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3章 沖田畷の戦い
07 忠堅
しおりを挟むその時、主な将は日野江城の館にいた。
今は家久が有馬晴信(ありまはるのぶ)と面会中で、
晴信の意見を聞き此方の策を話しているところだ。
当然、家久は野戦を主張し
日野江の兵の出陣と鉄砲の借り入れを要求しているところだろう。
別室で久貞も叔父の川上忠智(ただとも)、忠堅親子と同室であったが、
嫡子忠堅の体調は八代を立つ前から思わしくなく、
夕餉の席でも芋粥(いもがゆ)を少々啜(すす)るだけであった。
どうやら腹をこわしているようで館に来てからも幾度か厠(かわや)へ行っている。
その様子を見るに、赤痢(コレラ)などの致命的な病ではなく、
八代を立つ前から体調をくずしていて衰弱しているだけだろう。
そこで久貞は大蒜(にんにく)と百合根(ゆりね)に葱味噌(ネギみそ)を混ぜて、
香ばしい香りが立つまで焼いた物と、焼酎を用意する。
出来上がると――。
「忠堅どの、腹の様子はもうよいか――?
これでも喰って精をつけるがよい」
云って、すすめた。
すると忠堅もその香りに釣られたのか、小鼻をうごかして久貞の対面に腰をおろす。
「やれやれ――久貞には隠せぬか、
どうも出立まえから調子が悪くてな……。まだ治らぬわけだよ。
それはなんとも旨そうだが、今は戦前であるし遠慮しておく――」
云って、すまなそうに顔を下げた。
「なればこそ、喰え―――これは腹の薬であるし、
酒はその効果を高めるものだ」
と云われて、忠堅はようやく料理に口をつけた。
大蒜と百合根の味噌焼きをぱくぱくと喰うと――目を丸くする。
よく噛んでほくほくとした旨味と焼けた葱味噌の味を堪能していた。
よほど腹が減っていたのであろうか。
多分、下痢を恐れて食事を避けたせいで、
それが影響して胃液やら腸液が大量に分泌されて、
それと、がぶ飲みした水が更に下痢を悪化させたと思われる。
そんな忠堅の様をみて、
忠智も味噌焼きを摘みだした。続いて久貞も手を出す。
すると大きめの鉢に用意した味噌焼きも直ぐになくなった。
一服して忠堅は云った。
「なんとも不思議――久貞は医(くすし)の心得でもあるのか?
体も動かしておらぬのに、もう暖まってきて、力が出るぞ!!」
云われて、久貞は当然と返した。
「いやいや――それは薩摩の我らならば当然のはずだが……?
忠堅は大蒜など嫌いであるか?
兵糧丸(ひょうりょうがん)などにも芋や黍(きび)と一緒に混ぜるであろう?
だが――大蒜は養分の一番高い糧の一つ、
忠堅はよいが、叔父上は程々に――」
云われて、笑う忠智親子――。
既に忠堅の体調は回復に向かっていた。
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