レシピの見つけ方 〜旅するお菓子ノート〜

武内れい

文字の大きさ
16 / 78
第一章:画面を抜けて

16、ノートとノート(後半)

しおりを挟む
 
 公園のベンチを離れたあと、私はなんだか胸が熱くなったまま、家に帰った。
 カバンの中のノートが、いつもより少し重く感じる。だけどその重さが、今は好きだった。

 部屋に戻って机にノートを広げると、私は新しいページをめくった。

 ──今日、奏汰くんのノートを読んだ。

 その書き出しから、私は自分の気持ちを少しずつ書いていった。

 〈誰かが食べたものを、誰かが覚えていて、それが記録になるって不思議〉
 〈おいしかったって気持ちを、誰かに残したいって思ったの、私もだ〉

 今まで、自分のノートはお菓子のことだけって思ってた。
 味、材料、かたち、香り。
 でも今日、奏汰くんのノートを見て、思い出や誰かの気持ちも、味の一部なんだって思った。

 ふいに、リビングから湯気の音が聞こえてきた。
 母が夕食の支度をしている。私はその匂いに誘われて、台所に足を運んだ。

「ねえ、ママ。昔、好きだったお菓子ってある?」

「うーん……小学生のころね、おばあちゃんがくれた麦こがしクッキーかな。甘すぎなくて、粉の味がしっかりしてて」

「それ、作れるかな?」

「どうだろう。材料さえわかれば、近いのはできるかも」

 私は急いでメモ帳を取りに行って、母の思い出話を聞きながら、メモを取った。

 その夜、私はさっそくレシピを調べてみた。
 麦こがしは、はったい粉とも呼ばれる炒った大麦の粉。
 香ばしい風味が特徴で、昭和の時代にはよく使われていたらしい。
 スーパーにはあまり置いてないけれど、自然食品のお店やネットでは買えるらしい。

 私は新しいページに〈はったい粉クッキーの計画〉と書いて、材料をメモした。

【麦こがしクッキー(母の記憶ver.)】

 はったい粉:80g
 薄力粉:40g
 きび砂糖:30g
 菜種油:40g
 牛乳:30g

 ボウルに粉類を入れて混ぜる
 砂糖、油、牛乳を加えてひとまとめにする
 好きな形にして、170℃のオーブンで15分焼く

 そのレシピの隣に、私はこんなふうに書き添えた。

 〈お母さんの好きだった味って、すてきだな。私は、お母さんの覚えていたい味を作ってみたい。いつか、だれかにこれ、私のお母さんが好きだったんだって言えるお菓子を〉

 数日後、放課後。
 図書室の帰りに、奏汰くんと駅前のベンチでまた会った。

「この前のマドレーヌ、真似して作ってみた」

 奏汰くんが見せてくれたノートには、自分で焼いたマドレーヌの断面図、焼成時間の違いによる食感の変化、そして──

 〈ことりのノート見て、断面図描くのもアリだなって思った〉

 って書かれていた。

「えっ、私の……? でも、あれ、ほんと子どもっぽいって思ってたし」

「全然。逆にすごいって思った。時間で味を描くってさ、面白い。だから、おれもやってみた」

 奏汰くんは、少し照れくさそうに笑った。

 私はまた、胸の奥がぽっと温かくなった。
 誰かが真似してくれるって、こんなにうれしいんだ。

「……私も、奏汰くんの思い出メモみたいなの、書いてみようかな」

「いいじゃん。思い出って、いつも誰かとくっついてるし」

「うん。じゃあ、これから〈ことりの思い出レシピ〉ってコーナー作ろうっと」

 二人で笑ったあと、ノートを閉じる音が、心地よく響いた。

 その日の夜、私はことりノートの表紙をそっとなぞってみた。
 〈旅するスイーツノート〉という文字の下に、新しい副題を書き加えた。

 〈味と想いと、私の小さな世界〉

 そう書いて、私はにっこり笑った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

四尾がつむぐえにし、そこかしこ

月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。 憧れのキラキラ王子さまが転校する。 女子たちの嘆きはひとしお。 彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。 だからとてどうこうする勇気もない。 うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。 家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。 まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。 ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、 三つのお仕事を手伝うことになったユイ。 達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。 もしかしたら、もしかしちゃうかも? そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。 結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。 いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、 はたしてユイは何を求め願うのか。 少女のちょっと不思議な冒険譚。 ここに開幕。

14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート

谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。 “スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。 そして14歳で、まさかの《定年》。 6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。 だけど、定年まで残された時間はわずか8年……! ――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。 だが、そんな幸弘の前に現れたのは、 「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。 これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。 描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。

独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。

猫菜こん
児童書・童話
 小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。  中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!  そう意気込んでいたのに……。 「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」  私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。  巻き込まれ体質の不憫な中学生  ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主  咲城和凜(さきしろかりん)  ×  圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良  和凜以外に容赦がない  天狼絆那(てんろうきずな)  些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。  彼曰く、私に一目惚れしたらしく……? 「おい、俺の和凜に何しやがる。」 「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」 「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」  王道で溺愛、甘すぎる恋物語。  最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。

ノースキャンプの見張り台

こいちろう
児童書・童話
 時代劇で見かけるような、古めかしい木づくりの橋。それを渡ると、向こう岸にノースキャンプがある。アーミーグリーンの北門と、その傍の監視塔。まるで映画村のセットだ。 進駐軍のキャンプ跡。周りを鉄さびた有刺鉄線に囲まれた、まるで要塞みたいな町だった。進駐軍が去ってからは住宅地になって、たくさんの子どもが暮らしていた。  赤茶色にさび付いた監視塔。その下に広がる広っぱは、子どもたちの最高の遊び場だ。見張っているのか、見守っているのか、鉄塔の、あのてっぺんから、いつも誰かに見られているんじゃないか?ユーイチはいつもそんな風に感じていた。

【完結】夫に穢された純愛が兄に止めを刺されるまで

猫都299
児童書・童話
タイムリープしたかもしれない。中学生に戻っている? 夫に愛されなかった惨めな人生をやり直せそうだ。彼を振り向かせたい。しかしタイムリープ前の夫には多くの愛人がいた。純愛信者で奥手で恋愛経験もほぼない喪女にはハードルが高過ぎる。まずは同じ土俵で向き合えるように修行しよう。この際、己の理想もかなぐり捨てる。逆ハーレムを作ってメンバーが集まったら告白する! 兄(血は繋がっていない)にも色々教えてもらおう。…………メンバーが夫しか集まらなかった。 ※小説家になろう、カクヨム、アルファポリス、Nolaノベル、Tales、ツギクルの6サイトに投稿しています。 ※ノベルアップ+にて不定期に進捗状況を報告しています。 ※文字数を調整した【応募版】は2026年1月3日より、Nolaノベル、ツギクル、ベリーズカフェ、野いちごに投稿中です。 ※2026.1.5に完結しました! 修正中です。

こちら第二編集部!

月芝
児童書・童話
かつては全国でも有数の生徒数を誇ったマンモス小学校も、 いまや少子化の波に押されて、かつての勢いはない。 生徒数も全盛期の三分の一にまで減ってしまった。 そんな小学校には、ふたつの校内新聞がある。 第一編集部が発行している「パンダ通信」 第二編集部が発行している「エリマキトカゲ通信」 片やカジュアルでおしゃれで今時のトレンドにも敏感にて、 主に女生徒たちから絶大な支持をえている。 片や手堅い紙面造りが仇となり、保護者らと一部のマニアには 熱烈に支持されているものの、もはや風前の灯……。 編集部の規模、人員、発行部数も人気も雲泥の差にて、このままでは廃刊もありうる。 この危機的状況を打破すべく、第二編集部は起死回生の企画を立ち上げた。 それは―― 廃刊の危機を回避すべく、立ち上がった弱小第二編集部の面々。 これは企画を押しつけ……げふんげふん、もといまかされた女子部員たちが、 取材絡みでちょっと不思議なことを体験する物語である。

「いっすん坊」てなんなんだ

こいちろう
児童書・童話
 ヨシキは中学一年生。毎年お盆は瀬戸内海の小さな島に帰省する。去年は帰れなかったから二年ぶりだ。石段を上った崖の上にお寺があって、書院の裏は狭い瀬戸を見下ろす絶壁だ。その崖にあった小さなセミ穴にいとこのユキちゃんと一緒に吸い込まれた。長い長い穴の底。そこにいたのがいっすん坊だ。ずっとこの島の歴史と、生きてきた全ての人の過去を記録しているという。ユキちゃんは神様だと信じているが、どうもうさんくさいやつだ。するといっすん坊が、「それなら、おまえの振り返りたい過去を三つだけ、再現してみせてやろう」という。  自分の過去の振り返りから、両親への愛を再認識するヨシキ・・・           

アリアさんの幽閉教室

柚月しずく
児童書・童話
この学校には、ある噂が広まっていた。 「黒い手紙が届いたら、それはアリアさんからの招待状」 招かれた人は、夜の学校に閉じ込められて「恐怖の時間」を過ごすことになる……と。 招待状を受け取った人は、アリアさんから絶対に逃れられないらしい。 『恋の以心伝心ゲーム』 私たちならこんなの楽勝! 夜の学校に閉じ込められた杏樹と星七くん。 アリアさんによって開催されたのは以心伝心ゲーム。 心が通じ合っていれば簡単なはずなのに、なぜかうまくいかなくて……?? 『呪いの人形』 この人形、何度捨てても戻ってくる 体調が悪くなった陽菜は、原因が突然現れた人形のせいではないかと疑いはじめる。 人形の存在が恐ろしくなって捨てることにするが、ソレはまた家に現れた。 陽菜にずっと付き纏う理由とは――。 『恐怖の鬼ごっこ』 アリアさんに招待されたのは、美亜、梨々花、優斗。小さい頃から一緒にいる幼馴染の3人。 突如アリアさんに捕まってはいけない鬼ごっこがはじまるが、美亜が置いて行かれてしまう。 仲良し3人組の幼馴染に一体何があったのか。生き残るのは一体誰――? 『招かれざる人』 新聞部の七緒は、アリアさんの記事を書こうと自ら夜の学校に忍び込む。 アリアさんが見つからず意気消沈する中、代わりに現れたのは同じ新聞部の萌香だった。 強がっていたが、夜の学校に一人でいるのが怖かった七緒はホッと安心する。 しかしそこで待ち受けていたのは、予想しない出来事だった――。 ゾクッと怖くて、ハラハラドキドキ。 最後には、ゾッとするどんでん返しがあなたを待っている。

処理中です...