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第二章 廻る帰還
遠い一日の終わりに
しおりを挟むユメビシを除く四名が、俄には信じがたい光景を目の当たりにしていた。
――彼はその右手で、しっかりと妖の蕾を掴んでいる。
寄生主から引き剥がされたことで、交戦的だった蔦はその機能を完全停止。
徐々にそれらは形を保てなくなったのか、淡い光に包まれながら、ほろほろと崩れ消えていく。
自身の手元から旅経つ蛍火の様な厄災を、ユメビシはただ静かに見送っていた。
そして残ったのは蟠華から解放され、安らかな呼吸を繰り返す少女だけ。
……彼女に憑いていた妖は、ただの寄生華ではなかった。
それよりずっと厄介で強力。その上、あまりに絶望的な存在。
「華宿人」が華に操られた人間であるなら。
「華災獣」は華に殺され、化け物へと変貌した人間の末路。
いや……どちらにせよ、だ。
偶然居合わせたはずのユメビシは、宣言通りに摘出してみせた。
この結果が、今後の季楼庵にどれだけ大きな波紋を呼ぶのか、と。
トキノコは背筋が凍ると同時に、我が主人の性なのか、柄にもなく興奮していた。
――何故なら「蟠華の摘出」という芸当自体、本来は季楼庵当主にしか扱えない技術のはずだから。
当然だが、ユメビシは当主ではない。
でも、彼に移植された両手の、本来の持ち主は……
(……う~~~うん、無理! 難しいことを考えるのは性に合わない! シュンセイや、リンシュウ様に聞こう!)
脳天から煙が上がり始めたトキノコだったが、よろめき膝をついたユメビシによって、現実に引き戻された。
それはアリマやチナリも同様だったらしく、三人は同時にユメビシへ駆け寄った。
***
以上の終幕をもって、身動き一つしなかった小さな人影は、大きく深呼吸をした。
現場となった部屋の西側には窓が一つ。
傘ザクラは元々、崖上に拡がる林を刈り取って建てられており、今も建物周辺を囲む様に木々が並んでいる。
それらの木陰から室内の様子を観察すること数時間。
我が主人からの命は「こっそり覗き見してきてちょうだい。有事の際は殺しても構わないけど、ギリギリまで見るだけに留めなさい」だった。
――途中、妹が武器を収めた時はどうしようかと思ったけれど、今日のところは出番無かったわね。
妖艶に微笑みながら、傘ザクラに背を向け歩き出す。
もうすっかり日は暮れ、夜道は月明かりすら心許ない。
しかし慣れた足取りで軽やかに、踊るように進む、トキノコと同じ背丈の黒髪をした少女。
頭の横で左右対称に結び、輪っかにした三つ編みには、妹や弟とお揃いの髪飾りが愉しげに揺れていた。
目的地へ続く石段には、「心底退屈だ」という態度を隠そうともしない庭師が腰を下ろし、ぼんやり月を見上げていた。
第三茶室では、いつも通りの光景である。
素通り間際、渾身のウィンクを送れば、彼はなんとも表現し難い表情で大きなため息を漏らした。
――ふふ、からかいがいのある人。
そんな庭師との戯れもそこそこに、急ぎ足で石段を駆け上がると、我が主人は縁側で酒盛りの真っ最中であった。
「リンシュウ様、ただいま戻りました」
「おかえり、ユバちゃん。……退屈な展開だったかしら?」
「いえ、大変不可解な光景でした。お気に召すかと」
「唆るわね、続けて頂戴」
「トキノコが運び込んだ女、蟠華に寄生されていたようですが、ユメビシなる男により摘出されました」
――第三茶室の主人、リンシュウ様。
茶室邸ただ一人の女主人であり、季楼庵最恐とも謳われるお方が。
大変珍しいことに、一瞬ポカンと初々しい少女のような表情で固まっていた。
「ふふっ……あっはっはは! 何よソレ! 気持ち悪いほど都合がいいわね、出来すぎよ!」
「……リンシュウ様、如何されますか?」
「ユバ。ヨミトを探し出して、会合を急がせなさい。あのペテン師がどういう魂胆なのか、吐かせたくなったわ」
「はい、かしこまりました」
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