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国立魔法兵士学園編
第14話 愚者
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「かかってきなさい」
挑発的に手招く化け物。その減らず口をへし折ってやろうと木刀を振り上げる。それはド素人でも避けることのできる見え見えのモーションでカナタは攻撃を打ち込んだ。化け物は振り上げた木刀を掴み上げようと安易に片手を伸ばすものの、カナタの攻撃は化け物向かって放たれることはなかった。それどころか真横を通り過ぎ、木刀は見当違いな方向に強振される。
「いったい何を————」
クルリと体を反転させカナタを捉えようとするが、背後方向に存在を視認することができなかった。すると突然トマトを手で握りつぶしたような軽音が足元より広がる。
「君!?いつの間にそこに?」
問いに答えず。カナタは強く握り締めた木刀を醜い化け物の脚部目掛けてぶち込んだ。
「大振りの木刀に注意を誘い私の視界を特定させる。その後勢いをつけたまま背後に回り死角を突いての反撃ですか」
人間の構造上太腿は大量出血を引き起こす急所だ。故にカナタは困惑している。悲鳴を上げないこの化け物に、淡々と語り続ける化け物に。
「手応えがないでしょう?そりゃそうです。今の貴方の攻撃は、私にとってノーダメージ」
「—————ック!!」
唇を噛み締めると、カナタは急いでその場から離れる。意味のない攻撃を続けることは戦闘中において愚策そのものだからだ。
「偏見ですみませんが貴方は先ほどのお二人に比べて、身体能力も権能も劣っているように見えたもので少々油断していました」
それは賞賛か、愚弄か。どちらにせよ耳障りのいい言葉ではないことは明らかだった。
「ですが小賢しさは幾分か君の方がいい。卑下する必要はありませんよ」
「そうッかよ」
精神を研ぎ澄ませ、気を決して緩ませない。毅然として木刀は奴に向けている。
「その木刀いい質してますね。私の体を撃ち抜いてもなおヒビも入らない強靭さ。流石は王国随一の学園が生み出した業物ですね」
見れば、化け物の黄瞳は僕ではなく木刀に移されていた。
「ですが脅威なのはその木刀だけ。貴方自身が強くなければそれだけですよ」
先ほどから雄弁に語っているだけで攻撃を仕掛ける様子が見られない。一方僕は緊張の糸を解《ほぐ》すことなく臨戦体制を保っている。これではまるで僕が馬鹿みたいだ。
「質問ですが君。RPGゲームをやったことがありますか?」
「は?」
もはやクラスメイト同士で話す内容。どんな質問が飛び込んでくるのかと思ったのだが、これでは無意識に気が抜けてしまうのもしょうがない。
「例えば駆け出しの冒険者が勇者の剣《つるぎ》を装備したとして、それで魔王に勝てると思います?今の君はまさにそれです。どれだけ強い装備をしていようが、元の攻撃力の低い君では私に勝てない」
「そんなの‥‥ゲームの中の話だけだッ!」
さっきの小癪な手はもう使えない。ならもう一騎突撃しかない!その場で踏み込み、石畳を蹴り上げ低い姿勢から特攻する。狙いは奴の腹部だ。今度こそ一泡吹かそうと懐に潜り込む。
「—————ッ!?」
「ゲームも大概馬鹿にするものではありませんよ?それに言ったでしょ?君の刃はわたしに届かない」
攻撃にタイミングを合わせて体を翻し、回避を実行すると化け物は右手に握られた鉄槍でカナタを薙ぎ払った。
「———が、ぐッ」
口の中に鉄の風味が広がる瞬間、白目を剥いたカナタの体が軽々と吹っ飛ばされる。
「ようやくいいのが入りましたかね。ちょこまかちょこまかと逃げられて少々時間がかかりましたが、これで終わりです」
「あ、ぁぁあぁが———」
声にならない激痛が全身を駆け巡る。闘い慣れしていないカナタにとってそれは十分戦意を喪失させた。
————嫌だ。こんな、ところで。
絶望に顔面が歪む。先ほどの攻撃で鼻が押しつぶされたためか呼吸がおぼつかない。それは過呼吸になったのかと錯覚するほどに
「————ぁ」
気がつくと眼前に化け物が立っている。背骨が折れているのか、体を起こして様子を見ることができない。奴の殺気を感じ取ることすらできず、斬撃を目の前に確実な死が頭を過《よ》ぎり———、
「————そこまでよ」
———月光にその身を重ね、黄金の髪を靡《なび》かせながら颯爽と地に降り立つとすさまじい鬼気を纏って世界を支配した。
「——————!?」
カナタも、そして化け物もその威圧感に体を固まらせると、信じ難い光景が青年の瞳に映り込む。
「んな、アホな‥‥ッ!」
僕の頸《うなじ》目掛けて振り上げていた鉄槍は軽快な音を鳴らしながら地面に転がる。すると同時に化け物の千切れた両腕がドス黒い泥を帯びながら真下に斬り落とされる。
「あ、あなたは‥‥」
震えた声で問いかけると、彼女は微笑んだ。怯《ひる》む化け物を目の前に、揺るがない意志を宿すと足を前へと踏み出す。
挑発的に手招く化け物。その減らず口をへし折ってやろうと木刀を振り上げる。それはド素人でも避けることのできる見え見えのモーションでカナタは攻撃を打ち込んだ。化け物は振り上げた木刀を掴み上げようと安易に片手を伸ばすものの、カナタの攻撃は化け物向かって放たれることはなかった。それどころか真横を通り過ぎ、木刀は見当違いな方向に強振される。
「いったい何を————」
クルリと体を反転させカナタを捉えようとするが、背後方向に存在を視認することができなかった。すると突然トマトを手で握りつぶしたような軽音が足元より広がる。
「君!?いつの間にそこに?」
問いに答えず。カナタは強く握り締めた木刀を醜い化け物の脚部目掛けてぶち込んだ。
「大振りの木刀に注意を誘い私の視界を特定させる。その後勢いをつけたまま背後に回り死角を突いての反撃ですか」
人間の構造上太腿は大量出血を引き起こす急所だ。故にカナタは困惑している。悲鳴を上げないこの化け物に、淡々と語り続ける化け物に。
「手応えがないでしょう?そりゃそうです。今の貴方の攻撃は、私にとってノーダメージ」
「—————ック!!」
唇を噛み締めると、カナタは急いでその場から離れる。意味のない攻撃を続けることは戦闘中において愚策そのものだからだ。
「偏見ですみませんが貴方は先ほどのお二人に比べて、身体能力も権能も劣っているように見えたもので少々油断していました」
それは賞賛か、愚弄か。どちらにせよ耳障りのいい言葉ではないことは明らかだった。
「ですが小賢しさは幾分か君の方がいい。卑下する必要はありませんよ」
「そうッかよ」
精神を研ぎ澄ませ、気を決して緩ませない。毅然として木刀は奴に向けている。
「その木刀いい質してますね。私の体を撃ち抜いてもなおヒビも入らない強靭さ。流石は王国随一の学園が生み出した業物ですね」
見れば、化け物の黄瞳は僕ではなく木刀に移されていた。
「ですが脅威なのはその木刀だけ。貴方自身が強くなければそれだけですよ」
先ほどから雄弁に語っているだけで攻撃を仕掛ける様子が見られない。一方僕は緊張の糸を解《ほぐ》すことなく臨戦体制を保っている。これではまるで僕が馬鹿みたいだ。
「質問ですが君。RPGゲームをやったことがありますか?」
「は?」
もはやクラスメイト同士で話す内容。どんな質問が飛び込んでくるのかと思ったのだが、これでは無意識に気が抜けてしまうのもしょうがない。
「例えば駆け出しの冒険者が勇者の剣《つるぎ》を装備したとして、それで魔王に勝てると思います?今の君はまさにそれです。どれだけ強い装備をしていようが、元の攻撃力の低い君では私に勝てない」
「そんなの‥‥ゲームの中の話だけだッ!」
さっきの小癪な手はもう使えない。ならもう一騎突撃しかない!その場で踏み込み、石畳を蹴り上げ低い姿勢から特攻する。狙いは奴の腹部だ。今度こそ一泡吹かそうと懐に潜り込む。
「—————ッ!?」
「ゲームも大概馬鹿にするものではありませんよ?それに言ったでしょ?君の刃はわたしに届かない」
攻撃にタイミングを合わせて体を翻し、回避を実行すると化け物は右手に握られた鉄槍でカナタを薙ぎ払った。
「———が、ぐッ」
口の中に鉄の風味が広がる瞬間、白目を剥いたカナタの体が軽々と吹っ飛ばされる。
「ようやくいいのが入りましたかね。ちょこまかちょこまかと逃げられて少々時間がかかりましたが、これで終わりです」
「あ、ぁぁあぁが———」
声にならない激痛が全身を駆け巡る。闘い慣れしていないカナタにとってそれは十分戦意を喪失させた。
————嫌だ。こんな、ところで。
絶望に顔面が歪む。先ほどの攻撃で鼻が押しつぶされたためか呼吸がおぼつかない。それは過呼吸になったのかと錯覚するほどに
「————ぁ」
気がつくと眼前に化け物が立っている。背骨が折れているのか、体を起こして様子を見ることができない。奴の殺気を感じ取ることすらできず、斬撃を目の前に確実な死が頭を過《よ》ぎり———、
「————そこまでよ」
———月光にその身を重ね、黄金の髪を靡《なび》かせながら颯爽と地に降り立つとすさまじい鬼気を纏って世界を支配した。
「——————!?」
カナタも、そして化け物もその威圧感に体を固まらせると、信じ難い光景が青年の瞳に映り込む。
「んな、アホな‥‥ッ!」
僕の頸《うなじ》目掛けて振り上げていた鉄槍は軽快な音を鳴らしながら地面に転がる。すると同時に化け物の千切れた両腕がドス黒い泥を帯びながら真下に斬り落とされる。
「あ、あなたは‥‥」
震えた声で問いかけると、彼女は微笑んだ。怯《ひる》む化け物を目の前に、揺るがない意志を宿すと足を前へと踏み出す。
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