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〈六〉
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キスしている。ローテーブルの向こうで、筋骨逞しい上半身裸の大男が長い髪の女をソファに押し倒してずっと、ひたすらにキスをしている。男は幼いころからの幼馴染みで、女は自分の恋人だ。
悟は悶々とふたりを見守りつづけた。
――いつまでこんなこと、続けるんだ?
山田来明瑠との浮気がバレたから珠緒も同じことをすればチャラになると、自分からふたりに頼んでおいて、悟はやきもきしていた。
無茶ぶりだったのに。
――ほかの人とそんなこと、できない……。
恋人の珠緒は真面目で身持ちが堅い。そういって断るだろうと思っていた。
兄のように慕っていた幼馴染みの大助は逸物が大きすぎて相性のよい器の持ち主と出会えていない。以前紹介した山田来明瑠は男をとっかえひっかえしそのことを隠しもしない性豪だ。だから大助ともできるだろうと思ったのに
――太すぎて入んないよ、あんなの。
即破局してしまった。だから大助は女に飢えている。がっついて強引にアプローチするだろうから途中で止めてやれば自分と別れると言い張る珠緒も
――やっぱり悟がいい。
態度を軟化させるはず。けしかけたのが悟であっても真面目な彼女は「悪いことをしてしまった」と落ち込むはずだ。そこにつけいるのも悪くない。これだけ謝って下手に出ているというのに、別れるといってきかない珠緒がよくないのだ。素直になればいいのに。――ちょっとばかしお灸を据えて怖がらせてやれ。
大助はどうせ女と最後までできないし、弟のようにかわいがっている悟に弱いから本気で止めればいうことをきっと聞いてくれる。賢くてごく常識的な男だから二重三重に恥をかくくらいなら手を引くだろう。
その程度の軽い気持ちだった。
厭がる珠緒のためにすぐ止めに入ってやるつもりだったのに、どうしてこうなった?
ふたりは今日初めて出会ったはずだ。
上半身だけ裸の大助はともかく、珠緒はまだ服も脱いでいない。愛し愛されるさまに目が眩む。よく知るふたりが、まるで悟の知らない男女のようだ。
初めは唇をただ重ねてくっつけるだけのキスだったのに、途中から舌を絡め深く口づけ合っている。大助の唇が離れ何ごとか囁きながら耳や首すじへ向かうと
「や、……ぁ、んっ」
珠緒がかくかくと身を震わせながらいやいやと顔を振る。まるでキスをねだっているかのようだ。嬉しげに大助が覆いかぶさり抱き締める。
頭や背中を撫でられただキスをしているだけなのに。
飽きが来るくらい抱いて珠緒の体など知り尽くしているつもりだった。いや、知り尽くしているからこそ分かる。地味な服や下着の縛めの奥で珠緒は陥落寸前まで淫らに蕩けているに違いない。
悟は忘れている。
つきあい始めて一年半、実家の家族より仲のよい大助に珠緒を会わせなかったのには理由があった。
格上の自分に惚れ込んでいる珠緒に心配は要らない。
問題は大助だ。
美形なのにきりっとしていて男を寄せつけず、巨乳で色気があるのによくよく見なければ分からない、そんな女が大助の好みだ。
すっかり忘れていた。大助が好きになりそうな女だから、何度断られても落ちるまで告白しつづけたんだった。
一見地味に見えて、恋人の珠緒は美しい。真面目で堅物だから味気ないかと思いきや、凜とした佇まいに隠された肌は快楽に敏い。大きな乳房がやわらかくてやさしい。
――乳首はチョロいし、大きいだけでだらしないおっぱいだな。
からかうと恥ずかしそうにする珠緒がかわいくてたまらなくて、卒業論文執筆で会えなくなるまではいじめたりわざと焦らしたりぞんざいに扱ったりしていた。
こんなことになるなんて。
ほかの男の愛撫に応える恋人の甘い喘ぎ声に涙が流れる。なぜあそこでキスをしているのが自分でなく、大助なんだ。自分が言い出したことだ、自分のせいだと分かっていてももどかしく悔しく、妬ましい。股間が熱い。痛い。
* * *
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