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第二章:大人たちのお菓子作り
23、準備の日々(前半)
しおりを挟む工場見学が近づいてきて、教室では私たちがグループごとに集まり、工場や酪農工房での質問リスト作りを始めていた。
「どんなこと聞いたらいいかな?」
さくらが鉛筆を動かしながら言う。
「やっぱりお菓子作りのコツとか、材料の秘密とか?」奏汰くんが答えた。
私はノートにメモを取りながら考えた。
「私は、バターの焦がし方や、砂糖の種類を詳しく知りたいな」
「それ、いいね!」ゆかりちゃんが笑顔でうなずく。
「あと、工場の衛生管理のことも聞きたいよね。安全に作るための工夫って何だろう?」
ふと、自分がいつも家でお菓子を作るときのことを思い出した。母が「卵白はしっかり泡立てること」と言っていたのも、きっと職人さんの技術に通じているのだろう。
質問リストはどんどん具体的になっていく。たとえば、〈焦がしバターの温度は何度ですか?〉〈粉をふるうのはどうしてですか?〉〈機械はどんなふうに動いていますか?〉など。
先生も時々アドバイスをくれた。
「工場の仕事は、安全と品質が何より大事。失敗を防ぐために厳しいルールがあります。そういうところもぜひ見てきてくださいね」
放課後、私の家のキッチンでは夕飯の準備が進み、母が忙しく動き回っていた。
「ことり、今日も学校はどうだった?」と母が声をかけてくる。
「うん、工場見学の準備で質問リストを作ってるの。バターの焦がし方とか、材料の話をもっと知りたいんだ」と私が答えると、
母は一度包丁を止め、にっこり笑いながら言った。
「社会に出るってね、楽しいことばかりじゃないけど、そういう細かい工夫やルールを守ることが大切なのよ。私も昔はね……」
私は興味津々で、母の話に耳を傾けた。
母が話し始めたのは、自分が若い頃の働き方のことだった。
「昔はパートの仕事で、時間も不規則だったし、子どもを育てながらの仕事は本当に大変だったの。でも、手を抜かずにひとつひとつ丁寧にやることで、周りの信頼を得たのよ」
その言葉の重みが、私の胸にじんわりと響いた。
「そうなんだ……お菓子作りも、そういうふうに真剣にやるんだね」
母はうなずきながら、包丁で野菜を切る手を止め、キッチンのテーブルに昔の写真を広げた。
そこには昔の洋菓子店や市場の風景、忙しく働く母の姿が写っていた。
「昔はね、今みたいに機械も発達してなかったし、手作りが当たり前だったのよ。お菓子もひとつずつ手で形を整えたり、焦がしバターの香りを確かめたり。だから失敗も多かったけど、それが仕事の喜びでもあったの」
私は写真をじっと見つめた。
「昔の人はすごいなあ。今も、昔のやり方を大切にしているんだね」
夜、私は自分のノートを開き、母の話を思い返しながら、今日考えた質問リストを書き加えた。
〈質問リスト例〉
焦がしバターはどうやって作るの?
卵白を泡立てるコツは?
お菓子の形はどうやって決まるの?
衛生管理で一番大事なことは?
失敗したときはどうするの?
「質問はいっぱいあるけど、現場の人に直接聞けるなんて嬉しいな」
そう思いながら、私は微笑んだ。
翌日、学校の授業の合間に友達と一緒に質問リストを確認した。みんなの意見が加わり、さらに具体的な質問が増えていく。
「この質問、面白いね。私も聞いてみたい!」とさくらが笑う。
私は友達と一緒に準備する楽しさと、家で聞いた昔の話の重みを胸に、工場見学への期待をますます膨らませていた。
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