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1章 姉妹
03 凶兆
しおりを挟む「あう――」
「はいはい、大変ですねー。神様ってば、そんな完璧ボディなのに嘆くのですか?」
そう言って立ち上がり、そそっと――私の横にきて、腰をおろすと、胸やら、腰やら、
太股やらを指でなぞったり、軽く押したりして、私の体を弄(いじ)り弄(まさぐ)る―――
「――ひやぁ――、あぁぁぁ、ちょっと……待っ…て…」
予想外の行動に、思いのほか冷たい指で触診された私は、間の抜けた悲鳴を上げてしまう。
梨華はその後も、掌が私の体温で温まるまで、色々な所に腕を滑らせた。
だがそれは、思いのほか不快ではなく、むしろ心地よかった。
だから、たいして抵抗もせずに、体をくねらせ、脚を絡めて身悶えるのであった。
それでもたまらず、甘い吐息を漏らしてしまい――
気付けば、「あっ……」などと艶っぽい声まで漏らしてしまっていた。
我ながら、情けない……。
すると、私の胸元あたりで梨華の腕が止まった。
「あのー、ココには年頃の男子も居るわけだし、ブラは付けようね……」
そう言ってはいるが、梨華は私の胸を弄り続けている――
「……」
「お姉ちゃん、なんかずるいなー」
「何処がじゃ!!」
と言った途端に、梨華は私の乳房を強く握った。
「うぉああああ―――」
痛い、痛い、痛い。思わず大声で悲鳴を上げてしまったではないか。
まったく……この娘は何に怒っているのだか見当がつかん。
そうこうしていると、近くで扉の開く音と、ドンドンとした荒い足音が此方に近づいてきた。
そして、乱暴にドアが開く――。
そこには精悍(せいかん)な面魂(つらだましい)の男が一人私達を見下ろしていた。
「おい……お前ら五月蠅い!!」
「たく……姉妹で仲がいいな。ちっとは静かにしてくれよ。昨日は徹夜でゲームしていて、
まだ眠いんだからよー、勘弁してくれ……」
そう、私はこの男がそう文句を言って立ち去るものだと思っていた。
しかし違った。男は視線を小梅に向けて、こう言い放ったのだった。
「よっ、小梅様。少しは俺にデレましたか? 早く俺の妹第二号になって下さいよ」
えっと……何だろうこの残念なヤツは、これだけの気を纏っていてコレか……。
まあ、彼(アレ)も若い頃はこんなだったかな。
が、しかし――
「龍(りゅう)、か……?」
気づけばそんなことをポツリと口にしていた。
「ん……なんだ、桃ちゃん。そんな目で俺を見ても攻略対象にはならないぜ」
違うわ、このボケ!! 私は其奴(そいつ)をきつく睨み返した。
其れで気圧されたかどうだかは分からないが、私から目を逸らし汁粉を持ってきた器に目をやった。
「あーそうだ、朝飯まだだったんだよ。だから桃ちゃんの握(にぎ)り……じゃなくて、
お結び(おむすび)が食いたいなー。つう訳で、作ってくれますか?」
お結びね……確り記憶は改竄済みか。
「分かったよ、梨華との話が終わったら作ってやるから少し待っていてくれ」
言われて、了解とばかりに手を上げ龍は部屋を出て行った。
そこで、小梅もこう言う。
「龍、か……?」
すると、梨華は変な顔をして私に問い掛ける。
「お姉ちゃん、龍成(りゅうせい)のことは知っているの?」
「いや、知らんな。何がじゃ?」
其の事を二人で否定する私と小梅に、梨華は怪訝な顔をした。
「いやー、さっきのぼうとしたのが此の家の長男だよ。龍って呼んだじゃない!?」
梨華は先程の男のことや、私達の現状を説明してくれた。彼の男は水原龍成(みずはらりゅうせい)
ここの長男で一人息子らしい。そして、私達は二年前のゴールデンウィークに両親を交通事故で失った。
その後、親戚中をたらい回しにされていた私達を父親の親友であった水原氏が引き取ってくれたそうだ。
両親が事故に遭ったとき私はたまたま修学旅行で無事。
唯一助かった梨華も意識不明の重体で数週間程意識が戻らなかったらしい……。
その話を終えると、梨華は表情を曇らせ部屋から立ち去ろうとした。
だが、私には、少し気に掛かるところがあったので、もう一度『梨華』の名を呼んで全身を上からじっくり確認した。
すると――暗い、霧のようなものが頭から足元へ流れていた。
私はソレを確認すると、何事もなかったように梨華を見送った。
そして、その暗い霧が何なのかを私と小梅は知っている。
人はソレを死相と言う。凶兆であった。ソレを見て小梅がポツリとつぶやく。
「あれは……もって年内じゃな」
「ああ、そもそも母親である楓が殺害されているのだから娘などは居ない訳になる。
残念だが運命の強制力に存在を許されないだろう……」
其れは私にも見てとれた。原因はどうであれ梨華の命はあと数ヶ月。
既に命数は尽きていた。
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