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chapter one

9.暗闇のなかの孤独な世界

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しばらくの時間がたって、少しずつ涙がひく

「…笑いたければ笑え」

落ち着きを取り戻したアベルが拗ねたように言う

「いえ、ご主人様が元気になられたようなので」

確かにアベルの顔色は、明るさを取り戻していた

「ふん」

アベルは、照れているのかそっぽを向いてしまった

「…昔の話を聞いて貰えるか」

再び静寂が訪れるかと思われた時ぽつりと呟いた

「ご主人様が望まれるなら」



それは、まだアベルの父親が生きていた頃の話

当時二桁にも満たない年齢であった

アベルは、未来ローデンベルクの家督を継ぐものとしてそれにふさわしい教育を受けていた

朝昼晩問わずに部屋に引きこもり国の情勢、歴史などを頭に叩き込まれた

それでも心が折れずにいられたのは、父の存在によるものだった

彼が満足のいく結果を出すことができたときのみ『よくやった』と一言をこぼす

たったそれだけのことだがアベルには、それで十分だった

その一方で父の期待に応えられなかったとき

彼は、アベルを薄暗い地下室に閉じ込めた

そこには、窓も明かりもなく

自身がそこに存在するのかさえ疑うほどに冷たかった

なにより、自分が独りであることを否応なしに感じさせる

「だから、暗く閉じた場所は嫌いだ」

自身の視界を闇で埋め尽くされた先には、途方も無い孤独感がまっている

「…俺は、独りなのだと」

闇に慣れてきたミリアの瞳には、未だ震えるアベルが写っていた

「ご主人様、今は独りではございませんよ」

ミリアは、震える手を握り暖かい笑みを浮かべる

「私も、ナキア様も、屋敷の使用人も貴方様のお側におります」

それを聞いて戸惑った様子を見せるが少し微笑んで言った

「ナキアの奴は、側にいられても暑苦しいだけだがな」

そんな悪態を言えるくらいには、元気を取り戻せたようだ

気が緩んだのかアベルは、あくびをかみ殺す

「ご主人様、お疲れでしょう
私が運んで帰りますのでお休みになってくださってかまいませんよ」

「いや、しかし」

初めは抵抗したものの睡魔に勝てずまぶたを閉じた

ミリアは、アベルを左手に座るように抱えた
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