レシピの見つけ方 〜旅するお菓子ノート〜

武内れい

文字の大きさ
23 / 78
第二章:大人たちのお菓子作り

23、準備の日々(前半)

しおりを挟む
 
 工場見学が近づいてきて、教室では私たちがグループごとに集まり、工場や酪農工房での質問リスト作りを始めていた。

「どんなこと聞いたらいいかな?」
 さくらが鉛筆を動かしながら言う。

「やっぱりお菓子作りのコツとか、材料の秘密とか?」奏汰くんが答えた。

 私はノートにメモを取りながら考えた。
「私は、バターの焦がし方や、砂糖の種類を詳しく知りたいな」

「それ、いいね!」ゆかりちゃんが笑顔でうなずく。
「あと、工場の衛生管理のことも聞きたいよね。安全に作るための工夫って何だろう?」

 ふと、自分がいつも家でお菓子を作るときのことを思い出した。母が「卵白はしっかり泡立てること」と言っていたのも、きっと職人さんの技術に通じているのだろう。

 質問リストはどんどん具体的になっていく。たとえば、〈焦がしバターの温度は何度ですか?〉〈粉をふるうのはどうしてですか?〉〈機械はどんなふうに動いていますか?〉など。

 先生も時々アドバイスをくれた。
「工場の仕事は、安全と品質が何より大事。失敗を防ぐために厳しいルールがあります。そういうところもぜひ見てきてくださいね」


 放課後、私の家のキッチンでは夕飯の準備が進み、母が忙しく動き回っていた。

「ことり、今日も学校はどうだった?」と母が声をかけてくる。

「うん、工場見学の準備で質問リストを作ってるの。バターの焦がし方とか、材料の話をもっと知りたいんだ」と私が答えると、

 母は一度包丁を止め、にっこり笑いながら言った。
「社会に出るってね、楽しいことばかりじゃないけど、そういう細かい工夫やルールを守ることが大切なのよ。私も昔はね……」

 私は興味津々で、母の話に耳を傾けた。


 母が話し始めたのは、自分が若い頃の働き方のことだった。

「昔はパートの仕事で、時間も不規則だったし、子どもを育てながらの仕事は本当に大変だったの。でも、手を抜かずにひとつひとつ丁寧にやることで、周りの信頼を得たのよ」

 その言葉の重みが、私の胸にじんわりと響いた。

「そうなんだ……お菓子作りも、そういうふうに真剣にやるんだね」

 母はうなずきながら、包丁で野菜を切る手を止め、キッチンのテーブルに昔の写真を広げた。

 そこには昔の洋菓子店や市場の風景、忙しく働く母の姿が写っていた。

「昔はね、今みたいに機械も発達してなかったし、手作りが当たり前だったのよ。お菓子もひとつずつ手で形を整えたり、焦がしバターの香りを確かめたり。だから失敗も多かったけど、それが仕事の喜びでもあったの」

 私は写真をじっと見つめた。
「昔の人はすごいなあ。今も、昔のやり方を大切にしているんだね」


 夜、私は自分のノートを開き、母の話を思い返しながら、今日考えた質問リストを書き加えた。

 〈質問リスト例〉

 焦がしバターはどうやって作るの?
 卵白を泡立てるコツは?
 お菓子の形はどうやって決まるの?
 衛生管理で一番大事なことは?
 失敗したときはどうするの?

「質問はいっぱいあるけど、現場の人に直接聞けるなんて嬉しいな」

 そう思いながら、私は微笑んだ。


 翌日、学校の授業の合間に友達と一緒に質問リストを確認した。みんなの意見が加わり、さらに具体的な質問が増えていく。

「この質問、面白いね。私も聞いてみたい!」とさくらが笑う。

 私は友達と一緒に準備する楽しさと、家で聞いた昔の話の重みを胸に、工場見学への期待をますます膨らませていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート

谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。 “スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。 そして14歳で、まさかの《定年》。 6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。 だけど、定年まで残された時間はわずか8年……! ――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。 だが、そんな幸弘の前に現れたのは、 「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。 これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。 描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。

独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。

猫菜こん
児童書・童話
 小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。  中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!  そう意気込んでいたのに……。 「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」  私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。  巻き込まれ体質の不憫な中学生  ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主  咲城和凜(さきしろかりん)  ×  圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良  和凜以外に容赦がない  天狼絆那(てんろうきずな)  些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。  彼曰く、私に一目惚れしたらしく……? 「おい、俺の和凜に何しやがる。」 「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」 「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」  王道で溺愛、甘すぎる恋物語。  最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。

あだ名が242個ある男(実はこれ実話なんですよ25)

tomoharu
児童書・童話
え?こんな話絶対ありえない!作り話でしょと思うような話からあるある話まで幅広い範囲で物語を考えました!ぜひ読んでみてください!数年後には大ヒット間違いなし!! 作品情報【伝説の物語(都道府県問題)】【伝説の話題(あだ名とコミュニケーションアプリ)】【マーライオン】【愛学両道】【やりすぎヒーロー伝説&ドリームストーリー】【トモレオ突破椿】など ・【やりすぎヒーロー伝説&ドリームストーリー】とは、その話はさすがに言いすぎでしょと言われているほぼ実話ストーリーです。 小さい頃から今まで主人公である【紘】はどのような体験をしたのかがわかります。ぜひよんでくださいね! ・【トモレオ突破椿】は、公務員試験合格なおかつ様々な問題を解決させる話です。 頭の悪かった人でも公務員になれることを証明させる話でもあるので、ぜひ読んでみてください! 特別記念として実話を元に作った【呪われし◯◯シリーズ】も公開します! トランプ男と呼ばれている切札勝が、トランプゲームに例えて次々と問題を解決していく【トランプ男】シリーズも大人気! 人気者になるために、ウソばかりついて周りの人を誘導し、すべて自分のものにしようとするウソヒコをガチヒコが止める【嘘つきは、嘘治の始まり】というホラーサスペンスミステリー小説

童話短編集

木野もくば
児童書・童話
一話完結の物語をまとめています。

黒地蔵

紫音みけ🐾書籍発売中
児童書・童話
友人と肝試しにやってきた中学一年生の少女・ましろは、誤って転倒した際に頭を打ち、人知れず幽体離脱してしまう。元に戻る方法もわからず孤独に怯える彼女のもとへ、たったひとり救いの手を差し伸べたのは、自らを『黒地蔵』と名乗る不思議な少年だった。黒地蔵というのは地元で有名な『呪いの地蔵』なのだが、果たしてこの少年を信じても良いのだろうか……。目には見えない真実をめぐる現代ファンタジー。 ※表紙イラスト=ミカスケ様

ノースキャンプの見張り台

こいちろう
児童書・童話
 時代劇で見かけるような、古めかしい木づくりの橋。それを渡ると、向こう岸にノースキャンプがある。アーミーグリーンの北門と、その傍の監視塔。まるで映画村のセットだ。 進駐軍のキャンプ跡。周りを鉄さびた有刺鉄線に囲まれた、まるで要塞みたいな町だった。進駐軍が去ってからは住宅地になって、たくさんの子どもが暮らしていた。  赤茶色にさび付いた監視塔。その下に広がる広っぱは、子どもたちの最高の遊び場だ。見張っているのか、見守っているのか、鉄塔の、あのてっぺんから、いつも誰かに見られているんじゃないか?ユーイチはいつもそんな風に感じていた。

ぽんちゃん、しっぽ!

こいちろう
児童書・童話
 タケルは一人、じいちゃんとばあちゃんの島に引っ越してきた。島の小学校は三年生のタケルと六年生の女子が二人だけ。昼休みなんか広い校庭にひとりぼっちだ。ひとりぼっちはやっぱりつまらない。サッカーをしたって、いつだってゴールだもん。こんなにゴールした小学生ってタケルだけだ。と思っていたら、みかん畑から飛び出してきた。たぬきだ!タケルのけったボールに向かっていちもくさん、あっという間にゴールだ!やった、相手ができたんだ。よし、これで面白くなるぞ・・・

笑いの授業

ひろみ透夏
児童書・童話
大好きだった先先が別人のように変わってしまった。 文化祭前夜に突如始まった『笑いの授業』――。 それは身の毛もよだつほどに怖ろしく凄惨な課外授業だった。 伏線となる【神楽坂の章】から急展開する【高城の章】。 追い詰められた《神楽坂先生》が起こした教師としてありえない行動と、その真意とは……。

処理中です...