落ちこぼれ兵士の僕が女子高生の幽霊に助けてもらうのはダメですか?

エリーゼ

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国立魔法兵士学園編

第15話 剣星

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「————ハァハァハァハァ」

「ガルルルルル————ッ!!」

幼女は駆ける。呼吸を撒き散らし、時折迫り来る黒狼を見返りしながら。

「やだやだやだ—————誰か、助けてよ!!」

 現状の修羅場より遡っては、15分前。カナタと別れた幼女は目的地に向かって歩き始めていた。先ほどまでの路地とは異なり体を包み込む闇も反響する不気味な音もないが、1人で夜道を進む覚悟は幼女にはまだ早かった。

「えっと、えっと。もうちょっとで着くよね。まほうへいしがくえん」

 見慣れない土地に掲げられた看板は国立魔法兵士学園までの距離が示されていた。残り450m、幼女は歩き続けることを強いられる。

——————だが

 そこに忍び寄る無数の魔の手。人の悲鳴、馬の呻きを掻い潜り幼女に迫る。

「危ねぇぞ!嬢ちゃん!!」

「———————え?キャッ!?」

 野太い男性の声が街中に轟くと幼女はその身を反射的に翻し、喉元を捉えていた刃は肌を掠める。

「ガルルッ」

「え?お、狼さん?」

 化け物の下僕—————“黒狼《こくろう》のジャバウォック”が牙を剥いた。




————場所は変わり、国立魔法兵士学園に。

「では、今年の剣戟祭も例年の手筈通りよろしくお願いします。騎士様」

年季の入ったスーツに身を包み、丁寧なお辞儀を交わした老人少女の前に膝をついた。

「やめてください教官。わたしもここの学園の訓練生なのですから、そのような呼び方は」

「む?そうですかな?しかしわたしも立場というものがありますのでご勘弁を」

 冷静に狼狽えるという矛盾を兼ね備えた少女を前に老人は軽く笑った。

「では教官、私たちはこれで」

「はい。それではお気をつけてお帰りくださいペンドラゴン訓練生」

 学園の制服を着こなした男女2人組は玄関の前で一度頭を下げると、その場を後にした。

「レオナ様、本日のご予定はこれで全部です。お勤めご苦労様でした」

「そう。了解よアルト」

 その瞬間、レオナは頭に針を刺すような嫌な気配を察知する。

「では一刻も早くお屋敷に——————「静かに」

 帰途に着こうとするアルトを張りのある声で制止すると、周りの気配に全神経を寄せた。

「———————」

 この状況が読めず、ただただ呆然《ぼうぜん》とアルトは目を瞑って集中している彼女を見つめる。

—————タスケテ

 レオナは空色の瞳を開眼させると、煉瓦の歩道を蹴りつけて自信を跳躍させると夜空を駆け抜けた。

「レオナ様!?」

 驚愕するアルトを置き去りに目的地へと向かうその道中、大勢の住民が一つの方向に向かって走り続けている。蟻の行列のように連なる大移動の最終尾、吹き抜ける風に目を擦りながら視線を移すとそこには6歳にも満たない幼女が腕を懸命に振り、迫り来る狼から逃走する様子が見えた。

 レオナは幼女の進行方向に降り立つと、腰に携えていた鋼の剣を引き抜く。

「————お願いッ!お姉ちゃん助けて!」

 何度も立ち止まりたくなるほどの疲労感に襲われるも少女は走り続けた。何度も自分を鼓舞し、学園に辿り着く想いを一心で。

「大丈夫だよ、今助ける」

 その時、幼女の足は綻び倒れ込んでしまう。レオナの元へと辿り着く前に。

「ガルラァァァァァァッッッ」

 標的を捕らえるために一瞬の殺気を纏い、無数のジャバウォックは少女の頭目掛けて飛びかかる。

————するとレオナの斬撃は光の速さでジャバウォック達の喉元に辿り着くと、空中で爆発音を纏いながら消滅させた。

「————え?」

 今この瞬間に自分の肉体が貪られることを想像していた少女は、自分の四肢がもげていないことに安堵すると共に目の前の惨状に困惑した。

「大丈夫?」

「え?あ————」

 自分は助かったのだと自覚すると、少女の瞳に光が宿る。

「わ、わたし。その、ママを探してて。それで、えっと、えっと—————そうだ、学園に」

「学園?」

 レオナが少女の言葉を繰り返すように呟くと、背後からハイテンポの足音が聞こえてきた。

「レオナ様!お体は!お体は大丈夫ですか!?」

「アルト落ち着いて、私は大丈夫だから」

「そ、そうですよね。私がレオナ様のご心配をするなど身の程を弁えていませんでした」

 側近の過剰な心配症に少しだけ鬱陶しさを覚えると、レオナは再び少女に向き合う。

「それでどうしたの?学園に何か用事でもあったの?」

「えっと、えーっと」

 突如として巻き込まれた騒動に頭の整理が追いついておらず、幼女は本来の目的を正確に伝えることができない。自分の身が助かったことに救われたことにいっぱいだからだ。

「ゆっくりでいいから。思い出せる?」

「あの‥レオナ様。話は住民からの早馬で聞いていますが、野良の狼がこの幼女を襲っていた。ということで大丈夫でしょうか?」

「‥‥私も詳しいことはわからないんだけど、ここにきた時には襲われてた」

状況をアルトに説明しながらレオナは”野良の狼”という単語に引っかかっていた。あの狼達が野良だと言うのであれば、集団でそれも集中的に1人の幼女を襲うことがあるだろうか。

「お兄ちゃん」

「え?」

 呟いた言葉は予想外のものだった。

「お兄ちゃん。そう、お兄ちゃん!わたしお兄ちゃんに学園に行けって言われたの!」

「お兄ちゃん?貴方の?」

 少女は首を横に振ると、全てを思い出したのか自分の身に起きたこと、ここまできた経緯を詳しく私たちに説明してくれた。

「なるほど。つまりこの子は母親と近辺の路地近くで迷子になってしまい、偶然その場に現れた訓練生に助けられたと。それにしても酷い話です、どうせなら己の責任を果たして最後まで付き添ってあげればいいものを」

 アルトは見知らぬ訓練生を嘲笑うかのように鼻で笑うと、少女を憐れんだ。

「そうやってすぐ話を折って自己完結するのは貴方の悪いところよアルト。ねぇ貴方、その訓練生がどこに行ったのか分かる?方角だけでも分かるとありがたいんだけど」

「えっとね、あっち!」

 少女が示した方角は私たちが来た方向とは真逆だった。

「あそこはキヨ商店がある方角ですね。特に何もないと思いますが‥‥‥」

「貴方はこのことを学園に報告した後、連合本部に連絡して」

「へ?レオナ様一体——————」

「嫌な予感がするの。万が一の事を想定してあの辺り一帯を確認してくるわ」

 少女が来た指差した方向は路地が集まり光が差さない暗黒の地域。ただの胸騒ぎで終わればいいのだが、私の場合は少々事情が異なる。

「レオナ様?—————まさか!」

「私の権能が発動している。間違いなく何かがあそこで起きている。少女と出会ったという訓練生もきっとそこに」

「わ、わかりました。しかしレオナ様が行かれなくとも私が—————ッ!」

 アルトは自分の実力を過信してはいない。それは日々レオナとの立ち合いで己の弱さを実感しているからだ。それでも同年代の訓練生の中では戦える方だとは思っている。だがそんなレオナも息を呑み、まだ見ぬ敵を睨みつける威容さの前では軽く提案などできるはずがなかった。

「わかりました。お気をつけて」

「うん。ありがとうアルト」

 レオナはアルトの頭を撫でると、静かに立ち上がる。

「あ、あの!お姉さん!」

「ん?」

 恐怖の震えが治まったのか、幼女はこの場を離れようとするレオナを止めようと呼びかけた。

「あの—————お名前を!教えてください!」

「レオナ・ペンドラゴン」

アルトはその場に跪《ひざまず》くと忠誠を誓うと共に、レオナの出立を見送った。






















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