落ちこぼれ兵士の僕が女子高生の幽霊に助けてもらうのはダメですか?

エリーゼ

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国立魔法兵士学園編

第16話 六手のサガ

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「‥‥ペンドラゴン、さん?」

「お待たせ、カナタ君」

 地を張り、あらゆる骨が砕けたカナタを振り返るとレオナが優しく微笑む。

 模擬試合に感じた時とは異なるオーラを纏《まと》って化け物と立ち合っている。僕と言葉を交わすこの一瞬にすら隙を見せない姿はまさに剣士の理想を体現していた。
 
「ちょいちょいちょい。いきなり現れてなんです貴方?初対面の相手を斬り刻むとか正気の沙汰じゃないですよね?」

「その割には随分元気そうね。普通四肢がもげたら人間死ぬと思うけど?」

 それは嫌味でもなく、純粋に疑問を抱いた事をレオナは尋ねた。

「人間ですか‥‥久しぶりに言われましたよ。それよりもアナタ、私の肉体を見てちっとも動揺しないところを見ると相当戦い慣れていますね」

「そういう貴方こそ、よくこの状況で余裕を持っていられるね。もう身動きも取れないだろうし」

 斬られた切り口を庇いながらレオナの話を聞いていた化け物は不気味に口角を上げると、信じ難い能力を披露する。

「———————ッ!」

 血の滴る腕の接合部から大量の泥を噴き出しながら、失われた腕を複製した。

「いやはや驚きました。まさか人間に、それも子供に切断されるとは」

 産み出した腕を曲げて伸ばしてを繰り返すと、レオナの瞳の奥をギロリと覗き込む。

「予定とは狂いましたが、たかが子供4人の遊び相手。サービスとして受け入れますよ」

 その刹那——————レオナは鋭い呼吸を放つと、化け物の心臓目掛けて一閃貫いた。しかしその刃はあと少し届かず、剣先の先端部が化け物の手刀によってへし折られる。

「子供と申し上げましたが前言撤回します。貴方は強い、恐らく純粋な速さでは私を上回る」

 剣士にとって剣が折られるということは丸腰同然を意味する。攻撃手段も防御手段も失ったレオナは化け物の手刀によって左肩を撃ち抜かれると、苦痛の雄叫びを上げずに負傷した右肩の出血を抑える。

「ただそれだけ。やはり勝負においてものを言うのは圧倒的なパワーです。貴方達にはそれが足りない」

 そんなまさか‥‥‥僕は目の前に起きている状況に強い絶望を感じていた。鈴鹿を圧倒し、模擬試合ではチームを完勝に導いたペンドラゴンさんならこの状況を打破してくれると。

 しかしそんな淡《あわ》い期待は化け物の前では簡単に破壊される。誰もこの化け物には勝てないのだと。見たくもない現実を突きつけるように。

「貴方は面白いのでもう少し戦いたいところですが、私も依頼された仕事を片付けなければなりませんのでね。次の一回で最後です」

 すると化け物は無尽蔵の泥体から木刀を一つ抜き出すとレオナに向かって投げ捨てた。

「この剣を使いなさい。先ほどあの少女から抜き取ったものです」

「‥‥‥‥‥‥」

「どうしました?それとも先ほどの一戦で戦意を喪失してしまいましたか?」

 そう言うと化け物は一度僕を見て鼻で笑う。恐らく僕との戦いのことを思い出しているのだろう。

「最初は護身用に持ち合わせた剣で貴方を生捕りにしようとしていた。けど余裕を持って貴方とやり合うのは今の私には荷が重いみたい」

「負け惜しみですか?自分の愛剣であれば私を倒せたと。貴方も先ほどの少年たちのように兵士を名乗るのなら死に時くらい潔く————「だから、貴方を本気で叩き潰そうかな」

 化け物が話す台詞を決意の籠もった覇気のある言葉で両断すると、暗黒の天に向かって右手を掲げた。

「聖天使グネヴィア、星剣ランスロットを我が手に」

 世界の神が彼女の言葉に応えるように聖なる光が黒雲を引き裂き差し込むと、豪華な装飾が成された一本の刀剣が天より授けられた。

「さぁ、第2ラウンド開始だよ」

白光を纏ったその剣は彼女の腰に収められると、鞘より美しい黄金色の刀身が引き抜かれた。

「どうやら、実力を見誤っていたのは私の方かもしれませんね」

化け物の視線に目を合わせ、優しく微笑むと。

「———————いくよ」

 その笑みからは想像のつかない斬撃が放たれる。カナタの目にはその場で素振りしたように映ったのだが、化け物は苦悶の表情を浮かべて引き裂かれた胸元を押さえつけていた。

 それは紛れもなく、彼女が放った攻撃だという証明。

「形成逆転とはまさにこのことなのでしょうか。今貴方が行ってみせた攻撃、私は捉えることができませんでした」

 見ると化け物はお決まりの行動を取ることをしなかった。相手の攻撃を嘲笑いながら自分の傷を再生する。その能力に僕は戦うことを何度挫かれたことか。

「まったく‥‥今日は久しぶりの経験が多すぎますね。この苦痛も今のいままで忘れていました」  

「そう‥‥これからさっきの攻撃の比にならない苦痛が貴方を襲うけど。覚悟してね」

 神々しさすら感じる宝剣を振り上げ、化け物に剣筋を合わせると再び先ほどの斬撃を放つ。しかし化け物はその身を翻して攻撃を回避すると、怯むことなくレオナに向かって駆け出した。

 伸ばされたその右拳は確実にレオナの顔面を捉えると、そのまま勢いを乗せて殴りつける。

 しかし反響したのは鈍い音ではなく、金属同士がぶつかり合う摩擦音だった。見ると化け物の手には鉄製のナイフが握られている。

「貴方、体にいくつ武器を仕込んでいるの?」

「さぁどうでしょう?貧乏性ですので色んな武器を蓄えてしまうんですよ。しかし驚きましたよその反応速度。私の攻撃見切ってたんです?」

「まさか。相手の、それも初対面の人の武器を把握するほど強力な権能は持ちわせていないの」

 そう淡々と言葉を交わすと、レオナは光り輝く剣を振るい上げて巨体を吹き飛ばす。化け物は大きな手を地面に張り付けて衝撃を減らすと、今度は手から無数のクナイを放った。

「今度はクナイ‥‥ほんと多種多様ね」

「これも無理ですか?何度も言いますが先ほどまでの優勢が嘘みたいですよ。手抜きされてたなんてショックやわ~」
 
 ポンッと頭を叩くと化け物は「参った」と言って笑ってみせる。それはこの緊迫した一戦に似合わないものだった。

「————次で終わらせるよ?この剣での峰打ちは今のわたしの腕じゃできないから」

「死刑宣告。そうですか‥‥残念です」

 自身の死を前に化け物は冷静にレオナの言葉を受け止めていた。しかし————全てを諦めたではなかった。

 彼女が剣を天に向けて振り上げ、斬撃の構えを取ったその瞬間。化け物は今、身に生えている2本の腕より下半部からさらなる新しい腕を”4本”複製した。

「なっ———————ッ!」

 化け物は咄嗟に懐まで距離を詰めると、ナイフをレオナの柔肌に突きつけた。

「———ッ!!」

 今度こそ凶刃はその効力を存分に発揮し、確実に傷口を開かせた。

「第3ラウンド開始。ですかね?」

 レオナは斬撃の予備動作を強制中止させると、すぐさま後方へと距離を取る。

「手が‥‥どういうこと?」

「真の実力を隠す。それは貴方の専売特許ではなかったというただそれだけのことですよ。流石の私もあのままでは貴方に及ばないので、こちらも本気を出させていただきます」

 化け物はいつの間にか複製されていた胸から4本の槍を取り出すと、余っていた4本の腕に装甲する。

「改めて————私の名前はサガ。周りの人間からは”六手《ろくて》のサガ”と呼ばれています。差し支えなければ、貴方の名前を教えてもらってもよろしいでしょうか?」

 その瞳には、今までの奴の態度からは想像できないモノが宿っていた。これから行うのは命のやり取り。真の強者と強者の覚悟の交わり。当然、この場に僕がいることは場違いだ。それでも、僕の我儘を貫いてでも、この2人の闘いの行方を見届けたい。

 レオナはその身に剣気を纏わせると、青く、煌めいた眼でサガを見上げる。その姿はまさしく闘神。今まで立ち合ったことのない己にとっての最恐の敵。すなわち—————相手にとって不足なし。

「調停騎士、レオナ・ペンドラゴン」

 雌雄を決する最終局面が今、火蓋を切って落とされた。
















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