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プロローグ 『受け継がれし光』
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絶体絶命、それはこんな場合を指すのだろう。
「おじさん!ただでさえ狭い空間なのになんでそんなに足を広げてるのさ! もっとこう……折り畳んでよっ!」
「無茶を言うでないわいっ! 巨人とて生き物なんじゃぞ!?お前たちを踏みつぶさんようにするだけありがたいと思うがよい!」
「これだから巨人族は……もっとこう私たち無何有の民みたいに慎ましさを持ちなさい!」
「なんじゃとー! お主は慎ましいんじゃなくてちっこいだけじゃろう!」
「小さくないですー!これでも集落の中でも大きい方ですー!あんたたちが大きすぎるだけなんですー!」
「ちょっと二人とも!落ち着いてよっ!」
ギャーギャー喚き散らす二人を横目で流しながら、意識を前方に集中する。
獲物の肉を削ぎ落とす為に迫る強靭な牙を盾で受け流し、僕は反撃に転じる。
ここに来るまでに散々戦ってきた魔物だ!その弱点は分かってる!
突進による勢いのある攻撃を躱されたそれは、勢いを殺されたことで対象を見失いながらよろめく。
俊敏な動きを得意とする魔物モーム。
瞳の位置を考えるに奴の視界は前方のみに集中している。
そのすれ違いざまを好機と捉えた僕は、身を翻しながらその胴体を寸断する。
しかし――
「堅いっ……!」
振り下ろした剣はやつの肉に食い込みはするものの、僅かに届かない。
度重なる戦闘で剣そのものが痛んでしまったのか……?
僕の動揺する隙をつき、別のモームが襲いかかるっ!
「ミヤっ! どきな!!」
先程の罵り合いを見せていた者と同じとは思えない、凛々しい声が響くと共に。
短剣と長剣を両手に携えた戦士が二体のモームの頭部を一瞬で斬り落とした。
その鮮やかな捌きを魅せる女戦士は、僕が目標とする人物であり。
「ありがとうサシャ姉!」
「礼を言う暇があるのなら、まず状況を確認するんだ」
僕にとってただ一人の頼もしい姉だ。
だがそれは、この状況を切り抜けることが出来ることには繋がらない。
「この状況は、姉ちゃんでもちとまずいね……」
「絶体絶命ってやつだよね……」
ただでさえ狭い洞窟、慣れない集団戦闘、圧倒的な数の応戦。
絶体絶命、それはこんな場合を指すのだろう。
僕が所持する剣はもはや棒と言っても遜色ないほど摩耗している。
サシャ姉の愛用する二振りの剣の切れ味ももうじき同様の物に成り下がるだろう。
「ぬうっ……!」
「おじさんっ!!」
うめき声を漏らしながら勇猛なる巨人は自身の膝を折る。
その膝には遠目でも判断できるほどの醜い傷、大量の血が滲んでいた。
確かに巨人はその大きな巨躯を活かし、複数の敵を相手にすることを得意としている。
しかしながらこの地形は、その利点を殺すどころか弱点へと変えている。
狭い空間の中、腕を振り回すことで僕らへの被害が及ぶことを懸念していた彼。
そのために持ち味の大振りな攻撃を封じていた巨人は、ただの大きな的に成り下がる。
結果として彼は魔物の攻撃を許してしまっていた。
僕はそんな巨人の仲間を守るように彼を背にして武器を構える。
「坊主……」
「僕は知ってるんだ、どんな状況だろうとあなたは悪い人じゃないってことを」
僕らが住むこのアーク大陸の歴史上、多種族との溝は決して小さい物ではない。
それでも僕はこの傷ついた巨人を庇うことに躊躇いは無い。
世界の真実の一端を垣間見た僕だけは。
絶対に。
「……っ!」
一瞬の閃きだった。
それはこの圧倒的な数の敵を倒すことが出来る文字通り魔法のようなことで。
一か八かの賭けだ。
「お姉ちゃん! 今すぐこっちに集まって!!」
「けどここを離れたら、もう後はないんだぞ!」
「早く!」
「……っ!!」
僕の鬼気迫る表情に何かを感じ取ったのか。
サシャ姉は頷くと魔物がひしめく前線を退き、僕らが立つ後方へと移動する。
じりじりと距離を詰める魔物の塊に対して、今の僕は不思議と冷静でいられた。
左手の薬指にここに来るまでは持っていなかった指輪を装着する。
それは大人の証。
真実を教えてくれた大人の残した縋るべき微かな希望。
僕は目を瞑り強く意識を集中させる。
あの人が見てきた世界をなぞるように。
想像するんだ。この状況を打開することが出来る光景を。
僕の想いを反映し、次第に左手には光が収束していく。
「ミヤ、これは……!?」
「なんとも懐かしい……光じゃな……」
僕の背後から驚愕の感情を含んだ声が届く。
魔物の群れは突然の眩いほどの光の出現に対して、一様に怯えるような鳴き声を発する。
その溢れんばかりの光を――
受け継がれた光を――
僕は魔物の群れへと堂々とかざした――
「おじさん!ただでさえ狭い空間なのになんでそんなに足を広げてるのさ! もっとこう……折り畳んでよっ!」
「無茶を言うでないわいっ! 巨人とて生き物なんじゃぞ!?お前たちを踏みつぶさんようにするだけありがたいと思うがよい!」
「これだから巨人族は……もっとこう私たち無何有の民みたいに慎ましさを持ちなさい!」
「なんじゃとー! お主は慎ましいんじゃなくてちっこいだけじゃろう!」
「小さくないですー!これでも集落の中でも大きい方ですー!あんたたちが大きすぎるだけなんですー!」
「ちょっと二人とも!落ち着いてよっ!」
ギャーギャー喚き散らす二人を横目で流しながら、意識を前方に集中する。
獲物の肉を削ぎ落とす為に迫る強靭な牙を盾で受け流し、僕は反撃に転じる。
ここに来るまでに散々戦ってきた魔物だ!その弱点は分かってる!
突進による勢いのある攻撃を躱されたそれは、勢いを殺されたことで対象を見失いながらよろめく。
俊敏な動きを得意とする魔物モーム。
瞳の位置を考えるに奴の視界は前方のみに集中している。
そのすれ違いざまを好機と捉えた僕は、身を翻しながらその胴体を寸断する。
しかし――
「堅いっ……!」
振り下ろした剣はやつの肉に食い込みはするものの、僅かに届かない。
度重なる戦闘で剣そのものが痛んでしまったのか……?
僕の動揺する隙をつき、別のモームが襲いかかるっ!
「ミヤっ! どきな!!」
先程の罵り合いを見せていた者と同じとは思えない、凛々しい声が響くと共に。
短剣と長剣を両手に携えた戦士が二体のモームの頭部を一瞬で斬り落とした。
その鮮やかな捌きを魅せる女戦士は、僕が目標とする人物であり。
「ありがとうサシャ姉!」
「礼を言う暇があるのなら、まず状況を確認するんだ」
僕にとってただ一人の頼もしい姉だ。
だがそれは、この状況を切り抜けることが出来ることには繋がらない。
「この状況は、姉ちゃんでもちとまずいね……」
「絶体絶命ってやつだよね……」
ただでさえ狭い洞窟、慣れない集団戦闘、圧倒的な数の応戦。
絶体絶命、それはこんな場合を指すのだろう。
僕が所持する剣はもはや棒と言っても遜色ないほど摩耗している。
サシャ姉の愛用する二振りの剣の切れ味ももうじき同様の物に成り下がるだろう。
「ぬうっ……!」
「おじさんっ!!」
うめき声を漏らしながら勇猛なる巨人は自身の膝を折る。
その膝には遠目でも判断できるほどの醜い傷、大量の血が滲んでいた。
確かに巨人はその大きな巨躯を活かし、複数の敵を相手にすることを得意としている。
しかしながらこの地形は、その利点を殺すどころか弱点へと変えている。
狭い空間の中、腕を振り回すことで僕らへの被害が及ぶことを懸念していた彼。
そのために持ち味の大振りな攻撃を封じていた巨人は、ただの大きな的に成り下がる。
結果として彼は魔物の攻撃を許してしまっていた。
僕はそんな巨人の仲間を守るように彼を背にして武器を構える。
「坊主……」
「僕は知ってるんだ、どんな状況だろうとあなたは悪い人じゃないってことを」
僕らが住むこのアーク大陸の歴史上、多種族との溝は決して小さい物ではない。
それでも僕はこの傷ついた巨人を庇うことに躊躇いは無い。
世界の真実の一端を垣間見た僕だけは。
絶対に。
「……っ!」
一瞬の閃きだった。
それはこの圧倒的な数の敵を倒すことが出来る文字通り魔法のようなことで。
一か八かの賭けだ。
「お姉ちゃん! 今すぐこっちに集まって!!」
「けどここを離れたら、もう後はないんだぞ!」
「早く!」
「……っ!!」
僕の鬼気迫る表情に何かを感じ取ったのか。
サシャ姉は頷くと魔物がひしめく前線を退き、僕らが立つ後方へと移動する。
じりじりと距離を詰める魔物の塊に対して、今の僕は不思議と冷静でいられた。
左手の薬指にここに来るまでは持っていなかった指輪を装着する。
それは大人の証。
真実を教えてくれた大人の残した縋るべき微かな希望。
僕は目を瞑り強く意識を集中させる。
あの人が見てきた世界をなぞるように。
想像するんだ。この状況を打開することが出来る光景を。
僕の想いを反映し、次第に左手には光が収束していく。
「ミヤ、これは……!?」
「なんとも懐かしい……光じゃな……」
僕の背後から驚愕の感情を含んだ声が届く。
魔物の群れは突然の眩いほどの光の出現に対して、一様に怯えるような鳴き声を発する。
その溢れんばかりの光を――
受け継がれた光を――
僕は魔物の群れへと堂々とかざした――
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