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第四章:祭りと畑のレシピ
80、最後の一手、プロに近づく日(後半)
しおりを挟む夕方のパティスリーツチヤ。やわらかな光が店内のショーケースに反射して、ガラスに飴色の模様が浮かんでいる。店の奥、厨房の手前にある試食スペースに、私たちは集まっていた。
テーブルの真ん中には、銀のトレーに並んだ焼きたての「ピーマンと白あんのフィナンシェ」。少しだけ緑がかった、ころんとした楕円形。表面はカリッとしていて、ふんわりした中身が見えるようにいくつか切り分けてある。
「ほんとに作ったんだね、これ……!」
いぶきが目をまんまるにして、フィナンシェを見つめる。はるかも「ちょっと緊張する~」と笑いながら、手をのばす。
「じゃあ、いただきます!」
全員で声をそろえて、口に運ぶ。
……ひとくち。カリッ。ふわっ。
「お、おいしい!」
思わず声が出たのは、私だけじゃなかった。いぶきも「なにこれ、白あん!? え、ピーマン入ってるの? 嘘でしょ」と笑っている。
「うん、ピーマン。でも、白あんと合わせて、火を入れることで独特の苦みがまろやかになるんだって」
奏汰が理科の実験みたいに説明すると、農家の北村さんが「おぉ、うちのピーマンがこんなふうに!」と目を細めた。
「実は、ピーマンの皮はごく薄く剥いてるんです。焼くときに水分が出すぎないように、ペーストにする前にキッチンペーパーで包んで軽く水分をとるんですよ」
土屋さんが横から補足してくれて、みんなが「へえ~!」と声をあげた。
このフィナンシェのレシピ、何回も失敗した。
甘すぎたり、苦すぎたり、焼きが強すぎて焦げたり……。何度も奏汰とキッチンで顔を見合わせて「またやりなおしか……」ってため息をついた。
でも、今日この場で、みんながにこにこしながら「おいしい」って言ってくれる姿を見たら、全部ふっとんだ。
「ピーマンの香りがふわっとくるのがいいね。あと、食感が軽い!」
「皮までちゃんと使ってて、捨てるとこないのもいいなあ。うちの子、ピーマン嫌いなのに、これなら食べるかも」
農家のお母さんがそう言ったとき、私と奏汰は目を合わせて、こっそりガッツポーズをした。
「これ、もっとたくさんの人に食べてもらえたらいいな」
私がつぶやくと、奏汰も真顔でうなずいた。
「うん……文化祭とか、地域のイベントとか。いつか、自分たちで店を出すのも、ありかも」
「私、絵とか書くの得意だから、メニューカードとか、パッケージ考えたい!」
はるかが手を挙げると、いぶきが「じゃあ私は試食係!」と笑って言った。
土屋さんがそんな私たちを見て、「ちゃんとチームになってきたね」と言った。
「お菓子作りって、一人でやるものって思われがちだけど、ほんとは違う。素材を作る人、届ける人、食べる人、そして作る人。全部つながって、一つのおいしいができるんだ」
私は静かにうなずいた。だって、奏汰や土屋さん、農家の人たち、友達がいなかったら、今日のフィナンシェは絶対に完成してなかった。
「もっと作ってみたい。今度は、地元の野菜をもっと使ったスイーツとか、冬にぴったりのあったかいお菓子とか……」
奏汰がノートを取り出しながら語り始めたので、私も自分のおかしノートを広げる。
「春になったら、いちごとかどうかな? 甘さを生かして、砂糖の量を減らしてもいい感じにできるかも」
「それいいね。あと、柚子を使ったクリームも試したい。さわやかなのに、コクが出るから、組み合わせの幅が広いし」
アイデアがぽんぽん飛び出してきて、ページがどんどん埋まっていく。
夕暮れのやさしい光のなか、ショーケースの向こうには、土屋さんの本物のケーキたちが静かに並んでいる。
でも、今日はそのとなりに、私たちのはじまりの味がちゃんと並んでいた。
「さあ、次はなにをつくろうか」
心の中で、そんな声が聞こえた気がした。
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