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3章 沖田畷の戦い
08 戦場
しおりを挟むそうして焼酎を一杯口にしていると
襖を何枚も隔てた奥の部屋から家久の怒声が響く――。
忠堅などはその声で立ち上がったが、
久貞には察しがついていたので忠堅を引き留める。
「忠堅――殿は丈夫だ。これで、日野江の兵と鉄砲は我らの物よ……」
四半時ほどして……家久が久貞のもとを訪れた。
その顔を見るに守備は上々と云った感じであったが、
久貞は礼をもって晴信との会見内容を訊ねた。
「殿、晴信とは如何で御座いましたか?」
「なーに、籠城するならば、我らは八代へ引き返すと云ったまで。
そう聞いた晴信は血相を変えて兵と鉄砲を貸すと云ったわ―――」
それもそのはず。ここ数年隆信は家臣に謀反の疑いあれば一族郎党皆殺し
とゆう暴挙にでていて重臣の諫めも聞き入れない有様で、
島津寄りの国人の離反は少なくなかった。
今回の有馬氏もそれで、島津義久と内通した晴信が挙兵したのだ。
当然そんな有馬氏を隆信が許すわけもなく、
家久の軍勢が引き上げれば日野江城の兵二千と女子供まで皆殺しであろう。
だから、家久の要求を承諾するしかこの戦で生き残る可能性を見いだせなかったのだろう。
島津軍は日野江の城兵二千余をくわえて即北上を開始した。
その数約八千、久貞は家久と轡(くつわ)を並べて、策を語っていた。
「此の分ならば、大分早く戦場につくな」
「はい、本陣は田の後方に。私は川上勢と海岸へ、
他の将は山側と麓の藪に隠しておきましょう。
恐らく山側には鍋島勢が回り込んで来るはず」
「此度の戦、この鍋島勢の勢いをそいで、
龍造寺本陣と合流させなければ我らの勝ちとなります。
ですから山側の敵は精鋭、我らも兵の半数を山側へ――
そして合流出来なくなった龍造寺本陣は一里もない田と畷の泥沼にハマり、
そこへ左右から矢玉を浴びせます。
そうなれば、隆信の首級を挙げることも容易」
家久はその日の早朝に戦場につくと、
陣を張り兵に軽く食事をとらせた。
そして、物見から龍造寺の進軍状況を聞いた。
物見によると、海の汐(しお)の状況が悪く漸(ようや)く海岸に船が着いたとのこと。
龍造寺が軍備を整え戦場に着くのは早くて明日とのこと……。
家久は物見に褒美を与えると、
各部隊へ現状を伝え交代で休息をとるようにと指示した。
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