水魔法しか使えない私と婚約破棄するのなら、貴方が隠すよう命じていた前世の知識をこれから使います

黒木 楓

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2話

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 どうやら15歳にもなって水魔法だけしか扱えない魔法士というのは、欠陥がある人間のようだ。

 婚約破棄を宣言してきたラルフは、浮気した癖に私を非難してくる。

「隠すよう命じていた力か、水魔法士か使えない奴の戯言だな」

「私は普通ではない水魔法を使えると言い、実物を見せたのに効力を試そうともしませんでしたよね」

「俺より優秀でないのだから当然だろ。何か仕掛けを用意して騙すつもりだと察しはつく、騙されて痛い目を見るぐらいなら対応しないのが最善だ」

 飲んだ人を強くしたり回復する聖水だって作れたけど、婚約者のラルフは信じてくれなかった。

 目の前で出しても「事前に用意した聖水とすり替えて、俺を騙そうとしているに違いない」と言い出す始末だ。

 立場が下の私が優秀であるわけないと決めつけ、何を言っても否定してくる。

 そんな男が私の婚約者ラルフで、妻にならなくて済むのなら清々していた。

「ラルフ様は、心の底から私のことを見下していますね」

「当然だ。扱える魔法属性の数が決まるのは15歳まで、お前には婚約して1年の間に様々な魔法を試めさせたが、何をしても魔力を得た時点で使えた水魔法しか使えなかった」

「ラルフ様が好きなリーシャ様は4属性扱えますが、私は水魔法に特化していると発想を変えることはできませんか?」

 普通の人は2,3属性扱えるみたいで、4属性扱えるサーシャはかなり凄い魔法士だ。

 そして1属性の私は悪い意味でヤバい魔法士みたいだけど、例外的存在だと推測している。

 説明してみても、やはりラルフは信じようとしなかった。

「見苦しいぞ。お前より遥かに優れているサーシャは別の男と婚約していたが、それは先日解消された」

「そうなのですか?」

 公爵令嬢のサーシャは、先日婚約を破棄していたのか。

 それからすぐ、婚約破棄をしたラルフと婚約するって……浮気を疑われるとか、考えないのだろうか?

 そこは気になったけど、心配する必要がないから聞かないでおこう。

「確かにお前の出す水は美味いがそれだけしか価値がない。サーシャでも同じことができるし他の魔法が使えるのだから、どちらを選ぶのかは明白だろう」

 価値がないとされる私が何を言っても、ラルフは婚約破棄を取り消すことはなさそうだ。

 それがわかったからこそ、私は本心を口に出せる。   

「わかりました。立場が上の人の命令は聞く必要があったけど、貴方が夫になるとか絶対嫌だったし清々するわ」

「なんだと! 水魔法しか使えない無能が! 最後に殴って追い出してやろう!!」

 私の発言が気に入らなかったのか、殴りかかろうとしてきたラルフの顔に杖を向ける。 

 この部屋には私とラルフしかいなかったから、最後に水魔法の恐ろしさを教えることにしよう。

「――ごぼぉっっ!?」

 大きな水球をラルフの顔を覆うように発生させて、部屋の中なのに溺れてもらう。

 助けを求めてる声は水球内で気泡と化して、手で弾こうにも私の魔力が強いから無意味だ。

 数秒後には顔にはりつけた大きな水球を解除したけど、もがき苦しんでいたラルフが私を睨む。

「な、なんだ今の恐ろしい攻撃は!?」

「前に話した水魔法の優れた使い方です。これを「そんなのすぐ打ち消せるから使うな」と命令したのは貴方でしょう」

「おい、まさかお前……これからこの魔法を使うつもりか!?」

「使う機会があれば使うに決まっているでしょう。もう命令を聞く必要はありません」

 これは水球を長時間維持できる私しかできない水魔法の使い方だけど、人に向けて使うのははじめてだった。

 ラルフは実験相手にちょうどよかったし、殴られそうになったのだから反撃もする。

 なにより――別れたかったけど明らかにラルフの方が悪く、その上に私の悪口を言い出したことが気に入らなかった。

   ◇◆◇

「……そうか、ラルフ様に婚約破棄すると言われてしまったか」

 ラルフを懲らしめた後は屋敷に戻り、私は部屋にお父様とお母様を呼び今日の出来事を報告する。

 公爵令嬢サーシャの名前を出すと、お父様は納得しているようだ。

 そしてお母様は、私が水魔法を使ったと聞くと嬉しそうだ。

「オォ―ッッホッホ! 最後にラルフを苦しめたのでしょう。いい気味だわ!」

「オーッホッホ! ありがとうございます!」

「気にしてなさそうでよかった。リリカの水魔法が凄いのに、隠すよう命じたラルフ様は自分より優れていると思われたくなかったのだろう」

 お母様の美しい高笑いを聞いてテンションが上がってしまったけど、お父様は冷静だ。

 冷静でいられるからこそ、このハイテンションなイリスお母様と結婚できたのでしょう。

 2人もラルフに呆れているようで、私は頷く。

「はい。それは間違いないと思います。常識の範囲で水魔法を使ったとしても、性能を弱めるよう命令して来ましたからね」

「妻が夫より優れていることが許せない人はいるのよ。私は貴方と出会えてよかったわ」

 お母様は婚約破棄された娘が目の前にいるのに、お父様とイチャつこうとしている。

 魔法士として実力が高く、その強さに惹かれて従者となっている弟子も多い。

 だからこそラルフの侯爵家もイリスの娘である私と婚約したけど、15歳になっても水魔法しか使えなかったから見限ったようだ。

 お母様の発言を聞き、お父様が思案して。

「そうなると……魔法士として優秀なサーシャ様を婚約者にするのなら、夫として上に立ちたい考えのラルフ様とは性格が合わず問題が起きそうだな」

「貴方は知らないみたいだけど、ここ半年でラルフ様の魔法の実力はサーシャ様を上回っているわ」

「ほう。そうなのか?」

「そうよ。リリカの水魔法による水を飲んだ影響だけど、気付いてなかったみたいね」

「えっ? そうなんですか?」

 私も知らなかったし、お母様は知っていたのに話さなかったのか。

 前世のゲーム知識によるものか、私は飲んだ人を強くしたり回復する聖水を作れる。

 問題は見た目が普通の水にしか見えなくて、元婚約者のラルフは信じず飲むことすらしていない。

 飲む用の美味しい水は飲んでいたけど、それにも効果があったことは初耳だ。

「最近になって発現した力だから、話さなかったのよ。私の魔力が強くなったタイミング的に、婚約者ができたことによる影響だと思うわ」

「なるほど……ラルフ様の急成長と活躍は、私の作った水が関係していたのですか」

「それ以外に考えられないわね。リリカの水魔法なら納得できるし、美味しいから瓶に入れ侯爵家で飲まれていたのよ」

「これからラルフ様は後悔しそうだな……相手が別れるよう切り出し慰謝料も払うらしいが、元婚約者の理由に納得しているのが条件のようだ」

「水魔法しか使えないのは事実ですから、私は構いません」

 相手側から婚約破棄したという事実もあるのなら、これからのことを考えると更にいいことだ。

 今後どうするべきかの話し合いもしたくて、お母様が私を眺める。

「これから新しい婚約者探しになるけど、婚約破棄したと知ってすぐ迫って来た人は見る目がありそうね」

「どういう意味ですか?」

「リリカはラルフに命令されて水魔法の力を隠してきたけど、使わなかったわけじゃないもの。見抜いている人がいるのなら、婚約破棄したと知ったらすぐに来るんじゃないかしら?」

「なるほど。そんな人がいるとは思いませんけどね」

「リリカは隠しているつもりだけど、私みたいに気付ける人もいるかもしれないわ」

 その後は高笑いをし合って話が終わり、婚約破棄されてから1ヵ月が経過する。

 お母様の予想通りすぐ婚約が決まりそうになるけど、まさか住んでいる国の第三王子が私の屋敷に来るとは誰も想像していなかった。
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