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第二章:大人たちのお菓子作り
31、自由研究発表会(前半)
しおりを挟む夕暮れの風が心地よく、学校からの帰り道を歩きながら、私は先日見学した小宮製菓の工場での光景を思い浮かべていた。
工場の中は機械音や甘い香りに包まれ、何百ものクッキーが次々と焼きあがっていく様子は圧倒的だった。でも、いちばん気になったのは私たちが自分で作らせてもらった焼き上がったクッキーの乾燥時間だった。
「どうしてあんなに長く乾燥させるんだろう……?」
ノートに記したメモを指でなぞりながら考える。クッキーは焼きあがったあと、まだ少し柔らかくてしっとりしている。そのままだとべたついてしまうから、乾燥機に入れて水分を飛ばすのだという。
でも、私たちが実際に製造ラインに入らせてもらったときの乾燥時間は思ったより短く感じた。もっと長く時間をかけたほうが、カリッとしておいしいんじゃないか、と疑問がわいた。
帰宅してすぐに、私は奏汰くんに電話をかけた。
「ねえ、昨日の乾燥時間って、もっと長くしてもいいと思わない?」
電話の向こうで奏汰は少し考えて答えた。
「うん、おれもそう思った。でも、工場の人たちは温度や湿度を細かく計ってて、最適な時間を見てるんだって。たぶんあれがベストなんだと思うよ」
「そうなんだ……でも、なんだかまだしっとりしてた気がして……」
「実はね、乾燥の時間だけじゃなくて、焼き加減や生地の配合もすごく影響するんだって。乾燥が長すぎると、逆にクッキーが硬くなりすぎちゃうこともあるんだ」
「そうか……ただ長くすればいいってわけじゃないんだね」
二人の会話は、単純な時間の問題だけじゃなく、科学的なバランスや感覚の繊細さへと広がっていった。
翌日の学校の家庭科の授業では、クッキー作りに挑戦することになっていた。私は気持ちを切り替え、授業に臨んだ。グループは、ゆかりちゃんやさくら、他のクラスメイトと一緒だった。手順は簡単だけれど、ポイントは混ぜ方と焼き加減にあるという。
「卵と砂糖をよく混ぜるのが大事なんだよね」とさくらが笑顔で言う。
「うん、空気を入れてふわっとさせるのがコツだよ」とゆかりちゃんも口を添えた。
みんなでワイワイ話しながら生地を混ぜ、オーブンに入れた。待っている間、クラスは和やかな空気に包まれていた。焼き上がりを見ると、やや膨らみが足りず、いくつかは焦げてしまった。
「わあ、失敗したー」とみんなが笑い合う。
私も最初は落ち込んだけれど、周りの笑い声を聞いているうちに、失敗も悪くないと思えてきた。
「一緒に作ると、味も違うんだね」と私がぽつりと言うと、奏汰くんが「だね、みんなの個性が混ざるのが面白いんだ」と答えた。
授業が終わると、私は自分のノートに今日のことを書き込んだ。失敗したときの気持ちや、みんなと協力して作ったこと、笑い合えたこと。失敗も学びの一部だと改めて感じたのだ。
家に帰ってからは、工場での見学メモを読み返しながら、今度は乾燥時間と生地の配合の関係について調べ始めた。図書館で借りた製菓の本には、焼き菓子の水分含有量や温度調整のコツが詳しく載っている。
私はその細やかな説明を読んでいるうちに、お菓子作りが単なる料理ではなく、一種の科学実験のようだと感じた。
「そうか……ここまで考えて作ってるんだ」
手間をかけている大人たちの仕事への真剣さとこだわりを思いながら、私の中で新しい挑戦の気持ちが膨らんでいった。
そしてふと、リビングの壁にかけられたカレンダーを見つめる。
(次はもっと上手に作ってみせる)
そう心に決めた私の目は、夕暮れの窓から差し込む淡い光に照らされて、きらきらと輝いていた。
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