かみさまコネクト

辻 欽一

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2章 罪

01 夜

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 満月の夜―――私は俯瞰で、その街での出来事を見ていた。
 まるで映画やテレビを見ているようでした。
 夜の街、雑居ビルの仄暗い路地裏の奥に追い詰められた一人の男がいる。
 追い詰めているのは、若い黒髪の女だった。
 男は理解不能の力で壁に拘束されている。
女は冷たい視線で男を睨み、一つだけ訊いた―――。

「さて教えてくださいな、私の友であった結城楓を殺害したのは貴様で間違いないか!?」
 訊かれて男は眼球を右に左に動かして口をだらりと開け何かを言っているようだが、
声は出せない。
女は其れを見て男に示唆する。
「ああ言い忘れた、余計なことを話そうとすると全身が軋(きし)む、だから戯言(たわごと)は言うなよ……」
「――――がっ!!」
 その様を見て女は溜息をつく、そしてもう一度男を冷たく睨むと男はようやく言葉を吐いた。
「名前は覚えていない……」
「だが、この街での殺しは全て俺の仕業だろうな」
「俺は女しか殺さない……」
 今年、この街で続いた殺人事件。被害者は4人。其の4人目が私の友だった……。
 私は其の告白を聞いて男の拘束を解いた。
犯人はこいつか……このままでは警察に捕まるだろう。
こいつの目はもう何かを完遂しきった後のような目で、達成感に満ちていている……。
にやけているが既に死人の目だ、薄気味悪い……。
ここでこいつを見逃せばこの後も殺して、殺して、そして捕まり恐らく極刑になるだろう。
それで、こいつは終わり。

  だかしかしそれでは、私の友は戻ってこない。死者は蘇らないから……。
だが私は死者を蘇らせる唯一の法を使える。正確には蘇る訳ではないのだが。
それは、通力(つうりき)による「起源(きげん)の消失(しょうしつ)」
によりこの一件全てを起きなかったことにする。
ただ、少し後始末が面倒なのだが、それも今ではいい暇つぶし―――。
 後は……、こいつが素直に私の言うことを聞いてくれればいいだけだ。
ま、通力を行使する者の責務である。取り敢えず説得してみるとするか……。
ああ、面倒だ―――。
「うん、状況を把握した。お前が容疑者でいいのだな?」
 ………男は静かに頭を下げる。もう逃げる気もなし……か、私は設問を続けることにした。
「では、いくつかお前に問おう―― まだ、殺しを続けるつもりか?
それとも警察に出頭するのか? あとは、罪の意識……んー、善悪の判断は?」
 などと……、常識的なことを訊いてみた。
 だが、それは前置きで、このあとが本題なのだ……。
 そして私はいつものように問うのだった。
「えーと……、ここまでは常識の範囲内だが、この後は絵空事だとおもってかまわんよ。
 そうだなー、今までの罪が全て消えたら如何する?
 そうしたら、その結果がどうなってもかまわぬか?」
 ―――!! そう言われて男は流石に「冗談だろ?」といった顔をした。
そして、第一声が「そんなこと出来るのか!?」だった。

それを聞いて私は「可能だよ…」と返す。その後すぐに「だが」とつけ足すわけだ。
これも、いつものこと………。
「だが、今のお前は消えてなくなり転生する。訳が解らないだろうから少し説明してやるよ。
 お前が殺した被害者を蘇らせるにはどうしたらいいか?
 それは……現在のお前が産まれてこないか、殺人衝動をもたないように成長してもらうしかない。
 でも、お前一人の過去に干渉して人格を変えるのは無理なのだよ………。
 というわけで、ひとまずお前が産まれない世にする。ここまでは分かるかい?」
 と、私に言われて、男は声を荒げこう言った。
「それは馬鹿な俺でも分かるが、馬鹿な俺でも不可能だとすぐに分かる。
 そんなこと………。タイムマシンでもつかって、
 過去にいって俺の親をぶっ殺さなきゃ無理だろ!? でも、出来るならやってくれ………」
 ま、至極当然だ。だから狂っていない相手には話をするのだがね………。
でも、毎度この話は通じないのよねー。し方無し、仔細を話すとするか。
「まあ、お前のいうことは正しいよ。
 でもそれは人の常識の話だ。私の通力は時と縁(えにし)に干渉できる。
 と、言っても分からないだろうな。今じゃ神通力(じんつうりき)なんて言葉も死語だし……。
 時に干渉して、どう自分を消滅させるのか?? それすら理解できないだろうからね。
 だから少し酷い話をするよ。今のお前を消すには、
 お前の両親のどちらかを消せば済むって訳ではない。
 ならば、どうするか……? ならば本家の起源に干渉して縁を絶つのさ。
 数百年前に出会うはずだったお前の先祖の縁を絶つ、それで今のお前が初めて消えるんだよ。
 でも、その世界はお前の先祖とその子孫が全て消えた世界だ。少なくて数百…多ければ数万の
 人口の増減が発生する。当然、歴史にも影響を及ぼす……」


 そこまで話して私は男の顔色をうかがうと
「こいつは何を云っている!?」みたいな呆れ顔をしていた。

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