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第4話 現状

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―元の世界に帰ることが困難である


その言葉を聞いて俺はとてつもない倦怠感に襲われた。
まるで重力の暴力を身に受けている気分だ。
もちろん実際はそんなこともなく、絶望感が体に伝わってきたのだけであるが。

あの後、クロウは俺をもとの病室?のようなところまで案内してくれた。


「とりあえず今日のところはここで休むといい」

そういうと彼女は続けて言った。

「とりあえず、君もここで生活するなら…というかこの世界で生活するなら、
覚えてもらわないといけないことが山ほどあるからね」

クロウはなにやら不敵な笑みを浮かべてそう話した。
顔立ちがいいだけにそのサマが画になっているのがやや癪だった。

「ここは怪我や病気の人を診るための部屋だ。今夜はここで眠るといいが
明日からは別のところに移ってもらうことになる」

「それは構いませんが…」

「あぁ、安心しろ。魔女ってのは厄介者ぞろ…オホン!なかなか個性豊かな人が多いからね
ちゃんと一人一人に個室を用意してるし、部屋は十分に空いているからね」

彼女が言うには、ここは『魔女の城』と呼ばれる場所で『迷いの森』の中に存在しているらしい。
この世界には当然魔女以外の人種がいて(というかそちらが多数派のようだが)
そういった人たちから身を隠す、身を守るための寄り合い。それがこの魔女の城だそうだ。

世界各地で困っていたり迫害された魔女を助けてここで一緒に生きていく。そういうことらしい。

「なんで魔女はそんなに嫌われてるんですか?」

と聞いてみた。
クロウはやや困った表情をしながら言った。

「魔女にもいろんな種類がいる。全く人間と変わらない魔女、ショボイ魔法しか使えない魔女
成長する前、覚醒する前だから何もできない魔女…」

「役立たずだから疎まれてると?」

「逆だよ。魔女ってのは総じてレベルが高い。そして妙な思想や言動をする者も多い」

どうにも持って回った言い方だ。

「つまり?」

「高レベル魔女だと趣味で人間を殺戮したり迷惑をかけたりする者もいるということだ」

なるほど、俺がいた世界でかつてあった迷信に基づいた魔女狩りとかではなく、この世界では
実際に魔女が世界に迷惑をかけていて、それを排除するための迫害ということか。
しかし、今の会話の中に聞きなれない新しいワードが出てきたぞ。

「ところで、『レベル』ってなんなんですか?」

「え?」

クロウはきょとんとした顔をした。

「君は自分のレベルの数値がわからないのか?」

「レベルという概念そのものがよくわかってないですよ」

彼女はやや考え込む仕草をした後、考えをまとめたようにゆっくり話し始めた。

「レベルというのは強さの指標みたいなものだ。この数値が上がると自分の能力値も
連動して上昇する」

なるほど、そのあたりははRPGゲームなどと同じか。
というかそんなシステムが存在するということはここはゲームの中の世界とか
そういうことになるのだろうか。
改めてクロウの顔をまじまじと眺めてみる。

くそ!相変わらず美人で許せん!

話がそれた。彼女の顔を眺めてみるが作り物には到底見えない。
俺との会話も自然だし、AIやNPCの類とは思えない。

「どうかしたか?」

「いえ、なんでも」

俺はあまりにもまじまじと彼女の顔を眺めていたことに気が付いて
慌てて視線を逸らした。

「それで、その『レベル』というのを上げるにはどうすればいいんですか?」

俺はさっきの失態を隠すように続けて聞いてみた。

「ふむ、何のレベルがその人の主軸化にもよる。聖者なら祈りをささげることでレベルが上がったり
鍛冶屋なら作業をすることでレベルが上がったり…だな」

「魔女は?」

「魔女は魔法を使ったり、それで何かを成し遂げたりするとレベルが上がる」

クロウは少し間をおいて言った。

「というのが個別でのレベリングの話だ。すべてのレベル保有者に共通して
最短で効率の良いレベルの上げ方が存在する」

「…それは?」

「戦闘だよ」

彼女が言うにはこの世界には3つの勢力がある。


一つ目は俺たちが今いるこの場所、すなわち『魔女』という勢力だ。
前述のとおり魔女の各個人によって強弱があるが、基本的にはこの世界で
魔法が使えるというのは大きなアドバンテージである。
それをいいことに好き勝手している魔女もいることから、他の存在から
『ジョーカー』や『トリックスター』のような異物扱いを受けているようである。

二つ目の勢力が『人間勢』だ
この中には亜人と呼ばれる種族も含まれるらしい。
俺のいた世界で言うところの人魚やケンタウロス的な存在が
この世界では実在するようだ。そういった種族もすべて含めて
人間勢に含まれるらしい。

そして三つ目の勢力。『魔族』だ
魔族の王、魔王はこの世界の支配を目論む…というか
人間勢への攻勢を考えているとのこと。そしてそれに対して
人間勢は反抗、逆攻勢を行っている。

まさにファンタジー小説でおなじみの人間VS魔族の対立がこの世界でも
巻き起こっているということだ。

そして、面白いのが人間も魔族も魔女にはできるだけ関わりあいたくないという
パワーバランスなのだという。
個々の魔女には強さの強弱があるとはいえ、魔女全体で見たら人間や魔族を圧倒する力を
有しているらしい。

人間視点の俺からしたら、じゃあ人間族を手伝ってやればいいじゃんと思うところだが
どうにもそう簡単な話ではないようだ。

魔女勢力のトップ、クロウは魔女たちに以下のようなルールを設けた。


・魔女同士の殺し合いは禁止
・各勢力のパワーバランスが崩れる肩入れは禁止

つまり、魔女たちはあくまで『傍観者』的な中立の立場であると表明したわけだ。
これは人間側のトップ、プローゼ王国の国王、そして魔族のトップ魔王の三者としっかりと
取り決めを行ったそうだ。
この世界には23個の国が存在し、その中でもとりわけ大きいのが
回復を司るアルム聖国、武力を司るプローゼ帝国の2か国らしい。
今回三者協議に出席したのはプローゼ帝国の国王とのことだ。


しかし、争っている者たちでしっかりと取り決めを行うとかファンタジーというより
現代戦争っぽいきな臭さまで感じてしまった。

「で、それとレベルの話と何の関係があるんです?」

「あぁ、前置きが長くなったね。つまりこの世界では普通に戦いが行われている。
全てのレベル保有者で共通するレベル上げ『戦闘』
つまり他者に攻撃を仕掛けることで経験値が手に入り、それが溜まるとレベルが上がるという
仕組みになっている」

「そう…ですか」

何だこの世界、人々が争っていたほうが得な世界とか腐ってないか?
いや、その考えは地球人である俺の傲慢な考えかもしれない。
そもそも缶詰とはいえ軍用品を作る会社に就職している俺がいえた話ではない。

「その中でも特に戦って…相手を倒すと経験値がたくさんもらえておいしい存在が
我々魔女なのだよ」

「え?」

「だから人族、魔族、問わずに弱い魔女を見かけたら積極的に排除するために動く
魔女を倒す…つまり殺せたらレベルが上がってとてもおいしいからね」

「殺すって…」

「言いづらいが、貰える経験値は戦闘しただけでももらえるし、相手を行動不能にしても貰えるが
相手を殺害した場合が一番たくさんの経験値をもらうことができるんだよ」

俺はちらっとクロウの顔を見てみた。
衝撃的な発言のわりに彼女は特に表情に変化を見せていなかった。
つまりそれは命のやり取りがこの世界では当たり前だということなのだろう。


ともすれば、俺がこの『魔女の城』からフラフラと外に出ていくのは危ないことなのかもしれなかった―



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