テイムズワールド

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シェルバーグ

犯人は…おまえか!

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 ライドウがギルマス室で話している頃。
 イクト達は防具屋に来ていた。ワッサンに連れてきてもらうつもりだったが、住民にスライム討伐を依頼されてはたまらない。急ぎ、昨日話しに聞いた防具屋に入った。
 表のディスプレイはピカピカの目立つ鎧や装飾過多な盾ばかり。中に入るとひょろい青年が店番していた。

「すみません!テイムリングを探してるんですけど!」
「それならそこの棚だよ」
「クーシーは要る?」
「街中ではこの格好なので不要です」
「じゃあスライムだけだね。これを頭に被せるのかな?」
「あー、帽子型ならこれじゃなくてこれだよ。一つ500リル。大きさは自動調整されるから乗せるだけでいいよ」
「お!それは便利だ。これください」

 青年に青銅貨5枚渡してスライムの頭に被せると、じわじわ伸びて頭を被った。スライム、目とか手とか無いし、上下わからないけどこれで合っていたらしい。と思ったら黒い点が二つ、子供の落書きみたいな目の点が付いていた。

「スライム!お前目があったんだな!」
「(イクトがタッチしたら目ができたの。それまで見えなかったし聞こえなかったけど、ノロイのやつ取ってもらったからかな?)」
「そうか!何にせよスライムが喜んでるなら良かったよ」
「(うん。見るのタノしいね。こんなにたくさんの色があるなんて知らなかった)」
「そうだな。世界はもっと色とりどりなんだぞ。色んな所に連れて行ってやるからなー」

 端から見れば男がプルプルしてるスライムを抱えて話しかけている、と言う近寄りがたい絵面になっていた。

「ブルルン、そろそろ帰りましょ」
「そうだな。ありがとう」
「ありがとうございましたー」

 テイマーは他にもいて、一方的に話しかけてる奴はたまにいるが、魔物と会話してる奴は初めて見た。閉店間際に飛び込んできた変な奴だが、気持ちのいい奴だったな、としみじみ思いながら店仕舞いをする青年だった。






 防具屋を出て水楼亭に向かう。晩の鐘の音が鳴り響き、完全に日が落ちてしまった。その道中でジョセフさんとリーサちゃんと会った。

「イクトさん、ユニさん!」
「お兄さんお姉ちゃん、帰り?」
「こんばんは。そうだよリーサちゃん。ジョセフさんはお仕事どうでした?」
「ルークくんに教えてもらいながらだけど、アンナさんには覚えがいいって褒められたから順調だよ。紹介してくれてありがとう」
「いえ、オレが知ってる場所で働けそうな所があそこしか無かっただけですよ。受け入れられたのもたまたまだし、認められたのはジョセフさんの働きが良かったからですし」
「それでも嬉しいんだ。働けるようになったし日払いだからご飯も買えるし。いつか前に住んでた家に住めるようになりたいな。それに君達に、も、お礼……をぉを!?あ、あんた!あの時の!」
「「「え?」」」

 突然慌てふためくジョセフ。オレとクーシーを何度も見比べている。

「えっと、彼女、クーシーって言うんですけど、お知り合いですか?」
「彼女だ!君があの時のバッグを買った、緑の髪の冒険者だ!!」
「え……。クーシー?まさかそのバッグ!盗んだのか!?」
「え、あ、あの」

 クーシーも慌てふためいてどもっている。

「あの、その、すみません!鞄とか持ってないと怪しまれると思って、偽のお金でこれを手に入れました!」

 クーシーはハッと自分の口を手で隠したが、本当の事を話したのは目を見れば分かる。オレに誤魔化そうとしたけど、嘘も隠し事も出来なくなるから、とっさに口を塞いだんだろう。
 クーシーは叱られるのを待つ子供のように、下を向いて肩を震わせた。

「はぁ、ジョセフさん、すみませんでした」
「えっ…」
「クーシーはオレが叱っておきます。クーシー、そのバッグはジョセフさんに返そう。君が詐欺を働いたせいでジョセフさんは仕事を失い、娘のリーサちゃんと共に苦しい生活を強いられているんだ」
「はい、大変申し訳ありませんでした!」

 ショルダーバッグを外して、ジョセフに差し出す。だがジョセフは笑って受け取りを拒否した。

「お店には私が弁償したし、イクトさん達に助けられたから、もういいんだ。それに本当に反省している様だしね」
「お父さん…」
「リーサ。悪い事をするのはもちろん駄目だ。だけどね、心から悪いと反省している人を許してあげない人も駄目なんだ。間違いを認めているならそこで許して終わりにしないと、私も彼女もずっと苦しいままだよ」
「ジョセフさん…」
「それに高いモノじゃないんだ。お店の商品の中では安物なんだよ。銅貨6枚だったかな?金貨2枚もする魔物の毛皮のバッグや金貨10枚するマジックバッグもあったのに、君は一番安い物を選んだ。お店に大きな被害を出したくなかったんだろう?」
「はい、せめても、と思いまして」

 ジョセフは笑ってクーシーを許した。もう悪いことしちゃ駄目だぞと一言付け加えるとリーサちゃんと手を繋いで去って行く。
 二人の後ろ姿を見送ると、イクト達も宿に向けて再び歩き出す。

「オレさ、ジョセフさんには値切らないようにしようと思う。それでお店の売上に貢献して、ジョセフさんの給料に反映されたらいいなって思う」
「良いと思うわ。お金の事はアナタに任せるから」
「ハハッ、任されました!」
「イクト様、申し訳ありません…」
「いいんだよ、ジョセフさんが許したならオレも許すさ。それよりそのバッグ、大切に使うんだぞ」
「あ、ありがとう、ございます!」





 宿に着いて食堂に行くと、ワッサンが席を確保して待っていてくれた。食堂としても人気な水楼亭は宿泊者以外も利用客が来ているが、優先は宿泊者なのか、ワッサンの席は水の入ったコップしか乗ってないのに文句を言われてなかった。

「ワッサンさん、お疲れ様です!遅くなってすみません」
「いや、俺も今来たところだ。座ろう」

 そんなデートの待ち合わせみたいな事を言うが、冷えた水でコップの周りに結露ができてるし、その水滴がテーブルを濡らしている。
 四人掛けのテーブル席に、オレはワッサンの隣に、ユニはワッサンの前に、ユニの隣にクーシーが座り、クーシーの膝の上にスライムがムニッと鎮座した。
 宿のメニューは選択式なので、オレとワッサンは肉多めのメニュー、ユニとクーシー、スライムは野菜多めのメニューを頼んだ。クーシーがスライムを皿の近くに置く。みんなのご飯が揃ったところでいただきますして食べ始める。
 
「昨日も言ってたな。その、いただきます、とは何だ?」
「んー、もぐもぐ。ご飯を食べる時は、使われた食材の命を食べるって事。だから、命をいただくから、いただきますって感謝を込めて言うんですよ。それに、採ってきてくれた人にも作ってくれた人にも、その食材に関わる全ての人にありがとうの気持ちを込めて、オレは言ってます」
「なるほど、それは良いな。いただきます」
「ブルル…そんな深い意味があったのね。いただきます」
「私も、いただきます」
「(ボクもいただきます)」

 食事の手を一切緩める事なく食べながらそう答える。みんなでいただきますして食べると、家族とご飯食べてるみたいで温かな気持ちになった。
 オレ、前は全然何とも思わなかったけど、親の事結構大切に思ってたんだな…。家族っていいな。

「うむ、旨いな」
「こうして食べると今まで一人で食べてたのが寂しく思えるわ」
「まともな食事は久しぶりです。グスン」
「(うまっうまぁ)」

 こうして元々はバラバラだったオレ達が、集まって一緒にご飯を食べてるのは感慨深いなと思う。
 ステーキ肉をナイフで切らないでフォークをぶっ刺してワイルド食いしてるワッサンも、肉少なめな野菜炒めを肉だけ端に寄せて野菜をフォークで食べてるユニも、意外と上品にナイフとフォークを使って食べるクーシーも、身体ごと皿の上に乗ってプルプルしながら体内に取り込んでるスライムも、これからはみんなで食べられるんだな。

「ってスライム!お前口は何処にあるんだ?」

 ミョンっと手が出て、器用にもここだよ、と皿に接してる場所を指で?指している。

「はー、へぇー!口は下に付いてるのか!」
「プフー?スライムに口は無いと思うわ。吸収能力があるから、接してる所で吸収して、それが口の役割をしてるだけでしょう」
「何処から聞けばいいか悩んでいたが、先ずは、そのスライムはどうしたんだ?」
「え?えーっと、順を追って話すならクーシーからかな」

 どう話すか斜め左上を向いて悩んでいると、食堂にライドウが入ってきた。眺めるでもなく予備に積んで寄せてある椅子を1脚勝手に持って、スタスタオレ達の席にやって来て、オレの横のお誕生日席に椅子を置くと、座って自然に交ざろうとしてきた。

「女将さん!僕にもこのお肉の料理お願いします!」
「はいはい、順番にお出しするからちょいと待ちなねー」

 ライドウは頬杖をついてにこにこしながら口を開いた。

「遅れちゃってごめんねっ。待ったかな?」
「いや、待ってもいないし約束も無いはずだ」
「ワッサンさんは冷たいなぁ。相席してもいいじゃないの」
「えーっと、ライドウさんはオレに用があったんですよね?」
「うん。そうだよ。でもこんな所で話すのも物騒だから、食べたらちょっとお部屋にお邪魔してもいいかな?」
「えっ…。はい…」

 ワッサンは眉間にシワを寄せて呆れたような目でライドウを睨むと、フンッと鼻を鳴らして黙々と食べ始めた。ユニも積極的に話すタイプじゃないし、ギルドのやり取りはオレ任せ。クーシーとスライムは守護獣だから論外だ。
 重くなった食卓の空気を何とかしようと、あっちこっちに話を振りまくって話が途切れないように頑張った。
 とりあえず、オススメの依頼とかオススメの採取場所とかオススメの観光場所を聞いてみた。

「へー、フランネルフラワーってのが女性に人気のある花なんですね。近くで取れるなら今度探してみます」
「へー、西門から林に1時間くらい進んだ所に毒消し草の群生地があるんですね。ランクアップしたら必ず行ってみます」
「へー、下水道ってもとは上水道だったんだ。新しい水道を作ったんですね。だから下水道内はあんなにオシャレな雰囲気だったんですね。えっ?関係ない?え!観光って何って…。街の綺麗な場所とか目玉になるような特産品目当てに旅人とか来ないの?あ、来ないんだ…」

 はい、なかなか場を繋げるのは難しいのでライドウ以外に誰か反応ください!あ、プルプルしてくれてありがとう。ってかオレ以外みんな食べ終わってた。
 宿泊してないライドウが、自分のとついでにクーシーとスライムの分も会計してくれたので二人の料金を渡そうとしたが、奢りだと糸目でウインクしてくれたらしい。違いが分からない男だった。
 その間に急いで掻き込んでご馳走様をすると、みんなでオレの部屋に集まろうとなった。
 


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