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第1章

治療に付き添って死にかける

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 城に戻った俺とデュークさんはさっそくフロ場に来ていた。今回は腕の治癒が目的なので服は着たままだ。
 火傷箇所は主に手首から肘にかけて。
指先や二の腕までいってないが、水ぶくれで腫れた赤い色は見ているこっちが痛くなる。
 皮膚が焦げてはいないので重傷ではなさそうだ。
 あのフレイムボールは普通よりも威力が高かったが、
頑丈な体のおかげでこの程度で済んだのだろう。
それでも、動かせなくなるぐらいの痛みは負ってしまった。

 「はぁー、やるか……」

 デュークさんはため息をついてバスタブの淵に屈むと
ゆっくりと左腕を湯につけた。
直後、全身が大きく震える。

 「グ………ッ……」

 「あ、あのー」

 「ちょっと黙ってて」

 デュークさんは顔を上げずに早口で言った。
表立っていないだけで、内心怒っているのかもしれない。

 (俺、今何ができるっけ?)

 火傷に効果的な治療を知ってるわけでもないし、
魔法も使えない。ただ申し訳ないからついてきただけだ。
 治癒に耐えているデュークさんを見ていると何とも言えない気持ちになる。

 (居ても意味ないんじゃ……)

 そう思っているといきなりドアが開いた。
何事かとデュークさんとそこを見ると、なんと魔王が立っている。

 「え」

 「マーさん?」

 俺達の言葉をスルーして魔王はデュークさんの側まで行くと、無言で左腕に緑色のモヤを纏った手をかざす。
 少しして手を退けると火傷は嘘のようにキレイに治っていた。

 「…………この程度のケガなら我のところに来い」

 「……マーさん」

 回復魔法を使ってあっという間に完治させた。
魔王は一息つくと俺を睨んでくる。

 「…………で、何故下僕が居る?」

 「こ、こうなったのが、俺のせいだからです……」

 「何?」

 魔王が声を低くして眉をつり上げた。
 
 (ヤベ……)

 そう思った時には首を掴まれていた。
そのまま持ち上げられて足が床から離れる。

 「いったい何をした?罠にでも嵌めたか?」

 「あ……がッ……」

 (い、息がッ……死ぬんだけど⁉)

 首を絞められる力が強くなっていく。
このままでは本当に「教会送り」コースだ。

 「ちょっとマーさん、ストップ!
モトユウちゃんも悪いけど、俺も悪い。
どっちもどっち!」

 「……………………」

 魔王はどこか腑に落ちない様子で俺を床に落とした。
体を打ちつけたので痛かったが、それよりも呼吸を優先する。

 「ゲホッ………ハッ……ッ……」

 「…………怒りで忘れるところだった」

 「へ……」

 何をとは言わなかったが「教会送り」のことだろう。
仲間を大事にしていることは伝わったが、
そんな単純なことで頭から抜け落ちるものなのか。

 (絶対忘れてただろ⁉)

 俺に背を向けた魔王を見ながら心の中でツッコむ。

 「マーさん、俺のこと心配してくれたのは嬉しいけど、
それでモトユウちゃん殺そうとちゃダメでしょー」

 「………………………悪かった」

  (自分が悪かったら謝るのか……)

 おそらくこの魔王限定だろうが、それでもすごい。
だいたい周りのせいにするからだ。

 (あ、怒りがおさまった今ならチャンスかも……)


 「お、俺から話があるんですけど……」

 「……王座で聞いてやる」

 魔王は振り返らずにそう言うと一瞬で姿を消した。
ワープ魔法を使ったようだ。

 「ヘ~、モトユウちゃんから話なんて珍しー」

 デュークさんは数分前まで治療に耐えていたのが嘘のように、無邪気に声をかけてくる。

 「許可を貰いたい事があるだけなんで……」

 「そうー」

 (やっぱ改めて謝っといた方がいいよな)

 俺はデュークさんに向き直ると口を開く。

 「あの、デュークさん……さっきはありがとうございました。それと――」

 「あー!もー!
いつまでもウジウジすんなよモトユウちゃん!」

 両肩をガッチリと掴まれた。性格からして予想はできていたが、物事を引きずられるのは嫌いなようだ。

 「で、でも……」

 「今回は運が悪かったの!」

 (そうは言ってもな……)

 森に行かなければ、そもそも食料調達をしたいと言い出さなければ、今回のことは起こらなかっただろう。
 まだ尾を引きずっている俺を見てデュークさんは小さく
ため息をつくと一気に顔を近づけてきた。
 今までで1番距離が近く、額同士が触れる。

 「う……」

 「もし次話題にしたら殴る」

 いきなり真顔で低い声になった。悪寒がして身震いする。

 「わかったな?」

 「は、はい……」

 そう言うしかなかった。
 俺の返事を聞くとデュークさんはニンマリと笑って
顔を離す。相変わらず切り替えが早い。

 「う~しッ、じゃあマーさんのとこ行ってきな!」

 「デュークさんはどうするんですか?」

 「俺?俺はテキトーに過ごすわ。
完治したし、そもそも重傷でもなかったし、
引きずんなよ~?」

 「はいッ⁉」

 慌てて返事をしてため声が裏返る。
ここでまた暗かったらさっそく殴られるからだ。

 (行くか!)

 俺は気合を入れると魔王の所へ向かった。
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