥ることがあるらしい。彼女は今、権能の酷使で体を酷く弱体化させているのだ。

「ちょっと休むね‥‥そしたらまた動け——ッ!」

体を起こして自力で直立しようとするも、足が震え思いのように動かせていなかった。何度も僕が宥めようとするも、彼女は決して諦めなかった。それまでしてこの試合に何か賭けるものがあるのだろうか。

「無理しないほうがいいって!」

「大丈夫だってカナタ。私はまだ」

「彼の言う通りにして。じゃないと死ぬわよ?」

砂煙を掻き分け突如この場に現れたレオナはアカネの肩を支え、脅しとも忠告とも捉えられる一言が放たれた。

「権能の酷使は体への負担が大きすぎるし、マナだってもう尽きてるでしょ?」

マナとは権能を行使する際に力の必要なのことだ。確かアカネは体内の酸素を代償に風を放出する権能だったな。これ以上権能を使えば酸欠になり、最悪今後の生活にも支障が出てくるかもしれない。

「でも‥‥私‥は、まだ」

眼の光が失われ、彼女はそのままレオンの胸元へと体を預けた。

「彼女はここでリタイア。1人倒してるみたいだし、十分活躍したよ」

レオナはそっと彼女の足を掬い背中に背負うと、その場に駆け寄ってきたクラスメイトの女子達によって医療室へと運ばれた。そのゆくさまをレオナは見届けると、僕の元へと戻ってきた。

「大丈夫?」

「え?」

「震えてるよ?」

アカネのリタイア。その事実に抑えていた緊張や不安が急に溢れ始め、足がガクガクと小刻みに震えていた。そのことを心配してか、僕よりも後方に構えていたレオナは声をかけてくれたのだ。

「君が相手するのは同じ世代で所詮訓練生。魔物でも魔王でもないんだから落ち着いて戦うといい」

「そ、そうですよね。で、でもやっぱり———」

すると彼女は丸めた拳をカナタの胸に添えて囁いた。

「怖い?そうだね。戦うのいつだって怖いよ。でも敵を見誤らないでね。本当の敵はあの人達じゃない」

「え?それはどういう」

問いかけた言葉は空気に溶け込み、レオナは僕の方を見返らずにそのまま敵陣へと進んでいく。

「頑張れとか、君ならできるとか。そんな台詞は言わないよ。だって自分のことを変えられるのは自分自身なんだから」

淡々と吐かれた言葉に心臓がキュッとなる。心のどこかでは彼女からの気休めの言葉を期待していたのかもしれない。

「君はどうして剣を握るの?カナタ・ガーベラン」

こちらに背を向けたまま僕に問いかける。彼女は腰に収められた鞘から一本の刀剣を引き抜くと、麗しい銀光がその場に煌めいた。


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