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第7話 見学

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あの後、クロウは俺に城の中を案内してくれた。
この時、俺は初めてクロウやケイ以外の魔女と出くわした。
案内の最中、廊下ですれ違った際に何も言わずに会釈だけして通り過ぎる魔女もいれば
俺の顔を見るなりびくっと震えて委縮し小走りに通り過ぎる娘もいた。

「まぁ仕方ないさ。レベル9万越えは誰にとっても脅威だからね」

「はぁ…」

とはいえ、そもそもレベルなんて概念のない世界で生きてきた俺にとって
レベル9万越えなどと言われてもピンとこない。

そもそも、この世界の「レベル」とは一体何なんだろうか。
人の能力や技能が数値化されてるなんていかにもテレビゲーム的で
なんかおかしいような気もする。

クロウ曰く、数値はあくまで可視化のために用いているもの。
魔力とかスキルの量を数値に換算する技術がこの世界には存在する。
それだけのことだ。とのことらしい。

俺の世界で言えばTOEICとかがそれにあたるのだろうか。
とにかく、そうだと言われればそれを受け入れるしかなかった。

「さて、ここが闘技場だよ」

それは城のちょうど中心部に位置しており
広さとしては体育館程度、石造りで作られており、あたりの装飾や石畳のリングから
ここでみんなが切磋琢磨試合を行っていることが分かった。

そしてちょうど闘技場では赤いチャイナドレス風の服を着た魔女と
やたらとベルトをジャラジャラさせた魔女が戦っている最中だった。

「焼き尽くせ!炎の竜延風!!」

「…!か、風よとおりすg」

ベルトの魔女が言葉をすべて言い終わる前にチャイナドレスの魔女が
彼女の頭上めがけて炎で出来た龍を突き落とそうとしていた。

「はい!そこまで!!」

審判をしていたと思われる魔女がばっと手に持っていた旗を頭上にあげる。
その宣言と同時に、ベルトの魔女に迫っていた炎の龍が空気中にばっと拡散して消えていった。

「ほぅ、本格的だなぁ」

魔法などというものを見たことがない俺は眼前の出来事に
まるでサーカスにでも連れてこられたかのように素直に感心してしまった。
二人はお互いに一礼すると、チャイナドレスの魔女がタオルで汗を拭きながらこっちにやってきた。

「よす、クロウさん。その娘が言ってた例の子?」

「そうだよ、彼女はこれからここでみんなと生活していくことになる。
今は施設のいろんなところを案内している最中だ」

「なるほど、それならここは外せないよな!」

チャイナドレスの魔女はニヤっといたずらな笑みを浮かべた。

「私は炎の魔女、セブンスだ」

「はじめまして、私は…えーっと、『停止の魔女』のトールよ」

なぜか女言葉で返答してしまった。

「そう、これからよろしくね」

セブンスが握手を求めてきたのでこちらも握手を返す。
ここは魔女たちの隠れ家とのことだ。当然住んでる人も全員魔女だ。
よく考えればそんなところに男一人で住みこむなんて
ハーレムラブコメの主人公というよりは女子寮に忍び込んだ不審者みたいなものである。
これは早い目に自分が男であることをみんなに伝えなければならないかもしれない。




……

ま、まぁ今はいいんじゃないか。
うん、彼女も運動した直後だし。
変な話を聞かされても戸惑うだけだろうしね。

「聞いたぜぇ、お前、男なんだってな」

そういうと、セブンスは笑みを浮かべたまま俺の股間へと手をやった。

「んー、なんだよ、ついてるもんついてねーじゃん」

彼女はそのまま股間にあてた手をにぎにぎと揉みだす。

「やめろぉ!」

俺はとっさに股間に伸ばしている彼女の手を振り払う。

「んー、ケチケチすんなよ。なくなるもんじゃないだろ?スキンシップさ」

呆れたクロウが間にはいってセブンスを注意した。

「おい、その辺にしとけ。彼女はここに来たばかりだぞ?」

「だからじゃ~~ん♪軽いスキンシップでお互いの交流を図らないとね♪」

セブンスはヤバイセクハラ親父みたいなことを言い出した。

「もういい、お前は向こうに行ってろ」

「はーい」

クロウがしっしと手で払うとセブンスは素直にそれに従って闘技場から去っていった。
続くようにもう一人の対戦相手であるベルトをつけた魔女がこちらにやってきた。

「すみません、手こずりました」

ベルトの魔女は申し訳なさそうにクロウにそう告げる。

「相性があるからな。仕方ないさ」

ベルトの魔女は薄い水色でボサボサの髪をしていた。ズボンだけでなく服のいたるところに
謎のベルトを着けており、何かの意味があるというよりはそういうファッションのようだった。
彼女はこちらに向きなおって言った。

「はじめまして、私は『交換の魔女』クリスです」

「あ、はじめまして、私は『停止の魔女』のトールです」

今度は握手をすることはなく、お互い軽く頭をぺこっと下げるにとどまった。

「ところで交換の魔女…というと?」

俺はクロウに目配せしながらクリスに問いかけてみた。
どのあたりまでが聞いてよいボーダーラインなのかわからなかったからだ。
クロウはとくに反応がなかったので、この程度は別に聞いても問題ないようだ。

「私は二つの対象の性質やスキルを入れ替えることができるんです」

「ほぅ」

ややこしいスキルだな。と口に出そうになったが失礼だと思いその言葉を飲み込んだ。

「ハハ、わかりにくいですよね」

クリスは俺の顔を見て苦笑いする。どうやら口には出さなかったが
なにが言いたかったのか顔に出ていたようだ。

「スキルというのは単純に技術力のことです。例えばピアニストと一般人をリンクさせて
能力を入れ替えることで、一般人がピアノを流暢にひくことができるようにさせることが
できます。逆に入れ替え中はピアニストはピアノをほとんどひくことができません」

「へぇ」

「また事前にホットコーヒーとアイスコーヒーの性質を入れ替えて
見た目はそのままで温度だけ入れ替えたりもできます」

「なるほどな」

使い方によってはかなりいろんな選択肢をとることができる強いスキルだなと思った。
とはいえ…

「基本的には武術系スキルではないので、試合の際は魔女の一般魔法で挑まないといけないので
結局、連戦連敗です」

クリスはしょんぼりと肩を落とした。

「まぁ気にするな。武力だけが強さじゃないさ。試合はあくまで経験値稼ぎのために過ぎない」

クロウがクリスを慰めた。
この世界でレベルを上げる一番の最短ルートは「戦うこと」だそうだ
それを考えると非戦闘スキルの魔女にも戦いを強いられるのはなかなか不合理な感じがした。

クリスはクロウと少し会話をすると、そのままこちらにぺこりと頭を下げて
闘技場を去っていった。

「さてと、闘技場はこのくらいにして次のところへ行こうか」

次にクロウは図書室を案内してくれた。
結構大きめの部屋で、本もかなりの数を蔵書しているようだった。
俺は適当な本を手に取ってパラパラと眺めてみる。
うーん、やはりこの世界の言語、喋りはうまい具合に翻訳されているが
読み書きはそうもいかなさそうだ。
俺にとっては謎の文字列がずらずらと並んでいるだけである。

「ここは私を含めた悠久の魔女たちが世界中のいろんな書物を集めたものを置いてる。
中には人間たちが喉から手が出るほど欲しがるような本も眠っているだろう」

クロウは適当な本をとってそれを左右に振った。

「ま、私たちが集めた当時はごくごく一般的な書物だったことが多いのだがね」

「なるほど…」

悠久の時…不老不死…彼女の口からたびたび出る言葉
俺は思い切って聞いてみた。

「魔女っていうのは不老不死…つまり老けもしないし死にもしないんですか?」

「まぁそうなるね」

「でも弱い魔女は狩られたりするんですよね?」

「あぁ…」

クロウはやや視線を上に泳がすと、続けて言った。

「言葉のあやだな。病気や老衰で死ぬことはないが
攻撃されれば死ぬこともあるよ」

「そうですか」

やはり無敵モードなどという都合のいいことにはならないようだ。

「ついでに言うと、不老ってのもそのままの意味じゃない」

「?」

「魔女だって最初は赤ちゃんとして生まれてくる。その後、一定の年齢まで達したら
成長が止まり、その姿で固定されるということさ」

俺は疑問をぶつけた。

「一定の年齢って?」

「それは個人差があるが、大体人間でいう10代~20代の容姿で固定されるのがほとんどだね」

「なるほど…」

「ちなみに加齢スピードも個人差がある。人間と同じスピードで年をとる魔女もいれば
200年かけてやっと人間の20歳程度に到達する魔女もいる。さすがに30年も40年も赤ん坊
やってるわけにはいかないし、7歳や8歳くらいまでは基本的に人間と変わらないスピードで
成長するみたいだけどね」

「なるほど、等間隔で成長しているわけではないんですね」

「そうなるな。それじゃあ、次のところへ行こうか」

俺はクロウの言葉に従って彼女について行った。


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