かみさまコネクト

辻 欽一

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1章 姉妹

04 土地神

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 その後――龍成に頼まれた朝飯を作りに下へ行った。

 取り敢えず食材を確認。飯は電子ジャーに三合ほど、
冷蔵庫には蕨(わらび)や土筆(つくし)の伽羅煮(きゃらに)しかなかった。
まあこれで山菜の佃煮を具にしたお結びが作れる。
 しかし……蕨や土筆とかを今時食べる所など、此処はどれほど田舎なのだろう。
 そして大きめの田舎結びを五つ作り、私と梨華で一つずつ、龍成が三つをペロリと平らげた。
龍成はそれでも足りず、残った飯に伽羅煮をのせ茶漬けにしてサラサラと流しこむと満足げに手を合わせ
「御馳走様でした!!」と元気よく感謝の意を表した。
「いやーほんと、桃ちゃんの飯は美味いな!!」
「余り物だし、素材がよいのだろう? 米も佃煮も絶品だぞ」
「そんなことはない、桃ちゃんのお結びは最高だぜ。塩加減や握り具合が絶妙だからな。
 てーか、掌から旨味成分とか出ているとかじゃないの?」
「ばーか、そんな化学調味料なんて出てないよ。私のお結びには『愛』がタップリだから美味いのだ」
「ふーん、料理は愛情か……。まあ、美味いってことはいい事だよな」
 十分に空腹を満たした龍成は食器をかたづけると、「もう少し寝る」と言って自分の部屋へ戻っていった。

 居間に残った私は今いちど梨華に現状を詳しく確認することにした。
 梨華の話によると、私が此方に来たのは昨夜午前零時を回った後だったらしい。
 そして、現在の私は梨華と龍成が通う県立高校の二年に在学しており生徒会長。成績優秀で人気者とのことだ。
その辺りは美人教師でも然程変わらず……人望を集めるには丁度よい身分なのだろう。
 中には人気や人望など煩(わずら)わしいだけ。などと思う者もいるだろうが、
私が神としての最低限の力を保つには食事よりも必要な物なのだ。
逆に食事などは人で無い私からしてみれば嗜好品のようなものである。
人の振りをするのに付き合いで食べているだけにすぎない。まあ、最近は甘味が美味しく癖になりつつあるが、
本来は酒か水だけあれば存在の維持には問題ない。
 それと、今は2017年の四月一日とのこと。私が梨華の母にあたる楓を救ってから二十一年の月日が経過していた……。
 それから茶を飲み一服した後で梨華に近所を案内してもらうことにした。
 そして――玄関の仕切りを跨いで外に足を一歩踏みだすと同時にズッシリと重い感覚が私を襲った。
 それは小梅にも伝わったらしく、気付けば二人して落胆の声を上げていた。
「あああああーもう嫌だ!!」
「やってしまったな……主よ」
 玄関を出て早々に落ち込む私達に梨華は「どうしたの?」と問い掛ける。
「いや……ちょっと……困ったことになった……」
「だから、どうしたの!?」
「私――神様になっちゃった……」
「んー? お姉ちゃんって一応神様だよね? 『神様になっちゃった』って意味分からないよ」
「だから…お前の言うとおり私は一応神様だったのだ!! でも今は本物の神様になってしまったのだよ」
「えー? 私、理系は得意だけど神道(しんとう)とか詳しくないから解らないのだけど……」
「まあ、詳しく話すと長くなるから端的言うけど、私はもともと現人神なのだ。でも今の私は土地神(とちがみ) ……。つまり、私を奉(たてまつ)る神社か何かがこの地にあって、結構信仰されているらしい……。
 そこでだ、一つ訊きたいのだがこの辺りに神社とかってあるのか?」
 言われて梨華は手をポンと叩いて「あるあるー」と言った。
 話によれば、その神社はここから徒歩で三十分程の小高い山にあり桃山神社と言うらしい。
 其れを聞いた私は早速その神社を訪ねることにした。

 春風がそよぐなか、道幅の狭い田舎道を少し歩くと、蓮華草(れんげそう)が咲いている田がひろがり、
そこを抜けると小高い山が見えてきた。
 麓の参道には既に桜が咲き始めており、屋台もちらほら、花見客もちらほら見える。
 其れを横目に私達は山頂の社(やしろ)をめざした。
 途中、いくつもの鳥居(とりい)がある一風かわった神社である。
それと――麓では今風に桜が花を咲かせていたが山中には一面に桃が植えられており境内は綺麗に掃除され、
桃の木の手入れも行き届いていた。
「桃山神社ねー、桃は毛虫が付いて手入れ大変なのよ。ここの宮司は、ずいぶん真面目だねー」
「そう? 頭がボサボサで気さくな叔父さんだよ。あはははは――」
 言って梨華は笑みを浮かべる。多分、見知った中なのだろう。
 にしても、長い参道だな……。
 普通の神社ならば社まで階段一直線が普通なのに、
この神社の参道は山の周囲をぐるりと回るようになだらかだった。
それと、斜面の所所に大きな丸石が無数に積み上げられていた。
かなり古いが、人力で運ばれた物だろう。そんな参道を山に沿って十分ほど歩くと中腹の休憩所に出た。
 其処の光景を見て私は妙な違和感を覚えて「うーん!?」と疑問の声を零す。
 それもそのはず。
 普段、神社なんて所は願いを持つ者、悩みを持つ者、などなど。
まあ意外と年配の者が来る場所なのだが、此処の光景はちょっと違っていて母親に連れられた子供や、
小学校低学年の子供達のグループが目立つ。まるで公園のようだった。
参拝者に此だけ純真無垢な者が多ければ土地神としては嬉しい限りである。
現に、参道を登り始めてから私の気力は充実していた。
私は少し気になって、梨華に「此処はどうゆう神社なのだ?」
と訊くと「わかんなよ~」と笑って返された。ここの宮司がどんな人物なのか気になるところである。
 私達は其れを横目にしつつ社へ向かった。

「だ~るまさんが……転んだ!!」
 やっと山頂の社に着いたと思ったら「達磨(だるま)さんが転んだ」と大声で言われたので、
 思わず私も歩を止め様子を窺ってしまった。其処には子供達が十人ほどとジャージ姿の中年男が一人いた。
其の男は髪がボサボサで、丸渕眼鏡を掛けており誰がどう見ても「達磨さんが転んだ」
の鬼役をやって子供達と遊んでいるのであった。
神社の境内で、社の前で、恐らく、宮司らしき人物が子供達と遊んでいたので、私は言葉を失い呆気にとられる。
 だが、梨華は何事も無かったようにジャージ男の名を呼んだ。
「お~い、元(げん)さん」
 呼ばれて、ジャージ男はやっと私達に気付く―――。
「おう、梨華ちゃんか、それと……、ああ……ああそうか……。やっと来てくれましたか……」
 そう言ってジャージ男は神妙になり子供達一人一人に声を掛けていくと、
子供達は一人また一人と境内から去って行った。其の間、
ジャージ男の視線は見知った梨華よりも初見の私に向けられていた。
そして、子供達が居なくなるとジャージ男は私の前にきて一礼し
「支度をして参りますので、こちらへ―――」と質素な神殿に私達を通す。
 其処は十畳ほどの板の間で、真ん中に白木の机と祭壇に白い皿、横に御札が置いてあるだけであった。
だが、御神体は無かった……境内に狛犬なども無く質素というより何か欠落している感じがした。
しかし、この神社は神社として十分機能にている。現に土地神である私がこの山を登り始めてから強い神気を感じていた。
 まあ其れはあのジャージ男に訊くとして……。
私は祭壇を背にして白木の机の前に腰をおろした。
子梅も私の横に座るが、梨華は何処に座って良いのか分からず私の横に立ってジャージ男が来るのを待っていた。
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