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3章 沖田畷の戦い
06 日野江城へ
しおりを挟むすると、家久は芋蔓(いもづる)の味噌漬けを摘み奥歯でこりこりと噛み締めて旨そうに頷く。
天候の件は納得してくれたようなので、久貞は次の件の話をすることにした。
「次は、一つと云わずいくつかまとめて話しましょう。
日野江の有馬に対しては私も殿と同じ意見で御座います。
もしも有馬が籠城を主張するのであれば十分な数の鉄砲を持っていることになりましょう」
「日野江には二千を超える城兵がいるとか……?
なれば――殿に鉄砲と兵を借りて頂きたく思います。
一千五百も借りて頂ければ、我らは八千を超えます。
私の察するところ鉄砲も千丁程あるでしょう、
ならば半分も借りれば我らの鉄砲も千を超えます。
すれば――有馬も寝返ることはありますまい!?」
聞いて、家久はぐっと酒を飲み干し――注いで久貞に進める。
総大将自らが杯を差し出したのだ、
これでようやく軍官として話ができると思う久貞は其の杯を飲み干し、残りの話を続けた。
「では、槍合わせたとき如何にして後退するかですな――?
これには鎧を脱いで身軽になって頂きたい。
元より我らは、槍を合わせるつもりなど無いのですから……」
「そうして矢と鉄砲を放ちつつ山と海岸の隊は後退していき
三会の後方にある叢(くさむら)に敗走を装って兵を伏せましょう」
「殿は中央を堂々と逃げて頂きたい。そして此処――原に陣を構えてもらえれば、
龍造寺は沖田の畷の泥濘にはまり、動けなくなります。
そこを左右から今度は確実に仕留めるのです」
「私の思うところ、沖田の畷に誘き出された将は討死(うちじに)必死、
隆信の気性を考えれば殿の姿を見て間違いなく中央を進むはず。
隆信は夜の月を見ることはないでしょう―――」
聞いて、家久は深く頷き一言いった。
「―――承知、俺が熊の餌か」
云って笑うと、軍議を終えて陣をたたみ北へ軍勢を進めた。
一時程して日野江城に到着した島津方は兵に休息を取らせ、
鎧を外し軽装になり戦に備えさせた――。
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