テイムズワールド

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シェルバーグ

冒険者ギルド登録

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 ユニと二人で冒険者ギルドの前まで来た。四階建ての大きな建物だ。でも、来たのはいいけど進みたくない入りたくない!何だこの強烈な香りは!
 ずっと風呂に入ってないのか!?飲食店入ってるのか!?たくさんのおっさんの加齢臭や汗臭い若者臭、食べ物や酒の臭い。開け放たれた入り口から漂う複数の香りがブレンドされた強烈な刺激臭にオレとユニの足が全く進んでくれない。

「ヤバイよどうするよ!オレ入れないよ!」
「アタシだって!たくさん人のいる所は苦しいのよ!」
「でも身分証は必要だろ?換金だってしたいし…」
「それならアナタ一人で行けばいいじゃない!」
「ヤダよ怖い!一人はもう心細くて嫌なんだ!」
「だからってアタシを巻き込まないで!」
「一生ついて来てくれるって約束だろ!」
「それとこれとは話が別よ!」
「でもマジで通行のたびに金取られるの勘弁だぜ?」
「ブルルッ。分かったわ。マジ不本意だけどマジ頑張るから戦地と思って行くわよ」

 イクトとユニが覚悟を決めて足を踏み出す。
 すると中から三人の若い男が出てきた。

「中まで聞こえてんだよ!さっきから黙って聞いてりゃ好き勝手言いやがって!」
「兄貴!ヤッちゃいましょ!俺すっげえムカついたっす!」
「冒険者コケにしやがって!」

 スキンヘッドに左右の眉毛が繋がってるように見える男共が手の骨を鳴らしながら近付いてくる。兄弟なん?みんなクリソツで笑いそう。

「ぷふーっ」

 あー、ユニ笑ったぞ!どう聞いてみても嘲笑ってるよ!

「こ、こんの糞あまぁ!」
「「兄貴やっちゃって下さいっす!!」」

 異世界冒険者ギルドのテンプレを早速回収するハメになるとは…。トラブルは勝手に寄って来るんだなぁ。っとのんびり元の世界の漫画ネタ考えてる場合じゃなかった。
 ユニを後ろに隠して前に進む。

「ううっ……。少し近付いただけでこの香り…」
「うるせぇ!言うほど臭くねぇだろうが!」
「もぅ許さねえ!兄貴やっちゃってー!」

 ギルド前だから剣を抜かないのか、拳を振り上げて殴りかかってくる。そこへ臭くないおっさんが現れて、拳を受け止めてくれた。ガッシリとした肉体と2メートルあるだろう長身、くすんだ金髪のリーゼントヘアーに蒼い瞳のナイスガイ。動きやすさ重視なのか鎧とかじゃない、黒い布製の服をまとっている。

「待て、一般人を殴りつけるのは感心しない。それに若いからって二人の見た目で判断してないか?依頼人かもしれん」
「あ、いえ、オレ達冒険者登録に来たんです」
「そうなのか、ならさっさと入れ。出入り口で喋られてても邪魔になるだけだ。それと気持ちはわかるが我慢しろ。そのうち慣れる」
「はい、すみません」
「ちょ待てよ!一匹狼の“金黒狼”!冒険者になるんなら今やってもいいじゃねえか!新人教育だろ!」
「いや、登録してからなら軽い喧嘩はいいが、そうじゃないなら外道だ」
「ううっ…。兄貴…」
「仕方ねぇ。待ってやる。だが登録終わったら表にでろよ!」
「さて、そう言う訳だから登録しろ」

 金黒狼?言いづらい。臭わないおっさん、長いな。臭わっさんが話をつけて入るぞとススメてくれた。

「ちょ、ちょっと待って本当に待って下さい。心の準備とかいろんな準備がっ!」
「いいから早くしろ」

 イクトとユニはギルドを睨んで覚悟を決めると、大きく息を吸い込んで両手で鼻と口を覆って上がり込んだ。


 
 ギルドの中は結構広々としていた。某大手銀行みたいな受付カウンターが5つと買取査定カウンターが2つ。後ろは後方事務の職員が居るし、持ち込まれた魔物の素材を運んで奥の扉から出ていってる。
 入って右はテーブルと椅子が複数置かれてて、冒険者が話し合ったり持ち込んだのか何か食べたり飲んだりしてる。
 左は掲示板があって数人くらい見たり話し合ったりしていた。

 入り口の真ん前の受付カウンターに行くと受付のお兄さんが話しかけてきた。
 ベージュの髪色に焦げ茶色の瞳。ちょっと糸目だけどニコニコが顔に張り付いてるみたいだ。制服とも相まって考えが読み取りづらいなぁ。まぁそこは長年の看護師経験で面白がってるのが分かるけど。

「外でのやり取りは聞こえてたけど、慣れてくれ。それと冒険者登録だね?僕はライドウ。よろしくね」
「はい!よろしくお願いします」

 イクトはヘリウムガスを吸い込んだような声で返事を返す。ユニは喋る気ない。

「あはは、変な声だね!それじゃあ説明するよ。冒険者ギルドに登録すると、冒険者として活動できる。登録に銅貨3枚、二人だと6枚必要だけど手持ちはあるかな?」
「はい!無いです!」
「うん、良い返事だけど無いんだね」
「来るまでに素材を見つけたので売って換金してもいいですか?」
「ほう、何かな?」
「これです」

 ポーチからフンコロガシの宝石を取り出して渡す。中を見られないよう少し屈んで出すのがコツだ。

「これは石?」
「いえ、フンコロガシの宝玉です。拾った物なんですけど売れますよね?」
「…!アルさんちょっといいですか?」

 後ろで書き物をしている四十代くらいのザビエルハゲ系おじさんがこっちに来た。

「どうした?」
「これ、フンコロガシの宝玉らしいんですけど、鑑定お願いします」
「まじか!ちょっと待て」

 胸ポケットからモノクルを取り出して左目につける。それから買取査定カウンターから金属製の小さなミニハンマーを持ってくると、コツコツとフンコロガシの宝玉を細かく叩く。表面の石が少し欠けてオレンジ色が見えた。

「間違いない、本物だ」
「それではこれを売るので換金して下さい」
「あっさりしてるねー。ちょっと待ってね、未登録より登録済みの方が買取手数料が減って、君たちの取り分が増えるから、登録料は後回しでいいから先に登録しよう」
「はい!!」

 ライドウがカウンター内の引き出しを開けて準備する。
 もう駄目だ!息止め苦しくて手の中で呼吸してしまう。おぉうええー!

「ゲホッゲホッ!」
「大丈夫?諦めて呼吸した方が身のためだよ?」
「うぐぅう、はい、すみません」

 せめて鼻だけはつまんでおこうと、左手の親指と人差し指でつまんで話を続けてもらう。

「はい、続けるね。このプレートに手のひらを乗せて下さい。少しばかり魔力を吸い取りますが安心して下さい。生体情報を読み込んで自動でギルドカードに変化します」

 二人でそれぞれのプレートに片手を乗せてしばらくするとプレートからカードに縮んでいく。ユニはオレと同じように鼻をつまみ直した。

冒険者ギルド証
 ギルド:シェルバーグ
 名前:イクト
 ランク:F

 ギルド:シェルバーグ
 名前:ユニ
 ランク:F

「すごい!どうなってるんです?」
「僕も詳しくは知らないけど、魔法陣が使われてるらしいよ」
「魔法陣?」
「魔法を使う時は詠唱するだろう?その詠唱を発動媒体に印して、魔力を流すだけで発動するようにした魔導具だよ」

 所属と名前とランクだけの白いシンプルなデザイン。裏面に魔法陣がかなり小さく刻まれていて、これが無ければ偽造され放題だろう。
 ほーーぅ、なるほど、魔導具を作るには詠唱文が必要なのか…。ん?オレ何も書いてないけど出来たぞ?
 チラッとユニを見ると、さっと横を向かれた。
 もしかしなくても魔力ゴリ推しで回復水鍋作らされたんだね。いいけど…

「さて、カードも出来て登録終わったから、さっきの買取価格が金貨17枚と銀貨8枚から、登録料の銅貨6枚引いて、金貨17枚と銀貨7枚と銅貨4枚のお渡しだねー。一応ただでギルド口座作れるけど作っとく?無一文から大金持ち歩くようになれば悪い人に狙われちゃうかもよ」
「えっと、すみません。村では物々交換しか見た事なくて、貨幣価値が分からないんですけど…」
「あー、山間部の村だとそんな所もあるよね。金貨は1枚で銀貨100枚、銀貨1枚で銅貨10枚、銅貨1枚で青銅貨10枚、青銅貨1枚で硝貨10枚だよ。銀貨までは10枚で貨幣が替わるって覚えるといいよ。通貨単位はリルだから、さっきの金額だと17,074,000リルになるね。」
「(銅貨1枚で1,000リルね)そんな大金気軽に持ち歩けない!口座に金貨だけ預けます!あとは宿とか必要な物を買うので現金でお願いします」
「はい、確かに承りましました」

 ライドウはイクトのカードを預かると、口座情報を登録してからカードと銀貨と銅貨を渡した。無くさないようにそれとユニのカードをポーチにしまう。

「さて、依頼とランクについて説明いいかな?依頼をこなして報酬を受け取るんだけど、君達はFランクだから、始めはランクの低いFランク依頼からだよ。Fランクは街の雑用とか街から出て近場で出来る薬草採取依頼をしてもらうんだ。先ずは街に何があるか覚えて住民の役に立てると認められるようにね。それから一つ上のEランク依頼も受けられるけど、討伐依頼も入ってくるからまだやらない方がいいかな」
「始めはみんなFからスタートなんですね」
「そうだよ?明らかな未成年じゃなければ誰でも登録できるし、登録すれば情報管理されるからね。冒険者が犯罪を起こせばギルド証剥奪の上二度と登録できないんだ。因みにランクアップは一定の規定があるけどCランクまではギルド職員の裁量で決められるから頑張ってね」

 にこにこ終始変わらない笑顔で受付を終えた。

「そうだ、今日はもうそろそろ他の冒険者が戻ってくる時間だから依頼を受けるのは明日がいいと思うよ。それに装備も整えないとね」
「そうですね、これから準備できるだけして宿探します」
「宿なら水楼亭がオススメですね。ご飯美味しいんですよ」
「ご飯!そこ行ってみます!どこにありますか?」
「ギルドを出て右に曲がって少し歩くと、酒屋の隣に三階建ての建物があるよ。目印は青緑色の木にピンクの花が描いてあるからね」
「はい!ありがとうございました!ユニ、行くぞー!」
「ブルルッ」

 
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