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chapter one

10.染まる夜 *ミリアside

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さて、と一呼吸置いてご主人様を起こさないように静かに立ち上がる

私は、ご主人様を抱えながら外へと繋がる階段を登る

階段は、扉で終わっている

その扉を開けると光が差し込んできて眉をひそめた

不思議なことにその先の部屋には、誰もいなかった

何事もなかったように出口へと向かう

「おい!そこに誰かいるな
とまりやがれ!!」

ともうすぐ出口というところで大声が響く

「裏で仲間が殺されていやがったがてめえの仕業か!」

それに続いて部屋に数十人の男たちが入ってきた

「…おや、気付かれてしまいましたか
さすがに長く話し込みすぎましたね
せっかく時間稼ぎに派手に殺ったのですが」

この方達の相手をするのは、ご主人様をお屋敷に運んでからと思っていたのですが仕方ありません

男達の顔が怒気に染まっていく

「てめえここから逃げられると思うなよ」

すでに周りをぐるりと取り囲まれていた

にしても逃げるとは、滑稽ですね

彼らの頭の中には、女のしかも荷物を抱えた者に負けるという思考はないようです

「そちらこそ、ご主人様を傷つけておいて逃げられるとお思いですか?」

その場に似つかわしくない笑顔を浮かべる

ご主人様の腕や足には、小さな擦り傷があった

おそらく縄で縛られた時や運ばれる時にできたのだろう

何より心の傷に塩を塗ってくれたのだ

孤高であり聡明

しかし、まだ小さく弱い我が主人

そんなご主人様を傷つけた

それを許すつもりなど毛頭なかった

「ご主人様を苦しめたその対価
貴方様の命で購っていただきたしょう」




その日の夜ある街で長い間、自警を困らせていた組織が唐突に姿を消した

彼らの潜伏先と思われる場所には、何も残っておらず

ただ鉄錆の匂いがする紅に染まった部屋を残すのみだった
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