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エレオノーラ視点
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「エレオノーラ・シャルロット、貴様は数々の悪行を重ねてきた!婚約者であるアルフレッド殿下を毒殺しようとした罪、侍女への陰湿な虐待、そして王宮の財を私腹を肥やした罪!よって、ここに貴様の婚約破棄と国外追放を言い渡す!」
王家の庭園に設けられた断罪台の上、エレオノーラは冷たい夜風に吹かれながら、群衆の憎悪に満ちた視線を浴びていた。煌びやかなドレスは泥に汚れ、宝石は嘲笑うかのように鈍く光る。数時間前まで、彼女は王国の未来を担う王太子妃だった。それが今や、悪逆非道の悪女として断罪されている。
(全て、あの女の巧妙な罠…!)
エレオノーラの脳裏には、アリア・ローズマリーの、あの日の涙ながらの訴えが蘇る。アルフレッドが突然腹痛を訴えた日、アリアは蒼白な顔で訴えた。「エレオノーラ様が、殿下に毒を盛ったに違いありません!」と。普段から、完璧主義のエレオノーラを疎んでいた侍従たちは、その言葉に疑いを持たなかった。後日、エレオノーラの私室から発見されたという微量の毒物。それは、アリアが事前に用意し、密かに仕込んだものだった。
侍女たちの間でも、不穏な空気が流れていた。
エレオノーラの侍女頭であるベアトリスは、いつの間にかアリアに籠絡されていた。些細なミスをした侍女たちが、エレオノーラから厳しい叱責を受けたと証言する。だが実際には、それはアリアとベアトリスの画策だった。アリアは、エレオノーラの目の届かないところで侍女たちに優しく接することで、エレオノーラが陰湿な虐待を行っているという印象を周囲に植え付けていたのだ。
王宮の会計監査でも、不可解な点が指摘されていた。エレオノーラの管理する財産に関する帳簿には、不自然な支出がいくつか見られたのだ。それは、アリアが密かに仕組んだ罠だった。
彼女は、エレオノーラの留守中に帳簿を改竄し、架空の支出を巧妙に計上していた。そして、決定的な証拠として、エレオノーラの私室から、偽造された領収書と、横領されたとされる金額に見合う宝石が見つかったという報告が上がった。もちろん、それもアリアが用意したものだった。
アリアは、その愛らしい容姿と、計算されたような弱々しい振る舞いを武器に、アルフレッドの心を掴み、周囲の人々を操っていった。アルフレッドは、アリアの涙と、用意周到な証拠を前に、エレオノーラの言葉に耳を傾けることすらしなかった。
「何か言い残すことはあるか、エレオノーラ・シャルロット!」
壇下の騎士団長が、剣を構えながら冷酷な声で問いかけた。
エレオノーラはゆっくりと顔を上げた。群衆の中に、勝利を確信した笑みを浮かべるアリアと、冷たい目でこちらを見下ろすアルフレッドの姿が見えた。
「わたくしは、身に覚えのない罪で断罪されること、深く遺憾に思います。いつか、真実が明らかになることを信じております。アリア・ローズマリー、あなたのその笑顔の裏にあるものを、いつか殿下が知る日が来るでしょう」
エレオノーラの言葉は、静かだが、確かな重みを持っていた。
そう言うと、エレオノーラは自ら断罪台を降りた。騎士たちは戸惑いながらも、彼女を王宮の門へと連行していく。
群衆は、様々な感情を抱きながら、エレオノーラの背中を見送った。アルフレッドは、エレオノーラの最後の言葉に、一瞬、胸の奥に小さな棘が刺さったような感覚を覚えたが、すぐにアリアの柔らかな手に安堵した。
(愚かな男…)
エレオノーラは、心の中で嘲笑した。
夜明け前の冷たい空気の中、エレオノーラは一台の粗末な馬車に乗せられ、王都を後にした。彼女の胸には、アリアの犯した罪の数々が、決して消えることのない傷跡として刻まれていた。
数年後。エレオノーラは、国外の小さな村で薬師としてひっそりと暮らしていた。王都の華やかな生活とは無縁の、静かで質素な日々。それでも、時折、風の便りに聞こえてくる王都の噂は、エレオノーラの心を微かに揺さぶった。
アリアは、王太子妃の座を手に入れたことで、その隠されていた本性を徐々に露わにし始めていた。平民出身であることへの拭いきれない劣等感は、高慢な態度へと変わり、周囲の貴族たちを見下すようになった。些細なことで激昂し、侍女たちに理不尽な要求を繰り返すアリアの悪評は、宮廷内で広まるのに時間はかからなかった。
アルフレッドは、アリアの度重なる醜態に、次第に愛想を尽かし始めていた。エレオノーラを陥れたという拭いきれない罪悪感と、アリアへの幻滅が、彼の心を蝕んでいた。かつて、その聡明さと品格に惹かれていたエレオノーラの面影を思い出すたびに、アリアとの落差に深く絶望していた。
そんな中、宮廷内で、エレオノーラが陥れられた事件の真相を探る動きが、ごく静かに始まっていた。
エレオノーラの最後の言葉が、一部の良識ある貴族たちの心に小さな疑念の種を植え付けていたのだ。そして、アリアの度重なる失態は、その疑念を徐々に大きくしていった。
決定的な証拠は、意外なところから現れた。
かつてアリアに買収され、偽証に加担していた侍女の一人が、良心の呵責に耐えかね、密かに王に真実を告白したのだ。
彼女は、アリアがどのようにして毒物を手に入れ、それをエレオノーラの部屋に仕込んだのか、侍女たちへの虐待の偽証をどのように指示したのか、そして、会計帳簿の改竄の手口を、詳細に語った。
王は激怒し、直ちにアリアの身柄を拘束、徹底的な調査を開始した。そして、次々とアリアの悪行を示す証拠が明るみに出た。彼女が、エレオノーラを陥れるために周到に準備し、多くの人々を操っていた事実が白日の下に晒されたのだ。
アルフレッドは、全ての真相を知り、打ちのめされた。
自分が信じていた女性の底知れない悪意、そして、無実のエレオノーラを貶めたという事実に、彼は深い後悔の念に苛まれた。彼は、公の場で深く謝罪し、王太子としての地位を自ら辞退した。
アリアは、その全ての罪状が明らかになり、王太子妃の地位を剥奪された上、国外追放を言い渡された。かつて、エレオノーラを断罪した場所で、今度は自分が断罪されることになったのだ。
エレオノーラは、遠い地でこれらの知らせを聞き、静かに微笑んだ。彼女が直接手を下すことなく、アリア自身の悪意と愚かさが、彼女を破滅へと導いたのだ。そして、アルフレッドもまた、自らの不明を深く悔いることになった。
----------------
「エレーナ!」
明るい子どもの声が響く。
数年後、小さな村にはエレーナという優秀な薬師がいた。彼女は若く美しく、穏やかな日々を送っていた。
傍らには彼女を愛おしげに見つめる穏やかな男がいる。
彼女の過去を知る者は誰もいない。そう、誰も。
しかし彼女は愛されていた。
彼女は、静かに、だが確かに、自分の人生を歩んでいた。
かつての悪役令嬢は、その知性と内なる強さによって、過去の呪縛から解放され、新たな未来を歩み始めていた。
王家の庭園に設けられた断罪台の上、エレオノーラは冷たい夜風に吹かれながら、群衆の憎悪に満ちた視線を浴びていた。煌びやかなドレスは泥に汚れ、宝石は嘲笑うかのように鈍く光る。数時間前まで、彼女は王国の未来を担う王太子妃だった。それが今や、悪逆非道の悪女として断罪されている。
(全て、あの女の巧妙な罠…!)
エレオノーラの脳裏には、アリア・ローズマリーの、あの日の涙ながらの訴えが蘇る。アルフレッドが突然腹痛を訴えた日、アリアは蒼白な顔で訴えた。「エレオノーラ様が、殿下に毒を盛ったに違いありません!」と。普段から、完璧主義のエレオノーラを疎んでいた侍従たちは、その言葉に疑いを持たなかった。後日、エレオノーラの私室から発見されたという微量の毒物。それは、アリアが事前に用意し、密かに仕込んだものだった。
侍女たちの間でも、不穏な空気が流れていた。
エレオノーラの侍女頭であるベアトリスは、いつの間にかアリアに籠絡されていた。些細なミスをした侍女たちが、エレオノーラから厳しい叱責を受けたと証言する。だが実際には、それはアリアとベアトリスの画策だった。アリアは、エレオノーラの目の届かないところで侍女たちに優しく接することで、エレオノーラが陰湿な虐待を行っているという印象を周囲に植え付けていたのだ。
王宮の会計監査でも、不可解な点が指摘されていた。エレオノーラの管理する財産に関する帳簿には、不自然な支出がいくつか見られたのだ。それは、アリアが密かに仕組んだ罠だった。
彼女は、エレオノーラの留守中に帳簿を改竄し、架空の支出を巧妙に計上していた。そして、決定的な証拠として、エレオノーラの私室から、偽造された領収書と、横領されたとされる金額に見合う宝石が見つかったという報告が上がった。もちろん、それもアリアが用意したものだった。
アリアは、その愛らしい容姿と、計算されたような弱々しい振る舞いを武器に、アルフレッドの心を掴み、周囲の人々を操っていった。アルフレッドは、アリアの涙と、用意周到な証拠を前に、エレオノーラの言葉に耳を傾けることすらしなかった。
「何か言い残すことはあるか、エレオノーラ・シャルロット!」
壇下の騎士団長が、剣を構えながら冷酷な声で問いかけた。
エレオノーラはゆっくりと顔を上げた。群衆の中に、勝利を確信した笑みを浮かべるアリアと、冷たい目でこちらを見下ろすアルフレッドの姿が見えた。
「わたくしは、身に覚えのない罪で断罪されること、深く遺憾に思います。いつか、真実が明らかになることを信じております。アリア・ローズマリー、あなたのその笑顔の裏にあるものを、いつか殿下が知る日が来るでしょう」
エレオノーラの言葉は、静かだが、確かな重みを持っていた。
そう言うと、エレオノーラは自ら断罪台を降りた。騎士たちは戸惑いながらも、彼女を王宮の門へと連行していく。
群衆は、様々な感情を抱きながら、エレオノーラの背中を見送った。アルフレッドは、エレオノーラの最後の言葉に、一瞬、胸の奥に小さな棘が刺さったような感覚を覚えたが、すぐにアリアの柔らかな手に安堵した。
(愚かな男…)
エレオノーラは、心の中で嘲笑した。
夜明け前の冷たい空気の中、エレオノーラは一台の粗末な馬車に乗せられ、王都を後にした。彼女の胸には、アリアの犯した罪の数々が、決して消えることのない傷跡として刻まれていた。
数年後。エレオノーラは、国外の小さな村で薬師としてひっそりと暮らしていた。王都の華やかな生活とは無縁の、静かで質素な日々。それでも、時折、風の便りに聞こえてくる王都の噂は、エレオノーラの心を微かに揺さぶった。
アリアは、王太子妃の座を手に入れたことで、その隠されていた本性を徐々に露わにし始めていた。平民出身であることへの拭いきれない劣等感は、高慢な態度へと変わり、周囲の貴族たちを見下すようになった。些細なことで激昂し、侍女たちに理不尽な要求を繰り返すアリアの悪評は、宮廷内で広まるのに時間はかからなかった。
アルフレッドは、アリアの度重なる醜態に、次第に愛想を尽かし始めていた。エレオノーラを陥れたという拭いきれない罪悪感と、アリアへの幻滅が、彼の心を蝕んでいた。かつて、その聡明さと品格に惹かれていたエレオノーラの面影を思い出すたびに、アリアとの落差に深く絶望していた。
そんな中、宮廷内で、エレオノーラが陥れられた事件の真相を探る動きが、ごく静かに始まっていた。
エレオノーラの最後の言葉が、一部の良識ある貴族たちの心に小さな疑念の種を植え付けていたのだ。そして、アリアの度重なる失態は、その疑念を徐々に大きくしていった。
決定的な証拠は、意外なところから現れた。
かつてアリアに買収され、偽証に加担していた侍女の一人が、良心の呵責に耐えかね、密かに王に真実を告白したのだ。
彼女は、アリアがどのようにして毒物を手に入れ、それをエレオノーラの部屋に仕込んだのか、侍女たちへの虐待の偽証をどのように指示したのか、そして、会計帳簿の改竄の手口を、詳細に語った。
王は激怒し、直ちにアリアの身柄を拘束、徹底的な調査を開始した。そして、次々とアリアの悪行を示す証拠が明るみに出た。彼女が、エレオノーラを陥れるために周到に準備し、多くの人々を操っていた事実が白日の下に晒されたのだ。
アルフレッドは、全ての真相を知り、打ちのめされた。
自分が信じていた女性の底知れない悪意、そして、無実のエレオノーラを貶めたという事実に、彼は深い後悔の念に苛まれた。彼は、公の場で深く謝罪し、王太子としての地位を自ら辞退した。
アリアは、その全ての罪状が明らかになり、王太子妃の地位を剥奪された上、国外追放を言い渡された。かつて、エレオノーラを断罪した場所で、今度は自分が断罪されることになったのだ。
エレオノーラは、遠い地でこれらの知らせを聞き、静かに微笑んだ。彼女が直接手を下すことなく、アリア自身の悪意と愚かさが、彼女を破滅へと導いたのだ。そして、アルフレッドもまた、自らの不明を深く悔いることになった。
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「エレーナ!」
明るい子どもの声が響く。
数年後、小さな村にはエレーナという優秀な薬師がいた。彼女は若く美しく、穏やかな日々を送っていた。
傍らには彼女を愛おしげに見つめる穏やかな男がいる。
彼女の過去を知る者は誰もいない。そう、誰も。
しかし彼女は愛されていた。
彼女は、静かに、だが確かに、自分の人生を歩んでいた。
かつての悪役令嬢は、その知性と内なる強さによって、過去の呪縛から解放され、新たな未来を歩み始めていた。
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