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第二章:大人たちのお菓子作り
25、工場見学初日(前半)
しおりを挟むパッケージデザインを考えてから数日、私たちの総合学習の特別プロジェクトはついに本格的に動き出した。
今日は、地元の大きなお菓子工場、小宮製菓にみんなで見学に行く日。朝の教室はいつもよりざわついていて、友達もみんなワクワクしている様子だった。
「ねえ、ことり、今日はどんなお菓子作ってるところ見るの?」隣に座るさくらが聞いてきた。
「私はクッキーとか、焼き菓子の作り方が気になるな。家で作っても、なんか違うんだよね」私も正直に答えた。
奏汰くんはノートに今日の質問リストをまとめながら、「自動で混ぜる機械の仕組みとか知りたい。砂糖の溶け方とか、理科で習ったことが生かせそう」と言った。
教室を出てバスに乗り込むと、夏の青空の下、街がどんどん遠くなる。友達と笑いながら話していると、不思議と緊張は少し和らいだ。
工場に着くと、私たちはヘルメットと白衣、使い捨ての靴カバーを渡された。普段の学校の制服と違って、一気に仕事現場って感じがした。
「まずは手洗いと消毒をしっかりね」とスタッフのお姉さんが教えてくれた。流水で手を洗い、アルコール消毒をする。手のひらの隅々まで、まるで実験の前みたいに丁寧に。
工場の中に入ると、さっきまでの静かな学校とはまるで別世界。大きな機械がゴウンゴウンと音を立てて動いている。
「わあ……!」みんなの声が自然に出た。
ラインの前には大人のスタッフさんたちがテキパキと作業をしている。白い帽子とエプロン、マスク姿で、表情は真剣そのものだ。
「ここでは毎日、何千個ものお菓子が作られているんだよ」と案内してくれたスタッフの佐藤さんが話し始めた。
「まずは、生地を作るためにバターと砂糖を混ぜ合わせます。機械の中には回転する羽根がついていて、材料を均一に混ぜるんです」
機械の大きなボウルの中で、白い砂糖とクリーム色のバターがぐるぐると混ざり合っている。
「この混ぜ方がすごく大事で、時間が短すぎると均一にならず、長すぎると生地が柔らかくなりすぎてしまうんだ」
奏汰くんが隣でメモを取りながら、「理科で習った分子の動きに似てる。温度や時間で性質が変わるって話」ってつぶやいた。
「そうそう、だから機械も温度管理がしっかりできるんだよ」佐藤さんが笑顔で説明を続けた。
次に見せてくれたのは、生地を型に流し込む機械だった。透明なパイプからどろっとした生地が流れ出て、小さなクッキーの形になっていく。
「型抜きは手作業でやることもあるけど、こういう機械があると大量生産できるんだよ」
目の前で動く機械のスピードに圧倒されながらも、私たちは一つ一つの工程に見入った。
「質問があれば、どんどん聞いてね」と佐藤さん。
「この砂糖は普通のグラニュー糖?それとも特別な種類ですか?」ゆかりちゃんが勇気を出して聞いた。
「いい質問ですね。ここで使っているのはグラニュー糖ですが、場合によっては粉糖や三温糖も使います。お菓子の種類や味の調整によって使い分けています」
「粉糖はしっとりした口当たりになるんですよね」奏汰くんも自分の知識を活かして補足した。
質問タイムは少し緊張したけれど、佐藤さんは一つひとつ丁寧に答えてくれて、少しずつ私も緊張がほどけてきた。
工場の奥には大きなオーブンが並んでいて、温度は180度。そこにクッキー生地が入れられ、焼き上がるのを待っている。
「オーブンの温度と時間も絶妙に調整しています。焼きすぎると硬くなりすぎてしまうし、焼き足りないと中が柔らかすぎるんです」
「家庭で作る時はどうすればいいんだろう……」と考えながら、私は思い切って手を挙げて聞いた。
「家庭用のオーブンは機種によっても温度の差があるので、最初は少し短めに焼いて様子を見てください。焼き時間は15分くらいですが、焼き色を見て調整すると失敗しにくいですよ」
佐藤さんは優しく教えてくれて、みんなもメモを取る手が止まらなかった。
休憩時間になると、さくらが「ねえ、ことり。今日習ったこと、家で早速試してみたいね」
「うん、私も。やっぱり機械ってすごいけど、手作りの良さも知りたいな」私は答えた。
奏汰くんも「家のキッチンとは全然違うけど、ここの工程を知ることで理科の勉強ももっと面白くなりそうだ」
工場の見学は、ただお菓子を作るところを見るだけじゃなくて、科学や工夫がいっぱい詰まっている世界だと気づいた。
まだまだ緊張でドキドキしているけれど、これが私たちの学びの第一歩なんだ。
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