テイムズワールド

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ダンジョン都市 アビスブルク

カーニバル

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 公演初日の昼前、集合時間にはまだ1時間ある。

「服…本当にこれで行くの?」

 昨日購入した服を広げて見る。金糸銀糸で細かな刺繍や宝石が縫い込まれたきらびやかな衣装は、お貴族様の服のよう。
 既に着ているユニはフリルがたくさん付いたドレスにリボン装飾が施されており、何処かの国のお姫様に見える。

「何言ってるの?舞踊一座がこの都市を訪れて以来、つまりここ数日間、ダンジョンの宝箱から出てくるのは衣装や仮面だけだったらしいじゃない。つまり、ダンジョンが楽しめって言ってるのよ」
「そんな馬鹿な……」

 ノリノリで白い仮面を着けて白い鳥の羽根が大量に付いたハットを冠ると、もはや誰か分からなくなった。
 ワッサンは渋々、黒い教皇服を纏い、金の仮面を着けて赤や青の宝石と星型の金属装飾が付いた海賊帽を冠る。
 若葉は緑のドレスに白い仮面、赤い羽根とリボンで装飾されたターバンの様な帽子を。
 浅葱は青い帽子に何故か付け髭を付ける。
 そしてレムちゃん。赤いシルクのマントに青いもこもこのドレス。そのドレスには淡い色の糸で細かく花柄が刺繍され、フリルやレースが多用され、3メートルある身長でもサイズが自動調整された。金の巻き髪のカツラを被り、小振りの飾り帽子を付けている。

「浅葱とレムちゃん以外誰が誰か分からないよ……」

 公演は二週間やるそうで、住人や冒険者もノリノリで仮装をして歩いている。むしろ普段着の人の方が浮いている気がする…
 イクトは恥ずかしく無いと呟きながら、水色と白の羽根の貴族衣装を身に着け、金の仮面を付けて、赤、水色、白のカラフルなふわふわの帽子を冠る。

「ヒヒィーーン!みんな素敵よ!」
「中々に良いものだな」

 恥ずかしく無い、恥ずかしく無い。平常心を心掛けて、すれ違う人々から「ご機嫌よう」と挨拶されながら劇場に向かった。




 盛り上げ役など不要な程、衣装で着飾った人達がチケットを購入して中に入っていく。
 オレ達や、舞台設営や掃除を手伝った冒険者達は昨日の時点で入場券を貰っていたので、メロディーと言う老婦人の団員さんにチケットを見せて中に入る。
 関係者席が決められているのでそこに座ると、団長さんと団員さん達が、「盛り上げ役は必要なさそうなので、とにかく楽しんでお過ごしください」と声を掛けていた。

「えっと、イクトさんは貴方ですか?」
「はい、団長さんですよね。今日は頑張ってくださいね」

 オレは仮面を外して素顔を見せる。
 団長と楽器を演奏する団員はシンプルな貴族服を身に纏い、ダンサーは動きやすさ重視なのかバレエ衣装に似た適度に装飾された衣装を着こなしている。

「ありがとうございます。それと昨日は不甲斐ない姿をお見せしてしまいました。お恥ずかしい限りです」
「団長ったらあの後イクトさん達が帰った事も気付かないで楽譜を書き直してましたからね」
「全く、ミシェルは目が見えないんだから、楽譜変えるなら練習が先でしょうに」
「見えなくても曲を聞いていればやる事が分かるわ。コーナーの言う事も有り難いけど、みんなの足引っ張らないように頑張るわ」

 団長はバイオリニストのコーナーとチェリストのミシェルに揶揄われながらも舞台袖に戻って行った。
 
「イクト、結局適当に踊ればいいのか?」
「あー、たぶん?」
「それじゃ、演奏が始まったらアタシ達も踊りましょう」

 観客席は踊りを考慮してか、適度なスペースを空けつつ席が埋まっていった。
 太陽が真上から会場を照らし、舞台下から昨日の曲からアレンジされた音楽が奏でられる。舞台の上ではダンサーが踊り始め、会場を魅了していく。
 
「イクト、ワッサン、踊りましょう」

 オレ達が踊り始めると周りの人達も釣られて踊り始め、思い思い自由に踊る。
 厳かな空間が色とりどりに華やぎ、ざわざわと、小声だがささやき声が音楽と混ざり合い、ステップが会場を一体感に包む。

 キラキラと、会場に光が降り注ぎ、それがイクトと踊るユニが舞う度に光が溢れ、風に乗って劇場を優しく包み込んでいった。
 曲が切り替わる際に小さな悲鳴が聞こえ、音楽が途切れた。声のした方を向くと、ミシェルが驚いた顔で立ち上がり周囲を眺めている。そしてチェロを床に置くと、ミシェルを見上げて困惑しているコーナーに抱き着いた。

「ミ、シェル?」
「コーナー!コーナーね!こんなに格好良くなってたのね!」

 ミシェルはコーナーの顔や身体をペタペタ触って嬉しそうに微笑む。
 まさか…!と気付いた団長や他の団員達は、ミシェルに駆け寄るとその目を見つめる。

「見えるの?見えてるんだね!」
「えぇ!凄いわ。こんなに色とりどりの人達に囲まれてたなんて知らなかった。お祭りみたいね!」
「そう!カーニバルだよ」

 やり取りが聞こえていた前列の観客は盛り上がり、後列は何だかよく分からないがとりあえず盛り上がっていた。

「団長、楽しもうぜ」
「楽しまなきゃ損だよ」
「あぁ」

 団長は合図を出すと2曲目が演奏され、ダンサーが舞台上を駆けながら踊る。
 6曲連続で演奏が続き、初日の第一幕が終わりを迎えた。


 第二幕、三幕のチケットの売れ行きが好調のようで、既に翌日の公演分も販売が始まっている。

「今日は来てくれてありがとうございます」
「こっちこそ楽しませてもらえて、来て本当に良かったです」
「アタシも思わずハッスルしちゃったわ」
「凄かったな」

 白の王女、ユニが振り撒いた光はユニの聖属性の魔力で、あの場に居た全ての人に癒やしを与えた。

「ユニしゃまキレイだったの」
「私、とっても感動しました!」
 ゴリンゴリン

 守護獣達はすっかりユニに魅了されていた。
 俺も輝く白いお姫様に魅力された一人だ。仮面を外していたら惚れてしまったかもしれない。
 それは劇場内に居た人々も魅力していた為、オレ達は後ろ髪を引かれる思いだが、明日、アビスブルクを発つ事に決めた。

「もっと皆さんと一緒に楽しみたかったのですが、明日この都市を出発してシェルバーグに戻る事にしました」
「ユニさん、ですか?」
「はい」

 目立ったユニは仮装した人々から声を掛けられ、舞台袖に来るまでにも癒やしの効果に気付いた冒険者らしき大きな人物達から勧誘された。
 当然、聞こえている団長達は直ぐにオレ達に呼び掛けて舞台に上げてくれた。

「ユニさん、皆さんも、私の目を治してくださりありがとうございました。また何処かでお会い出来る事を楽しみにしてますね」
「俺からもありがとう。どんどん見えなくなっていくミシェルがまた光を取り戻せたのは貴方達に会えたからだ。この御恩は決して忘れません」

 団長、団員達から感謝されて嬉しくて照れているイクト達は、舞台裏の出口から外に出て、人通りの少ないメインストリートを爆走して宿に戻ると着替えた。

「プフン…」
「そう落ち込むな。ユニは悪くない。それに仮装していたからオレ達がジャッジメントだと分からなかったんだろう」
「そうそう、それに数日間でも観光出来たし楽しめたでしょ?」
「ご飯……」

 そう、ユニがアビスブルクを去るにあたって落ち込んでいるのは、ご飯を食べたりないからだ。

「劇場に人が流れてるし、今日明日で屋台の料理買い占めよう」

 そうと決まれば動きが早いユニはテンションが元に戻り、衣装を気に入った守護獣達は服はそのままに、帽子や付け髭、カツラを外して買い物に付き合ってくれた。
 飲食店で大皿で注文した様々な料理、屋台で串に挿したステーキ肉、ミートソースのマカロニパスタを大鍋で購入したりしてポーチにしまった。

 そして翌日、新しく購入した荷馬車にバリアハウスを乗せて固定すると、白馬に変化したユニに牽かれて、ジャッジメントはダンジョン都市を旅立って行った。

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みんなの感想(1件)

ぶぶちん
2023.02.02 ぶぶちん

なんだか、ほのぼの楽しそうなお話で面白いです。
こんなゆったりしたお話大好物です。
このままハーレムだけにはならないで欲しいなぁと思ったり…。

誤字報告です。
『2話 お股はレディに捧ぐ』で、バリアハウスを紹介するあたりでのユニちゃんのセリフが
「見た目と裏腹に拾いじゃないの。」となっています。
 拾い→広いではないかと。

続きを楽しみに読ませていただきます。

白緑
2023.02.02 白緑

ぶぅぶぅちゃん様
お読みいただきありがとうございます!
何度も読み返してもなかなか気付けないので、誤字の報告とても助かります。

主人公体質でモテるかも、と思われるかもしれませんが、童貞補正でユニにはイケメンに見えてるだけなので、平凡な顔をしております。好感を持たれてもそこまでで、恋愛はユニに殺されるので無理です。今のところパーティーメンバーを増やす予定はないです。(魔物は別枠ですが…)

解除
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