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3章 沖田畷の戦い
05 朧月(おぼろずき)
しおりを挟むただし今回は少々問題がある。
海路遠征してきた島津方には鉄砲が少なく、
援軍を頼んだ有馬氏は国人でいつ裏切るか分からないところがある。
更に、雨で鉄砲が使えなくなる可能性もある。
そんなこともあり家久は改めて久貞に訊く――。
「それはよいが――件(くだん)の如(ごと)くゆくのか?
ぬしも分かっていようが此度(こたび)は鉄砲の数を揃えられなんだ」
「それと……戦の時にこの雨は止むのか? 隊を退く時は如何する?
敵は恐らく騎馬と足軽……槍合わせれば易々と三会の後ろまでは引けまい!?
それにな、俺はなにより有馬が好かん!!」
「俺は兄上の命に従って龍造寺を討ちにきたのであって、
この地を守る気など元々ないわ―――」
それを聞いて久貞は口もとを緩めた。そして云う。
「ならばこの戦、我らの圧勝でしょう――」
ただそれだけでは家久は納得できず、
その訝(いぶか)しさは晴れていないようであった。
それを見て久貞は、揚々と口を利く――。
「私は策(さく)もなく、このようなことは申しません」
それには流石の家久も焦れて声を荒げた。
「ならば何とする!! ぬしと話をしていると、
まるで神か何かに誑(たぶら)かされているようだ。
すまぬが、その策を俺に話してくれまいか―――」
云って、家久は少し頭を垂れる。
その年、島津家久は三十七歳それが二十歳そこそこの家臣に頭を下げたのである。
当然、久貞は恐縮して策を包みかくさず話すのであった。
「殿、何もそこまでせずとも――策はこれからお話いたします」
まずは、そう云って家久を宥(なだ)める。
そうして話を続けるのは久貞である。
「では――一つ一つ話してゆきましょう、
まずはこの春雨ですが山から吹きおろす北東風、
私が船方(ふなかた)に訊いたところによると強い北東風の後は晴れて、
漁や田植えに良い日和だと」
「そう云われて空を見れば、彼方にうっすら月が見えます。
ならばやがて雲は晴れ、我らが日野江(ひのえ)の城に入る夜半には雨も止みましょう」
云われて、家久も空を見る――目には霧雨が吹き込んでくるが、
その雨粒が光って見えた。
よく見るとそれは朧(おぼろ)な月明かりであった。
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