錦秋

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〈七〉


 どん、と目の前に勝五郎が座った。びし、と背筋を伸ばすと剣術で鍛えているだけあり逞しい体がますます大きく見える。
 その巨躯をゆっくり屈め、膝近くに転がっていた張型を拾うと

「……」

 勝五郎は手の中のものをじっと見た。片手で布を広げ器用に張型を包み、「はい」とるいに手渡した。しまえということだろう。手箱におさめるとずい、と大きな掌が差し出された。

「そちらの本を」
「――はい?」
「見せなさい」
「――――はい」

 おずおずと床に落ちていた作法書を手渡す。勝五郎は添え木で固定された左手もうまくつかい、作法書に目を通した。ぱらりぱらりと読み進めるうちにだんだんと表情が険しくなる。
 駄目だ。嫌われた。きっと蔑まれる。
 るいは乱れた裾をなおし、かけ衿をぎゅっと握りしめた。

「――先ほどのあれを」

 勝五郎は作法書に落としていた目を上げ、ちらりと手箱を見やった。古ぼけた蒔絵まきえの箱には張型が入っている。

「使ったことは?」
「つ、使うというと、その……」
「るい殿の秘所をあれで突いたことがあるか否か、聞いている」
「入れるのはその、――まだ、ありません」
「さようか。よかった」

 勝五郎は小さく安堵の溜め息をついた。

「あのようにささくれだらけでは、痛かろう。怪我をする」
「や、やはり」

 自棄やけを起こしてあんなもので突き破らなくてよかった。
 晩年の御婆はぼけたわけではなかったが、手先の器用さを失っていた。亡くなる間際にこしらえた張型も満足のいく出来ではなかったかもしれない。

「さて、――ざっくり目を通したが」
「はい……」

 るいは首すじまで真っ赤になった。作法之書、などと題がついているが、春画と見まごうばかりの挿絵がたくさん載っている。恥ずかしい。責められなじられるだけならまだしも、蔑まれ侮られでもしたら――。
 ぎゅ。
 るいは震える手で寝間着の衿を握りしめ、うつむいた。雛のようにいとけなく自分を慕ってくれていた勝五郎に弄ばれ捨てられる未来が目に浮かぶ。御婆のいっていたとおりだった。貴人以外の男を迎え入れてはならない。いくら自分が所詮不出来な乙女だからといって、貴人でない男と親しくするなどとんでもないことであった。

「るい殿の稽古にはかばかしい進展が見られない、と――」
「はい?」

 顔を上げると、勝五郎は大まじめに作法書を読んでいた。目に蔑みや侮り、揶揄やゆの色は見えない。

「悩まれておいでかとお見受けしたのだが、――違ったか」
「ちが、違いませんっ」

 るいは洗いざらいぶちまけた。
 作法書の手引きどおりにほぐそうとしても秘所が潤わないこと。指二本でほぐし貴人を迎える準備を調ととのえなければならないのに、それができていないこと。自分が乙女として不出来であるばかりに貴人の訪れがないこと。おそらくは貴人の御たねをいただけないまま里が滅びてしまうこと。
 そっと閉じた作法書を膝に載せふむふむと、真剣に聞き入っていた勝五郎が口を開いた。

「るい殿が不出来だとは思わぬ」
「でも……」

 勝五郎は作法書を横に置きずい、と膝を進めてくる。ふたたびうつむくるいの手を取ると

「お手伝いをいたそう」

 ぎゅ、と握った。
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