死神見習いと過ごす最後の一年

小泉洸

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サリーがいない日常

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 嵐の去った後のようとは、こういう状況を言うのだろう。

この一ヶ月、泣いたり笑ったり大騒ぎする少女と、ほとんどの時間を共有していたわけで、

サリーの居ない部屋は、ガランとして悲しいほどに静かだった。

スマホで友人と馬鹿話をする気にもならない。

なにもする気が起きない。

しかしなにもしていないと、また自分の死について考えてしまうのが必至、

と考えた俺は、夏休みの宿題に没頭することにした。

スマホの電源はOFFだ。


気がつくと夕方だった。

気分転換に夕飯の準備のため、買い物に出ることにした。

一人で自転車を漕いでスーパーに向かっていると、

ついこの間までの自分が過ごしていた休日の生活を思い出した。

だらだらとゲームをして、気がつくと夜になっていて、

コンビニにカップ麺とお菓子を買いに行くのが日課という感じ。

自炊できないわけでもなかったが、面倒で一切料理なんかしていなかった。

変われば変わるものだ。

まさか美少女死神の健康管理を考えて、料理をするようになるとは夢にもおもわなんだ。


スーパーで薄切り豚肉が安かった。

あ、でも買いすぎてもダメだな、しばらくサリーは留守だったな。

野菜もあまり大量には買えない。あいつ良く喰うからな。

いつもの調子で買い物をしたら腐らせてしまう。

買い物中、妙に静かだと思ったら、

あれもこれも買いたがる少女が傍らにいないことに気がついてしまった。

俺は苦笑した。いれば五月蠅いし、かといって、いなけりゃいないで結構寂しいものだな。


一人で料理をして、一人で食べる。

当たり前だった生活に違和感を感じる。

習慣とは恐ろしい。


さてご馳走様。

やることも無いし、また宿題に戻ろうか。その前に、スマホを一応チェックしておこう。

サリーからのメッセージが入っていた。

なんだか部屋が温かく明るくなった気がした。

内容はサリーとその友達が逆立ちをしている写真付きのくだらないもので、肝心の宿泊場所の情報は皆無だった。

「怪我するなよ」

とメッセージをすると、瞬殺で

「全然OK」

と、リプライが返ってきた。

おい、スマホ中毒にもほどがあるぞ。

俺は

「これから勉強に集中するから返事はしないぞ」

と、リプライする。

また速攻で

「えー?いじわる、感じ悪い、さいあく」

とサリーから返事。

やれやれ、どこが最悪なんだよ。

「じゃあ、今晩はゆっくり休め。夜更かしするなよ。合宿楽しんで」

と返して、俺は電源を切った。

少女が画面を見ながら頬を膨らまして、不満そうな顔をするのが目に浮かんだ。

俺は深呼吸をした。さあ、切り替えて勉強に集中しよう。死の恐怖に飲み込まれる前に。

 次の日も規則正しく起床し、メシを自分で作って食い、

宿題を着々と片付け、飽きたら新学期の内容の予習をした。

夜、スマホをONにすると、サリーからのメッセージが山のように入っていた。

最初は「おはよう」から始まり、

合宿の様子の写真、

変顔、

スイカにかぶりついている写真、

やたらめったら送ってきている。

最後のメッセージは

「返事しろ、ばーか」

となっていた。


頭痛がした。

なんなんだ、この死神は。

「楽しんでるみたいだな、良かったよ。俺はもう寝る、じゃあな」

と返事をすると、また瞬速でリプライが入った。

内容は

「返事ありがと!お休み、また明日ね」

という殊勝なものだった。調子が狂うな。


夜、寝るとき、このまま目が覚めないのではないか、という気分になるのが、最近の悩みだった。

実感は無いが、俺はあと一年生きられないのだからな。

どうしようもないので、疲れ切るまで勉強をするのが日課になっていたわけだが、

サリーがいないというのがこんなに堪えるとは想像もしていなかった。

なんだかんだ言って、俺はあの少女に甘えていたのかもな、そんな気持ちになった。

泣いたり笑ったり怒ったり、小さな台風が傍らにいるようなもので、

俺は随分と気が紛れていたのだ。

俺は大きく深呼吸をしてから、目を閉じた。

サリーの笑顔を、泣き顔を想像すると少し落ち着いた。


 さて次の日も、俺は模範的な優等生の生活を送った。

気晴らしに遊びに行っても、これが最後かもとか思うのがイヤだったのだ。

勉強する分には果てが無いし、どんなに長く生きたって、

全部を網羅して覚えたり、理解することなどできないことがわかっていたから、

時間が限られている自分にとっては、かえって気楽だった。

できるだけやればいいし、どこまでやっても、いつまでやっても途中、だからな。

朝から晩まで部屋に籠もって集中して宿題に取り組んでいたら、そろそろ終わりが見えてきた。

なんてことだ。

中学の時は夏休みの最後になるまで宿題なんか終わらせられなくて、友達のノートを丸写しをしていたのにな。

たった3日間で、夏休みの宿題が終わろうとしている。

高校の方が量も多いし、質もそれなりなのにな。集中力とは恐ろしいものだ。

さて、もうひと頑張りしようか。
 

夜、寝る前にスマホの電源を入れてみると、メッセージが一つだけ入っていた。

そこには真っ黒に日焼けしたサリーが、あっかんべーと舌を出してる写真が載っているだけだった。

どうしようもないな、こいつは。

「お休み!」

と送ると、また速攻で

「明日、家に帰る!お土産買ったよ。お休み!!」

と返ってきた。

早くサリーに会いたい、なんて返事はさすがに俺はできなかった。


 夕方、そろそろサリーが帰ってくるかな、と思うと落ち着かなかった。

宿題はついに終わらせてしまったし、新学期の予習にもなんだか身が入らない。

ダメだな、集中、集中。

しばらく勉強に没頭していた。

 呼び鈴が鳴る、何度も何度も鳴らされた。

ピンポン、ピンポン、ピンポン!

なんなんだ、サリーなら鍵を持っているはずだが。

インターホンの画面を見ると、大写しでサリーの満面の笑顔。

随分、日に焼けたな。俺は言った。

「今、開ける」

まるで注目してもらいたい子供のような行動だな。

ドアを開けると、小さな台風が部屋に飛び込んできた。少女は大声で俺に言った。

「ただいま!」

お帰り、サリー。

「お腹空いた!!」

帰っていきなり、それかよ。シャワーでも浴びてこい、その間にメシを作っておくよ。

それより合宿どうだった?

「楽しかった!でもやっぱり家が一番!!」

あのさ、お前の家じゃないんだけど、とは俺は言えず苦笑するしかなかった。

「あのね、いっぱい話したいことがあるんだよ」

わかった、わかった、食事の時にな。まず荷物を置いて、シャワーだ。

はあい、と元気よく答えて少女は自分の部屋に向かった。

やれやれ、日常が戻ってきた。

俺は単純に嬉しかった。お帰り、サリー。待ちくたびれたよ、とは直接言えないけど。
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