死神見習いと過ごす最後の一年

小泉洸

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デート

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 真夜中に俺は飛び起きた。
汗で身体がびっしょりになっている。

またあの悪夢だ。

大きな口を開けた怪物が俺に迫ってくる。
身体は動かず避けようも無い。
助けも来ない。

俺はそれに飲み込まれてどこまでも真っ暗な闇に落ちていく。

「死」という名の怪物だ。

心臓が早鐘の様に鼓動する。恐怖に身体が硬直する。

俺は唇を噛んだ。畜生。なんで俺は死ななくちゃならないんだ。

こうなったら眠れないことがわかっているので、
俺は机に向かって無理に勉強をすることにする。

いつものことだ。心に隙間ができると、死が忍び寄ってくる。

恐怖を抑えることはできなくても、
心の隙間を無理矢理閉じて、別の方向に意識を向けることくらいなら、
なんとかできる。

俺は数学の問題に意識を集中させた。

 八月も半ばを過ぎると、さすがに太陽も出力を落とし始め、
遊園地出陣の日は、外出するにはちょうどいい暑さだった。

天気も快晴。サリーは御機嫌で、電車の中でも笑顔全開だった。

随分、機嫌がいいな、と問いかけると、少女は背伸びをして俺の耳元に囁いた。

「だって、『彼氏彼女』になって初めてのデートだよ!嬉しくないわけないじゃん!」

そうか、と俺も答えて二人で顔を見合わせて笑った。

麦わら帽子とワンピースが華奢な少女によく似合う。


 最寄り駅に着いて、いよいよ入場。なにから乗ろうか?

「ジェットコースター!」

サリーは即答した。

「私、乗ったこと無いんだ。超楽しみ!」

大丈夫かな?

俺の心配は杞憂に終わり、
きゃーきゃーいう割には、サリーは大いに楽しんだらしく、2回続けて乗ることになった。

「あー、楽しかった!」

パラソルの下で一緒にソフトクリームを食べながら、
次は、なににしようかと顔を寄せながらパンフレットを見て相談する。
本当に恋人同士みたいだ。

こういう瞬間には、死の恐怖も遠ざかる。

「このパラシュートで落ちてくるみたいなのはどうかな?」

サリーが提案する。

随分高くまで打ち上げられるのだけど、大丈夫か?と俺が尋ねると、
サリーが、高いところは大好きだと言うので乗ることにした。

これまた、めっちゃ高い、意外に怖いと、わあわあ騒いではいたが、
結局は楽しんだらしく、降りた時には、顔を興奮で紅潮させていた。

「ちょっと怖かったけど、面白かったぁ」


 次はどうしようか、と相談しながら通路を並んで歩いていると、
いつもは、俺の右手側にいるサリーが、なにも言わず、
表情を硬くして反対側に位置を変えた。

おかしいなと思って周囲を見ると、我々の右側にお化け屋敷の建物があった。

「サリー、もしかしてお化け屋敷が怖いのか?」

横目で俺を見上げて唇を噛み、小さく少女が肯く。

神様なのに?

サリーは小声で言った。

「だって、あっちには、あんな怖いお化けなんていないもの」

そうか。人間の想像力の方がよっぽど怖いものを産んでいるということか。
でも怖がりすぎだろ。

「でもでも、あんなものまともに見たら夜、眠れなくなるよ」

サリーは俺の左手をぎゅっと掴んで離さない。

お化け屋敷の建物の外に掲示されている毒々しい色遣いの絵から、
典型的な江戸のお化け、ろくろっ首が長い舌を出してにやりと笑いかけている。

「じゃあ、早くここを離れて別のところに行こう」

俺は本気で怯える少女の手を引っ張って観覧車の方に向かった。


「はああ、怖くて死ぬかと思った」

とは少女の弁。大げさだな。手は繋いだままだった。

観覧車には、数人のカップルが並んでいる。
そろそろ陽の光が夕方の色を示し始めている。

係員が、ゴンドラの扉を開けてくれる。
二人で乗り込むと、扉が締まった。

ゆっくり、ゆっくりゴンドラは上がっていく。

サリーは窓にかじりついて歓声をあげた。

「わああ、すごくきれい!」

夕陽が街をあかね色に染め始めている。ほんとだ、美しいな。

都会の中とは思えないほど、ゴンドラの中は静かで、
ゴンドラを動かす動力の音が小さく響くだけだった。

俺達は黙って外の風景を眺めていた。

 ゴンドラから降りて、出口に向かう途中でサリーが言った。

「勇気、今日はありがとうね」

こちらこそ、楽しかったよ。ありがとう。

少女は俺の方を見上げて、にっこり笑って言った。

「遊園地でも、家までの道も、家でもずっと一緒だね。こういうのが幸せというものだね!」

なんだか本当にラブラブな彼氏彼女みたいだなと、少女と手を繋いだまま俺は思った。


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