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3章 沖田畷の戦い
04 『釣り野伏せ』
しおりを挟む地図を見て家久は云った。
「さて――久貞どう見るか? 物見によれば神代(かみしろ)(島原半島北部)
の沖に万を超える船が見えたと云うが、
それほどの軍勢どうして龍造寺が揃えようか?」
そう訊かれて久貞はこう返す、どうやら軍官の一人のようだ。
「思うに――本隊は二万もいかず……大半はやむをえず従っている国人、
士気統制はそれほどでもありますまい。
それでも敵は我が方の三倍、見通しの良い平地で当たっては敗北必死でありましょう」
「ならば如何(いかが)する――?」と家久は問う。
すると久貞は直ぐさまこう返した。
「ならば敵を三隊に分けるまで――
我らも隊を分けて山と海岸を進みましょう」
「当然、擬態でありますが、この地図の出来は上々であります」
「ここ――三会(みえ)(島原周辺)の前には川が三つ流れています。
そこを過ぎても川と干潟が続きます。
我らは三会の川を越えたところの山と海岸にて待ち受けましょう、
それと殿も旗本と供に中央へ布陣して頂きたい」
「そして――槍が合う前に本隊は弓と鉄砲で敵を威嚇をし、
それぞれ三会の後ろまで転進していただく――」
そう云って久貞は三会の後方を指さした。
そこは海岸の干潟が林に変わり山肌も海岸に迫り出していて、
中央は一里ほどの田と畷(なわて)である。
そう軍議をしているとぱらぱら春雨が降ってきた――。
今は三月、春雨が多く降る季節で田とそこを区切る畷は泥濘となる。
そこまで隆信(たかのぶ)本隊を誘い込めれば、
背後に川を四つ足元は泥の海、前進も後退も出来なくなる。
そこは矢玉を遮る物がない田と畷で、
左右から射撃されては前へ進むしか無い、
そして、隆信本隊が前進してきたら後方を遮断してしまえばいいのだ。
この戦法を「釣り野伏(のぶ)せ」と云い数多くの名将が用いた。
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