僕の異世界、私の世界~アーク大陸冒険起譚~

まるふじ らん

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第一章 『誰が為の異世界』

11 『頭クルクルパー』

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 ‹おかえりアイナ、帰ってくるのが遅いからみんな心配したんだよ›
 ‹ただいまエーファおばさん、ちょっと寄り道してたら遅くなっちゃった›

 異世界に招かれ早一日。
 私は旅先で出会った少女アイナに助けられた。
 そしてようやく様々な人が暮らしているここケルザの集落に辿りついたのだ。

 無事集落に着いたアイナは、帰りを待っていた集落の人達から丁重な出迎えを受けた。
 それだけで済めば良かったのだが――
 話題の対象は勿論アイナから正体不明の私に切り替わるわけで。
 現に周りには遠巻きから事態を観察している複数の人間がこちらを窺っていた。

 ‹寄り道って……もしかしなくてもこの人が原因なのよね›
 ‹実はね、狩りの帰りにブルグの付近で寝て……倒れていたのを発見してさ、放っておく訳にもいかないからここに連れて来たの›

 アイナに事のあらましを説明された彼女は、私に向き直り事務的な挨拶を述べる。

 ‹初めまして旅のお方。私の名前はエーファ、この集落の中で長を任されています›

 村長の役職の方だったとは、通りでこうも矢面にたっているはずだ。
 しかし悲しいことに私は言葉は分かるが、言葉を話せない。
 物凄く不憫な状態だ。

 自己紹介されたにもかかわらず私が無言でいることを不審に思ったのだろう。
 エーファはどこか怪訝な表情を浮かべている。
 それはどうやら私の行動を注意深く監視しているような雰囲気だ。
 冷や汗が滲む。

 そんな私の場合によっては追放されかねない危うい立場を鑑みてアイナが助け舟を出してくれた。

 ‹えっとこの人ね、アイナ達の言葉は通じるみたいなんだけどアーク語を喋れないみたいで……›
 ‹そ、そうなの? もしかしてこれ……?›

 私はあの仕草に見覚えがある。
 
 あれだ、頭クルクルパーだ。
 
 別に気が触れている訳でも残念な子ではないというのに。
 甚だ遺憾である。

 ‹そうなの、彼どうやら頭を強く打ったみたいで、記憶を失くしちゃっているみたいでね›
 ‹そうこの大変な時に記憶を……かわいそうに……›

 アイナまで!?そんな涙を流しながらの熱演を演じなくても……。
 
 何だかいつの間にか私のことをとても残念な子扱いすることで話が進んでいた。
 おっかしいな……童顔とかよく言われるけど今年で二十五歳なんだけどなぁ。
 微かに視界がぼやけるのは、なんでだろうなぁ。

 ‹そ、そうとは知らずあなたのことを疑ってしまったこと、深くお詫び致します›

 新たな誤解が生まれはしたものの、どうにか事なきを得たようだ。
 この異世界に来て憐れまれたりばかりな気がするがこの際気にしても仕方ない。
 というか慣れた。

 ‹ごめんなさいね、安全だと思われていたこの東の辺境の地まで、戦火が回ってきていると度々耳にしているのでつい気が立ってしまいました›

 戦火? もしかしてこの世界では戦争が起こっているのだろうか。
 あり得なくはない話であるが、全く困った世界に迷い込んでしまったものだ。
 願わくば、そんな物騒なことに巻き込まれないように心から祈っておこう。

 そんな私の気持ちも露知らず、彼女はペコペコと何度も頭を下げている。
 流石に気の毒、というか私は特に気にしていないということを伝える為に私は彼女に握手を求めた。
 握手はこの異世界で言葉が通じない私にとっての貴重なコミュニケーションツールなのだ。

 私の気持ちを汲んでくれた彼女は、握手に快く応じてくれた。
 これで私がこの集落に害を及ぼす気がないことも伝わることだろう。
 アイナがニコニコしながら私たちの握手を見守っているのが視界の端に映る。
 とても嬉しそうだ。

 握手を終え、今後のことについて相談するアイナとエーファの傍らで手持ち無沙汰にしていると

 ‹あんたのその服装見たことないなー、一体どこから来たんだい?›
 ‹この指輪、私たちのとちょっと違うよねーちょっと触っていい?›
 ‹おっさん頭クルクルパーなんだって? 駄目だなーしっかりしないとー›
 ‹それにしてもブルグの真下で居眠りするなんて、あんちゃん命知らずやね~›
 ‹おっちゃんアイナのことどう思ってるの?ねぇねぇ!›

 それまで様子見をしていた人々が私を安全な人間であると認識してぞろぞろとやってきた。
 いつのまにか大人から子供まで、老若男女様々な人だかりが私を取り囲むように出来上がっている。
 よほど外からの訪問者が珍しかったのだろう、質問攻めである。

 ‹ちょっとちょっと! みんな彼は言葉が喋れないのだから、そんなことしちゃうと困っちゃうでしょ!›

 このカオスな現状を見るに見かねて反対勢力であるアイナが乱入。
 私をめぐって押したり引かれたりもみくちゃにしたりといったような、混沌とした状況が発生してしまうと身構えるものの、アイナの声が響くと共に仕方ないなーと皆潮が引くように散り散りになっていた。

 一方で子供たちはアイナおばさんなんかに負けるなーと、みんな意固地になってその場を離れない。
 しかし若い女性に言ってはいけないワードトップ10に入るであろう言葉。
 『おばさん』という言葉を浴びせられ彼女が黙っている訳も無く、

 ‹お、ば、さ、ん!?›

 アイナさんマジギレである。

 木刀を担いだ鬼が繰り出す折檻から逃げるように、子供たちは逃げろ逃げろーと叫びながら子供ならではのすばしっこさで集落のあちこちに走って行く。
 待てや―などと叫びながらそれを追いかけるアイナ。
 どうやらあの調子だとアイナは人々からかなり慕われているようだ。
 その証拠に元気に走り回る皆は、楽しそうな笑みを浮かべている。
 私のような見ず知らずの人間を助ける程だ。
 それを踏まえた人徳があるのは一目瞭然と言える。

 しかし、置いてけぼりにするのはどうなのだろうか。

 ‹あらら、行っちゃいましたね……ではイブキさんこちらについて下さい›

 彼女に名前を聞かされていたのだろう、エーファは僕の名前を呼ぶとすたすたと歩いていった。
 彼女に連れられて着いた場所はコンクリートで覆われた現代建築とは似ても似つかない様式の住居だった。

「土の壁に布……の屋根、この感じだと文明レベルは結構低いのかな」
 ‹何か?›
「……っ!」

 びっくりして心臓止まるかと思った。

 異文化に触れて興奮していたのか、思わず声が出ていたようだ。
 この住居のことを馬鹿にした訳ではないが、まるで意思疎通が取れているかのような返事まがいの言葉が返ってくるとは思わなかった私は、首をブンブン振り回し何でもないことをアピールする。
 特に気にすることでもないと判断した彼女は話を進める為にゴホンと咳をする。

 ‹アイナと話をした結果、あなたはこのアイナの住居でしばらくの間過ごしてもらうことになりました›

 まさかの異世界同棲生活に驚く。
 一日前の私ならばそんなアホなことがあるわけないと一笑に付すイベント。
 それが今、目の前に。

 ‹正直なところ、私たちケルザの民はあなたの扱いを計りかねています›
 ‹我々と良き友好関係を築けることを心から願っていますよ›

 まるでSF映画に登場する宇宙人のような扱いに私は曖昧な笑顔を浮かべる。
 それに歓迎は流石にされていないようである。
 だがせっかくこうして寝食自由に出来る場所を提供してくれたんだ。
 何か役に立てるなら積極的に動くことにしよう。
 好感度、大事。

 リーダーとしての役割を果たし終えたエーファは、遠くの方でいまだに集落を駆けずり回っているアイナを眺めながら

 ‹しばらくすればアイナも帰ってくるでしょう、今後の事については彼女と話し合ってお決めになって下さい›

 そう言い終わると彼女は素早い一礼を繰り出し足早に去っていった。
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