僕の異世界、私の世界~アーク大陸冒険起譚~

まるふじ らん

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第一章 『誰が為の異世界』

07 『【速報】二十五歳男性、異世界へ【悲報】』

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端書き

 初めまして。
 
 まず始めに、君がこの本を読んでくれたことに対して、深く感謝する。
 思えば作家もどきの人生であった。
 しかし今では誰かに読んでもらえているということが堪らなく嬉しい。
 そして何処の誰かも知らない君がこの本を読んでいるということから一つの事実が浮かび上がる。
 それは君がまさしく私と同様に数奇な運命を辿ることとなった一人の人間であることだ。
 この本を読むことで、この世界を生きていく上での知識の糧を手に入れれば私は大いに満足である。

 さてこの本は私がこの異世界を旅した軌跡が記されている。
 旅先でこまめに書いてきた日記を、誰にでも読みやすいよう小説風にアレンジしたものだ。

 従ってこれは大層立派な物なんかではない。
 しかしながら、ここに書かれていることは紛れもない真実である。
 私が以前綴ったような空想世界の書き直しが有効な物語では断じてない。
 どうか荒唐無稽なものであると一笑に付さず、理解して頂きたい。
 願わくば、私が記したこの足跡が縁ある者の目に留まり、世界を動かす礎にならんことを。

 世界の真実を突き止めんことを。

 心の底から祈っている。



「…………」

 これはまさしく夢なのだろう。

 私は現在見慣れない大地を踏みしめている。

 地平線の彼方を覗かせる広大な草原、あちこちに点在する樹木。
 大地を覆うコバルトブルー色の大空、空中を旋回する複数の鳥類。
 さながらアフリカのサバンナを彷彿とさせる、大自然の雄大さについ見惚れてしまっていた。
 このような光景はそうお目に掛かれるものではない。
 ましてや、私が家族と暮らす場所では、緑すらも少なかったほどだ。
 そこで改めて、私は現在の状況を思案してみた。

 明晰夢というものをご存じだろうか。

 普段の私たちは睡眠中に夢を見る際、夢か現実か区別が付かない。
 だが極稀に、自分が夢を見ていると自覚することが出来る場合があるという。
 それこそ明晰夢というものであり、その夢の中では自分の思うがままに状況を操れるらしい。

 空気の澄んだこの空を自由に飛行する姿を思い描く。
 翼で飛ぶのではなく、重力を意識させないような浮遊を実現したい。
 眼前に広がるこの光景が夢であるのならば――。
 私は思い切って地を駆け出し、その勢いに乗じて高く跳躍した。

 ――ドスンという鈍い音を鳴らしながら、私は再びこの大地に降り立った。


 実に滑稽である。反動で腰が物凄く痛い。

 書斎に籠りがちな二十五の男性に、過度な運動は禁物だと身に染みる。
 また、痛みを感じても一向に夢から醒める気配は無い。
 ならばと、目を瞑りこの大地を自由自在に疾走することが可能な巨躯の馬を思い起こす。
 モデルは戦記ものの名作に登場するあの赤い馬だ。
 かの豪傑と幾多の戦場を渡り歩いた英傑に、乗馬してみたいと幼心に思ったものだ。
 これは夢である。これは夢である。これは夢である――
 数分程経過しただろうか、どこからか何やら視線を感じる。

「…………」

 尚も修行僧の如く目を瞑っているものの、その感覚が途絶えることは無い。
 私はとうとう堪え切れなくなり年甲斐も無くワクワクしながら目を見開いた。



「デッデッデ!」
「…………」

 そこには馬の影も形もなく、一羽の鳥らしき生物が物珍しそうにこちらを見つめていた。
 何故私が鳥らしき、という曖昧な言葉を使ったのか。
 その根拠は背中に背負う特徴的な翼だ。
 何を隠そうこの鳥もどきには翼が四枚存在している。
 私たちに馴染み深い鳥類の双翼の上に更に翼が生えていた。
 驚きで言葉が出ない。これは本当に鳥なのか。

 それに私が知る限り、こんな鳴き声を持つ鳥はいなかったように思える。
 ある意味、夢のような邂逅であった。
 私が微動だにせず呆けていると、奇怪な鳥のような生物は満足げに先程の奇怪な鳴き声を上げながら、無遠慮にバサバサと翼をはためかせ、辺りを旋回する仲間の元に飛び去って行った。

 実に、滑稽である。少し目頭が熱くなってきた。
 ここまで来ると、当然の様に疑問が浮上する。

 これはまさしく夢なのだろうか。

 生い茂る草の独特な香り、不安から生じる冷や汗、鳴き喚く鳥の存在。
 草原を撫でる風の音、そして変わらず目の前に展開されているこの光景。
 私の持つ五感は、これが現実であることを如実に示していた。
 夢である可能性が消えた訳では無い。
 しかしながら、あるべきものを否定し直視出来ないようでは、いつまでたっても事態が好転することは無いだろう。

 作家という職業柄、こうした内容を題材とした物語にも心当たりはある。
 なるほど、まさに現実は小説より奇なり。
 私はもしかしたら、噂に聞く異世界とやらに紛れ込んだのかもしれない。
 その理由などは皆目見当も付かない。
 死んだ覚えもまるでなく、元の世界に未練は山ほどある。
 それでもこの奇天烈な世界を見せつけられたら、嫌が応にも納得するしかない。

「この年齢で異世界召喚とは……」

 召喚する人間を間違えたのではないだろうか。
 そんな意味も込めながら呟いた言葉に勿論返事は無い。寂しい。
 仕方ない。誠に不本意ではあるが仕方ない。
 この新しい世界で生きていこうではないか。
 そして見つけ出そう。
 この当ての無い新しい世界からの戻り方を。

 そんな決意を胸に私は誰に言われることも無くトボトボと歩き始めたのだった。
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