【第2部開始】ぬいぐるみばかり作っていたら実家を追い出された件〜だけど作ったぬいぐるみが意志を持ったので何も不自由してません〜

月森かれん

文字の大きさ
17 / 49
第1部 第1章 勘当旅編

16話 新しい仲間?

しおりを挟む
 休憩も兼ねて街道の近くに立っている木にもたれかかっていた。筋肉痛はなくなっていたが少し足が疲れてきた頃だったのでちょうどいい。
 少しお互いついて話したのだが、どうやら草スライムも気づいたらぬいぐるみに入っていたらしい。さっきパンをあげたスライムとは別の個体だった。
  
 『や~、本当にビックリですよー』

 私の膝の上で軽快に話す草スライムとは対照的にラディウスは肩の上で無言を貫いている。やっぱり機嫌が悪そうだ。

 「明るいんだね。凶暴だったらどうしようかと思った」

 『スライムは基本明るいですー。何でかは知りませんけど。
 でも本当にありがとう、シーラちゃん。草ぬいぐるみとはいえ、また景色を見て回れるのですから』

 草スライムは私のことを「シーラちゃん」と呼んでいる。
嫌ではないのだがちゃん付けで呼ばれたことなんて5歳頃までなので、なんだかくすぐったい。

 「そういえばあなたも前は別の生き物だったの?」

 『いいえー?ワタシは前もスライムですよー』

 「え?」

 スライムだった魔物が何からのかたちで死んでしまって私のぬいぐるみに入り込んだ。
ということは――

 「ラーディーウースー?」

 『ウゲッ⁉』

 こっそり肩から降りようとしていたラディウスを右手で掴んで顔の前に持ってきた。

 「ラディウスも前はドラゴンだったの⁉」

 『そうだよ!つーか、お前気づいてなかったのかよ⁉いろいろおかしな部分あっただろ⁉』

 「そんなこと言われてもわからないもん!」

 『鈍感娘が!普通気づくだろ!だいたい――』

 「アハハッ!シーラちゃんたち、おもしろーい!」

 もっと続くかと思われていた私とラディウスの口喧嘩は草スライムの一言で止められた。

 『おもしろいだと!?どこがだ⁉』

 『そうやって言いあってるところがですー。子ども同士のケンカみたいで』

 「確かに私はまだ子どもだけど……ラディウスは違うよね?」

 『当然だ!』

 『ラディウスさんは子どもっぽいんですねー。アハハハッ!』

 言い返せなくなったラディウスを見て草スライムは笑い転げていた。なんだかんだ言ってケンカをとめてくれたことに感謝しないといけない。
 ゆっくり気持ちを落ち着かせてから話題を変える。

 「名前ほしいよね?私もなんて呼んだらいいかわからないし」

 『ほしいでーす!ワクワク!』

 「そんなに楽しみなんだ……。なんか緊張する」

  変な意味の名前はつけられない。つける気もないけれど。
しばらく悩んでいるとピッタリの名前が思い浮かんだ。
 
 「じゃあ、テネル!」

 『テネル……わぁ!とってもいい名前ですね!嬉しいですー』

 草スライム――テネルは膝の上でピョンピョン跳び跳ねる。
柔らかいという意味で、さっきパンをあげたスライムから閃いた。今は草なので柔らかくはないが、そのうち布で作り直すつもりだ。 
 テネルと盛り上がっていると私に掴まれたままのラディウスがため息をつく。
 
 『俺たぶんコイツと気が合わねぇな』

 「だからって突っかからないでよ?」
 
 『大丈夫ですよー。そうなってもスルーしますから』

 テネルの言葉を聞くとラディウスが手の中でバタバタと暴れた。
納得いかないようだ。

 『俺がケンカ好きみたいな言い方やめろよ!?』

 『え、違うんですか?』
 
 『違う!』

 ラディウスは思いっきり否定したが私はケンカ好きだと思っている。しかし言ってしまったらまた黙り込んでしまいそうな気がするので、
気持ちだけに留めることにした。 

 「これからよろしくね、テネル」

 『はいー、こちらこそよろしくー』

 「ところで、リル村って知ってる?」

 『知ってますよ。こっちでーす』

 テネルは私の膝から飛び降りるとピョンピョン跳ねながら先導を始める。
おそらくテネルもヴァイスア大陸が故郷なのだろう。
 立ち上がって追いかけようとするとラディウスがまた暴れた。
 
 「何?落ちるよ?」

 『お前、アイツを信じるのか?』

 「うん。だってとてもいい子じゃん」

 『もしリル村じゃなくて別の所に連れて行くつもりだったらどうすんだよ?』

 ラディウスはテネルのことを信用してないみたいだ。気持ちはわからなくもないが、不思議とテネルはそんなことをしないと確信している。

 「その時はその時だよ。
 そういうラディウスはどうなの?」

 『俺⁉……もし騙すなら最初っから騙してる』

 「へー」

 『まぁ俺のことを怪しいと思ってるならそれでもいいけどな』

 ラディウスは私の手から抜け出て定位置に座った。
今まで自分の前世がドラゴンであることを言っていなかったのでモヤモヤはしているが、そういわれると猜疑心さいぎしんが強くなってしまう。

 『シーラちゃーん、来ないんですかー?』

 「今行くー!」

 少し離れた場所にいるテネルを追いかける。
 それにしてもラディウスの前世にはビックリさせられた。
私はまだ一般的なドラゴンも見たことがないけれど、ラディウスは普通のドラゴンだよね?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スキルが農業と豊穣だったので追放されました~辺境伯令嬢はおひとり様を満喫しています~

白雪の雫
ファンタジー
「アールマティ、当主の名において穀潰しのお前を追放する!」 マッスル王国のストロング辺境伯家は【軍神】【武神】【戦神】【剣聖】【剣豪】といった戦闘に関するスキルを神より授かるからなのか、代々優れた軍人・武人を輩出してきた家柄だ。 そんな家に産まれたからなのか、ストロング家の者は【力こそ正義】と言わんばかりに見事なまでに脳筋思考の持ち主だった。 だが、この世には例外というものがある。 ストロング家の次女であるアールマティだ。 実はアールマティ、日本人として生きていた前世の記憶を持っているのだが、その事を話せば病院に送られてしまうという恐怖があるからなのか誰にも打ち明けていない。 そんなアールマティが授かったスキルは【農業】と【豊穣】 戦いに役に立たないスキルという事で、アールマティは父からストロング家追放を宣告されたのだ。 「仰せのままに」 父の言葉に頭を下げた後、屋敷を出て行こうとしているアールマティを母と兄弟姉妹、そして家令と使用人達までもが嘲笑いながら罵っている。 「食糧と食料って人間の生命活動に置いて一番大事なことなのに・・・」 脳筋に何を言っても無駄だと子供の頃から悟っていたアールマティは他国へと亡命する。 アールマティが森の奥でおひとり様を満喫している頃 ストロング領は大飢饉となっていた。 農業系のゲームをやっていた時に思い付いた話です。 主人公のスキルはゲームがベースになっているので、作物が実るのに時間を要しないし、追放された後は現代的な暮らしをしているという実にご都合主義です。 短い話という理由で色々深く考えた話ではないからツッコミどころ満載です。

転生少女と黒猫メイスのぶらり異世界旅

うみの渚
ファンタジー
ある日、目が覚めたら異世界に転生していた主人公。 裏庭で偶然出会った黒猫に魔法を教わりながら鍛錬を重ねていく。 しかし、その平穏な時間はある日を境に一変する。 これは異世界に転生した十歳の少女と黒猫メイスの冒険譚である。 よくある異世界転生ものです。 *恋愛要素はかなり薄いです。 描写は抑えていますが戦闘シーンがありますので、Rー15にしてあります。   第一章・第二章・第三章完結しました。 お気に入り登録といいねとエールありがとうございます。 執筆の励みになります。

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

転生能無し少女のゆるっとチートな異世界交流

犬社護
ファンタジー
10歳の祝福の儀で、イリア・ランスロット伯爵令嬢は、神様からギフトを貰えなかった。その日以降、家族から【能無し・役立たず】と罵られる日々が続くも、彼女はめげることなく、3年間懸命に努力し続ける。 しかし、13歳の誕生日を迎えても、取得魔法は1個、スキルに至ってはゼロという始末。 遂に我慢の限界を超えた家族から、王都追放処分を受けてしまう。 彼女は悲しみに暮れるも一念発起し、家族から最後の餞別として貰ったお金を使い、隣国行きの列車に乗るも、今度は山間部での落雷による脱線事故が起きてしまい、その衝撃で車外へ放り出され、列車もろとも崖下へと転落していく。 転落中、彼女は前世日本人-七瀬彩奈で、12歳で水難事故に巻き込まれ死んでしまったことを思い出し、現世13歳までの記憶が走馬灯として駆け巡りながら、絶望の淵に達したところで気絶してしまう。 そんな窮地のところをランクS冒険者ベイツに助けられると、神様からギフト《異世界交流》とスキル《アニマルセラピー》を貰っていることに気づかされ、そこから神鳥ルウリと知り合い、日本の家族とも交流できたことで、人生の転機を迎えることとなる。 人は、娯楽で癒されます。 動物や従魔たちには、何もありません。 私が異世界にいる家族と交流して、動物や従魔たちに癒しを与えましょう!

暗殺者の少女、四大精霊に懐かれる。〜異世界に渡ったので、流浪の旅人になります〜

赤海 梓
ファンタジー
「…ここは、どこ?」  …私、そうだ。そういえば… 「貴女、ここで何をしておる」 「わっ」  シュバッ 「…!?」  しまった、つい癖で回り込んで首に手刀を当ててしまった。 「あっ、ごめんなさい、敵意は無くて…その…」  急いで手を離す。  私が手刀をかけた相手は老人で、人…であはるが、人じゃない…? 「ふははは! よかろう、気に入ったぞ!」 「…え?」  これは暗殺者として頂点を飾る暗殺者が転生し、四大精霊に好かれ、冒険者として日銭を稼ぎ、時に人を守り、時に殺め、時に世界をも救う…。そんな物語である…!

無能だと捨てられた第七王女、前世の『カウンセラー』知識で人の心を読み解き、言葉だけで最強の騎士団を作り上げる

☆ほしい
ファンタジー
エルミート王国の第七王女リリアーナは、王族でありながら魔力を持たない『無能』として生まれ、北の塔に長年幽閉されていた。 ある日、高熱で生死の境をさまよった彼女は、前世で臨床心理士(カウンセラー)だった記憶を取り戻す。 時を同じくして、リリアーナは厄介払いのように、魔物の跋扈する極寒の地を治める『氷の辺境伯』アシュトン・グレイウォールに嫁がされることが決定する。 死地へ送られるも同然の状況だったが、リリアーナは絶望しなかった。 彼女には、前世で培った心理学の知識と言葉の力があったからだ。 心を閉ざした辺境伯、戦争のトラウマに苦しむ騎士たち、貧困にあえぐ領民。 リリアーナは彼らの声に耳を傾け、その知識を駆使して一人ひとりの心を丁寧に癒していく。 やがて彼女の言葉は、ならず者集団と揶揄された騎士団を鉄の結束を誇る最強の部隊へと変え、痩せた辺境の地を着実に豊かな場所へと改革していくのだった。

平民令嬢、異世界で追放されたけど、妖精契約で元貴族を見返します

タマ マコト
ファンタジー
平民令嬢セリア・アルノートは、聖女召喚の儀式に巻き込まれ異世界へと呼ばれる。 しかし魔力ゼロと判定された彼女は、元婚約者にも見捨てられ、理由も告げられぬまま夜の森へ追放された。 行き場を失った境界の森で、セリアは妖精ルゥシェと出会い、「生きたいか」という問いに答えた瞬間、対等な妖精契約を結ぶ。 人間に捨てられた少女は、妖精に選ばれたことで、世界の均衡を揺るがす存在となっていく。

婚約破棄された上に国外追放された聖女はチート級冒険者として生きていきます~私を追放した王国が大変なことになっている?へぇ、そうですか~

夏芽空
ファンタジー
無茶な仕事量を押し付けられる日々に、聖女マリアはすっかり嫌気が指していた。 「聖女なんてやってられないわよ!」 勢いで聖女の杖を叩きつけるが、跳ね返ってきた杖の先端がマリアの顎にクリーンヒット。 そのまま意識を失う。 意識を失ったマリアは、暗闇の中で前世の記憶を思い出した。 そのことがきっかけで、マリアは強い相手との戦いを望むようになる。 そしてさらには、チート級の力を手に入れる。 目を覚ましたマリアは、婚約者である第一王子から婚約破棄&国外追放を命じられた。 その言葉に、マリアは大歓喜。 (国外追放されれば、聖女という辛いだけの役目から解放されるわ!) そんな訳で、大はしゃぎで国を出ていくのだった。 外の世界で冒険者という存在を知ったマリアは、『強い相手と戦いたい』という前世の自分の願いを叶えるべく自らも冒険者となり、チート級の力を使って、順調にのし上がっていく。 一方、マリアを追放した王国は、その軽率な行いのせいで異常事態が発生していた……。

処理中です...