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第1部 魔族配下編 第1章
自分の名前を思い出せなくなる
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その日の夜、約束通り俺はデュークさんとフロに入っているのだが……。
(おいおいおい、待て待て待て)
俺の左側になぜか腕を組んだ魔王が居た。目を閉じてフロを堪能しているようだ。
「今回は共が居る」とデュークさんに言われたので、誰かと思っていたらまさかの魔王だったのだ。
(何がどうなったら魔王と入る事になるんだよ……)
背中に嫌な汗を感じながらデュークさんに尋ねる事にした。
「デュークさん、い、一緒に入る人って魔王さんの事だったんですか……」
「そうそう。別に問題ないだろ~?」
(大アリだー!リラックスできねぇー‼)
心の中で叫びながらそっと魔王の様子をうかがうと先程と姿勢は変わっていなかった。
俺の頭に1つの疑問が浮かぶ。
(あれ?腕を組んでるのに何で浮いていられるんだ?)
俺もデュークさんも片手でバスタブの端を掴んでいる。
この深さだ。魔王の身長は俺よりも少し高いぐらいだから、足がつかなくて当然のハズだ。
(いったいどうなって……)
魔王の足元を見た俺は釘付けになった。膝から下が異様に伸びており、底に足の裏がついていたからだ。
魔法を使っているのだろうが、開いた口が塞がらない。
俺はゆっくりと魔王を見ると口を開く。
「あのー、魔王さん?」
「…………なんだ」
「いや、その、足が……」
「………我を誰だと思っている」
魔王は目を閉じたまま当然のように言うと大きな息をついた。
呆れているようだ。
(そんなにため息つかなくてもよくね?でも、普段からこうやって入ってるのか?
なんかスゲェ)
感心しているとデュークさんが近づいてくる。
「そういやモトユウちゃん、名前考えた~?」
「いえ、まだです……」
(あ、忘れてた)
デュークさんと初めてあった日に「モトユウ」と呼ばれ始めたが、
何か他に名前が思い浮かんだら言うと言っていたのだった。
嫌ではないがずっと「モトユウ」なのもどうかとは思っている。
「……名前?」
興味を示したらしく魔王が目を開けて俺を見る。
「は、はい。考えるの忘れてましたけど」
「モトユウって俺がつけたんだぜ~。
で、他に名前浮かんだら教えてくれって言っといたのよ~」
「…………………下僕で良かろう」
「それはヒドくないですか⁉」
「そうそう~。それに下僕なんていっぱいいるから、
モトユウちゃんの事呼んでもわからないぜー」
デュークさんがフォローしてくれた。
それが効いたのかどうかはわからないが魔王は再び目を閉じる。
「…………好きにすれば良い」
そう言うと黙り込んだ。興味があったわけではなかったようだ。
(名前か……。やっぱ魔族っぽいのがいいのか?人間だけど)
そこまで考えてふと気づいた。
(あれ、俺の名前は何だっけ?)
ずっと「モトユウ」と呼ばれていたからだろうか。
いや、それでもアリーシャ、ザルド、フローの名前は覚えている。
自分の名前だけが思い出せない。
(な、何でなんだ?)
額に冷や汗が浮かぶ。
(みんなは俺の事なんて呼んでたっけ?)
『おい、――』
『――さ~ん』
『ちょっと、遅いわよ!――』
(ダメだ。みんなの声は思い出せるのに肝心の名前の部分だけ
ノイズが入ったように聞こえない……)
視線を下に向ける。ずっと魔族と居たからだろうか。
何か目には見えないオーラみたいなものが出ていて、記憶を消されたのかもしれない。
俺の変化を察したのかデュークさんが声をかけてくる。
「ン?どうした~モトユウちゃん?」
「俺の……前の名前が思い出せないんです……」
デュークさんは一瞬固まったあと笑みを浮かべた。
「そう~良かったじゃん~」
「良くないですよ!……ハッ⁉」
言ってから慌てて両手で口を覆う。魔王が赤いオーラを出しながら俺を睨んでいたからだ。
フロに入っているというのに鳥肌が立つ。
(さ、殺気⁉そこまで怒るか⁉)
「……貴様やはり未練が……」
「み、未練はほとんど無いですよ!懐かしいなーとか思う時はありますけど!
自分の名前を思い出せないって嫌じゃないですか⁉」
大げさにジェスチャーしながら必死で弁解すると、魔王は鼻で笑ってから目を閉じた。
赤いオーラも嘘のように消える。
「……どうでも良い。……未練はないのだな?」
「は、はいっ!」
(完全に無いと言えば嘘になるけど)
しかしそれを口に出せばどんな目にあうかわからない。
間違いなく痛みは伴うと思う。
(危ねー。死ぬところだった)
しかしそれから1分も経たずに魔王はフロから出て行ってしまった。
気に触ったようだ。
「あ~、マーさん機嫌損ねた」
「……………すみません」
「って暗ッ⁉まださっきの事引きずってる
のかよ~?」
もちろん前の名前を思い出せない事だ。
引きずらないほうがムリだ。
「はい。原因がわからなくて……」
「一時的なもんじゃねーの?そのうち思い出せるだろ~」
(そうだよな。仲間の名前も思い出せないなら問題かもしれないけど、
まだ俺の名前だけだし……)
そう考えると気持ちが軽くなった。
その勢いでデュークさんに質問してみる事にした。
「あの、1つ教えて下さい」
「何~?」
「どうして俺の事気にかけてくれるんですか?」
「教育係だから」
即答された。言っていることは正しいが、
それだけでは足りないぐらい気遣いがスゴイからだ。
「そうかもしれませんけど、
すごく気にかけてもらってて……」
「ん~、だって俺、モトユウちゃん好きだもん」
「え」
(人柄だよな?まさか恋の方じゃないよな⁉)
思わずデュークさんを見るとニヤニヤしながら
俺の反応をうかがっている。
「なんか不満~?」
「い、いや……。どうもありがとうございます……」
(人柄だよな。うん、そう思う事にしておこう)
火照ってきたのでフロから上がって自室に戻ったが、
やはり頭のどこかで名前のことが引っかかっていてなかなか寝つけなかった。
(おいおいおい、待て待て待て)
俺の左側になぜか腕を組んだ魔王が居た。目を閉じてフロを堪能しているようだ。
「今回は共が居る」とデュークさんに言われたので、誰かと思っていたらまさかの魔王だったのだ。
(何がどうなったら魔王と入る事になるんだよ……)
背中に嫌な汗を感じながらデュークさんに尋ねる事にした。
「デュークさん、い、一緒に入る人って魔王さんの事だったんですか……」
「そうそう。別に問題ないだろ~?」
(大アリだー!リラックスできねぇー‼)
心の中で叫びながらそっと魔王の様子をうかがうと先程と姿勢は変わっていなかった。
俺の頭に1つの疑問が浮かぶ。
(あれ?腕を組んでるのに何で浮いていられるんだ?)
俺もデュークさんも片手でバスタブの端を掴んでいる。
この深さだ。魔王の身長は俺よりも少し高いぐらいだから、足がつかなくて当然のハズだ。
(いったいどうなって……)
魔王の足元を見た俺は釘付けになった。膝から下が異様に伸びており、底に足の裏がついていたからだ。
魔法を使っているのだろうが、開いた口が塞がらない。
俺はゆっくりと魔王を見ると口を開く。
「あのー、魔王さん?」
「…………なんだ」
「いや、その、足が……」
「………我を誰だと思っている」
魔王は目を閉じたまま当然のように言うと大きな息をついた。
呆れているようだ。
(そんなにため息つかなくてもよくね?でも、普段からこうやって入ってるのか?
なんかスゲェ)
感心しているとデュークさんが近づいてくる。
「そういやモトユウちゃん、名前考えた~?」
「いえ、まだです……」
(あ、忘れてた)
デュークさんと初めてあった日に「モトユウ」と呼ばれ始めたが、
何か他に名前が思い浮かんだら言うと言っていたのだった。
嫌ではないがずっと「モトユウ」なのもどうかとは思っている。
「……名前?」
興味を示したらしく魔王が目を開けて俺を見る。
「は、はい。考えるの忘れてましたけど」
「モトユウって俺がつけたんだぜ~。
で、他に名前浮かんだら教えてくれって言っといたのよ~」
「…………………下僕で良かろう」
「それはヒドくないですか⁉」
「そうそう~。それに下僕なんていっぱいいるから、
モトユウちゃんの事呼んでもわからないぜー」
デュークさんがフォローしてくれた。
それが効いたのかどうかはわからないが魔王は再び目を閉じる。
「…………好きにすれば良い」
そう言うと黙り込んだ。興味があったわけではなかったようだ。
(名前か……。やっぱ魔族っぽいのがいいのか?人間だけど)
そこまで考えてふと気づいた。
(あれ、俺の名前は何だっけ?)
ずっと「モトユウ」と呼ばれていたからだろうか。
いや、それでもアリーシャ、ザルド、フローの名前は覚えている。
自分の名前だけが思い出せない。
(な、何でなんだ?)
額に冷や汗が浮かぶ。
(みんなは俺の事なんて呼んでたっけ?)
『おい、――』
『――さ~ん』
『ちょっと、遅いわよ!――』
(ダメだ。みんなの声は思い出せるのに肝心の名前の部分だけ
ノイズが入ったように聞こえない……)
視線を下に向ける。ずっと魔族と居たからだろうか。
何か目には見えないオーラみたいなものが出ていて、記憶を消されたのかもしれない。
俺の変化を察したのかデュークさんが声をかけてくる。
「ン?どうした~モトユウちゃん?」
「俺の……前の名前が思い出せないんです……」
デュークさんは一瞬固まったあと笑みを浮かべた。
「そう~良かったじゃん~」
「良くないですよ!……ハッ⁉」
言ってから慌てて両手で口を覆う。魔王が赤いオーラを出しながら俺を睨んでいたからだ。
フロに入っているというのに鳥肌が立つ。
(さ、殺気⁉そこまで怒るか⁉)
「……貴様やはり未練が……」
「み、未練はほとんど無いですよ!懐かしいなーとか思う時はありますけど!
自分の名前を思い出せないって嫌じゃないですか⁉」
大げさにジェスチャーしながら必死で弁解すると、魔王は鼻で笑ってから目を閉じた。
赤いオーラも嘘のように消える。
「……どうでも良い。……未練はないのだな?」
「は、はいっ!」
(完全に無いと言えば嘘になるけど)
しかしそれを口に出せばどんな目にあうかわからない。
間違いなく痛みは伴うと思う。
(危ねー。死ぬところだった)
しかしそれから1分も経たずに魔王はフロから出て行ってしまった。
気に触ったようだ。
「あ~、マーさん機嫌損ねた」
「……………すみません」
「って暗ッ⁉まださっきの事引きずってる
のかよ~?」
もちろん前の名前を思い出せない事だ。
引きずらないほうがムリだ。
「はい。原因がわからなくて……」
「一時的なもんじゃねーの?そのうち思い出せるだろ~」
(そうだよな。仲間の名前も思い出せないなら問題かもしれないけど、
まだ俺の名前だけだし……)
そう考えると気持ちが軽くなった。
その勢いでデュークさんに質問してみる事にした。
「あの、1つ教えて下さい」
「何~?」
「どうして俺の事気にかけてくれるんですか?」
「教育係だから」
即答された。言っていることは正しいが、
それだけでは足りないぐらい気遣いがスゴイからだ。
「そうかもしれませんけど、
すごく気にかけてもらってて……」
「ん~、だって俺、モトユウちゃん好きだもん」
「え」
(人柄だよな?まさか恋の方じゃないよな⁉)
思わずデュークさんを見るとニヤニヤしながら
俺の反応をうかがっている。
「なんか不満~?」
「い、いや……。どうもありがとうございます……」
(人柄だよな。うん、そう思う事にしておこう)
火照ってきたのでフロから上がって自室に戻ったが、
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