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第二章:大人たちのお菓子作り
21、工場見学の申し込み(前半)
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朝の教室は、いつもより少しだけわくわくとした空気に包まれていた。社会科見学の時期に近づいてきたからだろうか。友達同士で予定を話し合う声が、教室のあちこちから聞こえてくる。
私は机の上に置いたノートをちらりと見て、今日の予定を思い出そうとしていた。そんなとき、教室の外、廊下の掲示板の前で、さくらと奏汰くんがなにか話しているのが見えた。
「ねえ、ことりも見て! 工場見学の募集が出てるよ」
さくらが手を振りながら言った。
私はそっと近づいて掲示板をのぞき込んだ。そこには、〈小宮製菓のお菓子工場〉と〈佐々木の酪農工房〉の見学募集が貼られていた。
(わあ、本当に行けるんだ……)
胸の奥が高鳴る。私は自然と声に出していた。
「工場でお菓子がどうやって作られてるのか、ちゃんと見られるんだって。楽しみ!」
「普段は入れない場所だからな」と、奏汰くんも笑顔を見せる。
掲示には、工場の衛生管理や安全対策についても細かく書かれていた。〈手洗いのルール〉〈白衣と帽子の着用〉〈見学中は走らないこと〉など、大人の世界らしいしっかりとした決まり。
「大人の仕事って、意外といろんなルールがあるんだなあ」
私は思わずつぶやいた。
「そうそう、職場って、思ってるより厳しいんだって。でも、みんなが安心して見学できるようにってことだからね」と、さくら。
「うん……でもドキドキするなあ。お菓子屋さんの秘密が見られるなんて!」
私は思わず、目を輝かせていた。
「奏汰くん、みんなで申し込もうよ。きっと楽しいよ」
自然と口をついて出たその言葉に、奏汰くんは少し照れながらもうなずいた。
「質問って、何を聞こうかなあ……」
そう言いながら、私はそっと昨日のノートを取り出した。ページの隅に、手書きで書いたレシピと、小さなひとことメモが添えてある。
〈焦がしバターは、音と香りで見極める〉
〈泡立てすぎると、しっとり感がなくなるかも〉
(プロの人なら、もっと細かい工夫があるのかな)
そんなことを考えていると、先生が教室に入ってきて、手を叩いた。
「おはようございます。みんな、見学の紙、確認したかな? 来週からはグループごとに質問を考えてもらいます。いい質問ができれば、現地で直接答えてもらえるかもしれませんよ」
ざわざわと、教室の空気がさらに活気づいた。
私は席のすぐ近くにいた奏汰くんに小声で話しかけた。
「ねえ、質問って、どんなこと聞いてみたい?」
奏汰くんは少し考えてから、まっすぐ私を見て言った。
「うーん……工場でいちばん気をつけていること、かな。味もだけど、安全とか、アレルギーとか……うちのお店も材料選び、すごく大事にしてるから」
「そっか……たしかに。材料のこととか、保存方法とか、聞いてみたいなあ」
「あと、機械で作るお菓子と、手作りの違いとかも」
「いいね、それも質問リストに入れたい!」
私はふたりで顔を見合わせて、少し笑った。
(きっとこの見学は、ただ楽しいだけじゃなくて、学ぶことがいっぱいあるんだ)
その日の放課後。私は家に帰ると、ノートの空白のページを一枚開いた。質問リスト用の下書きを、こっそり先に始めておきたくなったからだ。
〈小宮製菓 工場見学 質問メモ〉
・味を守るためにいちばん気をつけていることは?
・材料の仕入れはどんなふうにしている?
・機械で作るときの難しさや工夫は?
・一日にどれくらいの数を作っているの?
・働いている人は、どうやって仕事を覚えるの?
書いているうちに、どんどん聞きたいことが湧いてきた。
(でも、全部聞けるわけじゃないか……グループで、ちゃんと相談しなきゃ)
そう思った私は、次のページにタイトルだけ書いた。
〈佐々木の酪農工房 質問メモ〉
(こっちは、ミルクやバターのことが中心かな。チーズとかヨーグルトの作り方も……)
書きながら、私はだんだんと想像が広がっていくのを感じていた。
白い制服を着た大人たちが、清潔な工場の中で、慣れた手つきで機械を動かしている。鉄のパイプから流れてくるバターや生クリーム。ガラス越しに、私たちの目がきらきらと輝く。
そんな景色が、まるで映画のワンシーンみたいに浮かんでくる。
(いつか、こんなふうに働けたら、素敵だな)
私はそっとノートを閉じた。ページの端に、小さく〈夢の下書き〉と書き足して。
まだ夢と呼ぶには恥ずかしいけれど、たしかに、少しずつ心の中に芽が出てきているのを感じていた。
私は机の上に置いたノートをちらりと見て、今日の予定を思い出そうとしていた。そんなとき、教室の外、廊下の掲示板の前で、さくらと奏汰くんがなにか話しているのが見えた。
「ねえ、ことりも見て! 工場見学の募集が出てるよ」
さくらが手を振りながら言った。
私はそっと近づいて掲示板をのぞき込んだ。そこには、〈小宮製菓のお菓子工場〉と〈佐々木の酪農工房〉の見学募集が貼られていた。
(わあ、本当に行けるんだ……)
胸の奥が高鳴る。私は自然と声に出していた。
「工場でお菓子がどうやって作られてるのか、ちゃんと見られるんだって。楽しみ!」
「普段は入れない場所だからな」と、奏汰くんも笑顔を見せる。
掲示には、工場の衛生管理や安全対策についても細かく書かれていた。〈手洗いのルール〉〈白衣と帽子の着用〉〈見学中は走らないこと〉など、大人の世界らしいしっかりとした決まり。
「大人の仕事って、意外といろんなルールがあるんだなあ」
私は思わずつぶやいた。
「そうそう、職場って、思ってるより厳しいんだって。でも、みんなが安心して見学できるようにってことだからね」と、さくら。
「うん……でもドキドキするなあ。お菓子屋さんの秘密が見られるなんて!」
私は思わず、目を輝かせていた。
「奏汰くん、みんなで申し込もうよ。きっと楽しいよ」
自然と口をついて出たその言葉に、奏汰くんは少し照れながらもうなずいた。
「質問って、何を聞こうかなあ……」
そう言いながら、私はそっと昨日のノートを取り出した。ページの隅に、手書きで書いたレシピと、小さなひとことメモが添えてある。
〈焦がしバターは、音と香りで見極める〉
〈泡立てすぎると、しっとり感がなくなるかも〉
(プロの人なら、もっと細かい工夫があるのかな)
そんなことを考えていると、先生が教室に入ってきて、手を叩いた。
「おはようございます。みんな、見学の紙、確認したかな? 来週からはグループごとに質問を考えてもらいます。いい質問ができれば、現地で直接答えてもらえるかもしれませんよ」
ざわざわと、教室の空気がさらに活気づいた。
私は席のすぐ近くにいた奏汰くんに小声で話しかけた。
「ねえ、質問って、どんなこと聞いてみたい?」
奏汰くんは少し考えてから、まっすぐ私を見て言った。
「うーん……工場でいちばん気をつけていること、かな。味もだけど、安全とか、アレルギーとか……うちのお店も材料選び、すごく大事にしてるから」
「そっか……たしかに。材料のこととか、保存方法とか、聞いてみたいなあ」
「あと、機械で作るお菓子と、手作りの違いとかも」
「いいね、それも質問リストに入れたい!」
私はふたりで顔を見合わせて、少し笑った。
(きっとこの見学は、ただ楽しいだけじゃなくて、学ぶことがいっぱいあるんだ)
その日の放課後。私は家に帰ると、ノートの空白のページを一枚開いた。質問リスト用の下書きを、こっそり先に始めておきたくなったからだ。
〈小宮製菓 工場見学 質問メモ〉
・味を守るためにいちばん気をつけていることは?
・材料の仕入れはどんなふうにしている?
・機械で作るときの難しさや工夫は?
・一日にどれくらいの数を作っているの?
・働いている人は、どうやって仕事を覚えるの?
書いているうちに、どんどん聞きたいことが湧いてきた。
(でも、全部聞けるわけじゃないか……グループで、ちゃんと相談しなきゃ)
そう思った私は、次のページにタイトルだけ書いた。
〈佐々木の酪農工房 質問メモ〉
(こっちは、ミルクやバターのことが中心かな。チーズとかヨーグルトの作り方も……)
書きながら、私はだんだんと想像が広がっていくのを感じていた。
白い制服を着た大人たちが、清潔な工場の中で、慣れた手つきで機械を動かしている。鉄のパイプから流れてくるバターや生クリーム。ガラス越しに、私たちの目がきらきらと輝く。
そんな景色が、まるで映画のワンシーンみたいに浮かんでくる。
(いつか、こんなふうに働けたら、素敵だな)
私はそっとノートを閉じた。ページの端に、小さく〈夢の下書き〉と書き足して。
まだ夢と呼ぶには恥ずかしいけれど、たしかに、少しずつ心の中に芽が出てきているのを感じていた。
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