命乞いから始まる魔族配下生活

月森かれん

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第1部 魔族配下編 第1章

魔王からの仕事にリベンジする①

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 魔王城の門では、デュークさんが地面に突き刺さっている大剣の柄の部分に
器用にバランスをとって立っていた。
 俺に気づくと素早く地面に降りて近づいてくる。

 「おかえりー、モトユウちゃんッ!
どうだったよ?」

 「試作品でもいけそうだったので、もらってきました」

 懐から小ビンを1つ取り出してデュークさんに見せた。

 「……ソレ、血?」

 「血を元にして作ったって言ってたので、
血だと思います」

 「ヘ~、イイナ~」

 デュークさんはギリギリまでビンに顔を近づけると、
赤い薬を見ながら舌なめずりをする。

 (やっぱり好きなのか……)

 以前、全身に返り血を浴びても気にしていなかったので、
苦手ではないだろうなとは思っていた。
 ほぼ確信はしているが、念のため聞いてみることにする。

 「……好きなんですか?血」

 「おう。倒したヤツによって微妙に味違うしなー。
ちなみに、ニンゲンのが1番好き」

 「あ、はい……」

 (俺、危なくね⁉)

 思わずデュークさんから距離をとったが、
その甲斐なく至近距離に立たれる。

 「ヒハハハハッ、そう怖がんなよモトユウちゃん~。
よっぽど俺の怒りに触れない限りブッタ斬らねーから。
 つーか、何かの間違いでモトユウちゃんブッタ斬ったら
俺がマーさんから消されるわ」

 (「墓地送り」には限度があるからな)

 魔族にも「墓地送り」というシステムがあり、
死んでも復活する点は「教会送り」と変わらないが、
2という
とんでもないデメリットがある。
 デュークさん含め、魔族たちは魔王に殺されないように
態度には気をつけているそうだ。

 「さってじゃあ行きますかー!」

 デュークさんは俺の気持ちなんて全く気にしていない様子では大きく体を伸ばし始めた。

 (やっぱ切り替えが早ぇ)

 俺の切り替えが遅いだけかもしれないが、「教会送り」や「墓地送り」の言葉を聞くと考え込んでしまう。
 特に「墓地送り」、ペナルティがあると知ってから
「教会送り」にも何かがあるのでないかと思うように
なっていた。

 (俺たちが知らされていないだけで本当は……)

 「モトユウちゃ~ん、何か不安?」

 動きを止めていきなり顔を近づけられたので、
反射的に体を反らせる。

 「オ、オークをちゃんと討伐できるかなって……」

 「フーン、まあ薬の効果がどのぐらいかわからねーけど
大丈夫なんじゃないー?」

 デュークさんはつまらさそうに言って再び体を伸ばし
始める。

 (危ねー。とっさに言い訳しなかったら、引きずるなって言われてたな。
 っていうか、つまらなそうに言うのなら聞かなくても
良いんじゃ……)

 このままこの話題を続けてもいい方向にいかなさそうなので、変えることにする。

 「そういえばオークってどの辺りにいるんですか?」

 「こっからは少し歩くなー。まあ、森よりは近い」

 デュークさんの言い方だとオークの生息範囲はある程度
決まっているようだ。
 最後に大きく腕を伸ばすとデュークさんは歩き始めた。
 俺も少し遅れて続く。

 「アイツらも過ごしやすい場所探してドンドン数
増やしてるしー」

 「あ、「墓地送り」って魔族にしか効果ないんですっけ?」

 「おうよー。モンスターに効果はない。
それでも定期的に数は増えてるみたいだけどー。
 オークみたいに繁殖能力あるヤツらは勝手に増える」

 (やっぱり魔族にしかなかったか)

 薄々感づいてはいたものの、「墓地送り」がモンスターに効果がないのは
デュークさんの言葉で初めて知った。
 感覚で10分ほど歩いて俺たちは足を止める。

 「おッ」

 「あ……」

 (いた!)

 少し離れた所にエインシェントオークが2体。
まだ気づかれてはいないようだ。
 
 「俺、行ってきます!」

 「リョーカイー」

 さっそく小ビンの薬1つを飲み干すとオーク達に向かって
ダッシュする。
 走っているせいもあるだろうが、もう全身が熱くなって
きた。

 「はあぁッ‼」

 1体のオークに向かって剣を振り下ろす。皮と刀身がぶつかった時は押し返されたが、
負けずに力を加えて片腕の切断に成功する。

 「オ゛オ゛ォ⁉」

 「よしッ!」

 そのままの勢いで肉体を上下2つに切断した。
地面につくと同時に紫のモヤになって消える。

 (今回は討伐に集中。肉集めはまた今度だ)

 その気になれば肉も集められるが、地面につく前に肉を
捌かないといけないし、なにより、持って歩くとなると邪魔になってしまうからだ。

 (そしてもう1体。たぶん後ろにいるから……)

 右に移動しながら体を後ろに向けると腕を振り上げた
オークと目が合う。

 (やっばりな!)

 「オ゛ォ⁉」

 俺が振り返るとは思っていなかったようで、オークの声に焦りが含まれていた。
 素早くオークの足元に移動して今度は右足を切断する。
バランスを崩しても俺を握りつぶそうと右腕を伸ばして
きた。
 
 「グオ゛ォ‼」

 「おっと!」

 身をかわしたあと、伸ばしてきた腕を切断する。
 左腕と足だけになったオークは、けたたましい雄叫びを
上げた。

 「ゴアオオ゛ォォォッ‼」

 「な、なんだ?今までと違う……」

 (仲間でも呼ぶつもりか⁉)
 
 繁殖能力があるとデュークさんが言っていたので、
その可能性は高い。
 慌ててオークを真っ二つにして消滅させる。
 同時に腕の熱も冷めた。
 
 「はあ……。ちょっと腕にくるけど、なんとか
なりそうだな。
 でも1瓶でオーク2体か……」

 残りの瓶は4つ。倒せるとしても8体だ。それで累計11体。
50体にはほど遠い。

 (デュークさんの手を借りるか……。
本人もやる気マンマンだし)

 周りを見ると気がつけばデュークさんの姿がない。

 「あれ、どこ行ったんだ?」

 「モトユウちゃーんッ!ヘループッ!」

 大声に思わず振り向くと、デュークさんが教会ぐらいの
大きさのエインシェントオークに追いかけられていた。
さらにその後ろからゾロゾロと通常のオーク達が続いている。
 
 「ヘ⁉」

 (デケェッ⁉今まで見たことないぞ⁉)

 エインシェントオークのリーダーだろう。そんなのがいるのは初めて知ったが、
格が違うのはひと目でわかる。

 「って、なんでこっち来てるんですか⁉」

 「えー、俺1人じゃムリ」

 「俺が加わったとしても微力にしかなりませんよ⁉」

 「1人よりは良いだろー。ヒハハ!」

 (ワザとだ!絶対ワザとだ!)

 どこでどうやってあのオーク達を見つけたのかは知らないが、
ニヤニヤしながら走っているデュークさんを見ていると
ワザとこっちに来たとしか思えない。
 俺のように力を増幅していない状態でオークの腕を切断したのだから、
キズは負うかもしれないが1人でも倒せるはずだ。

 (俺も逃げるしかねぇ!)

 とりあえず走り出すとデュークさんが隣に並んできた。
スピードを上げたようだ。

 (まだ体力あんのか⁉本当にスタミナ切れなんて
知らないんじゃ……)

 「ヒハハハハッ!やっぱモトユウちゃんも走るよな~」

 「死にたくありませんからッ‼
でもどうにかしないと、ずっと逃げるわけにもいかない
ですよね?」

 「ああ。まず周りを片付けないとなー。
あのデカいヤツに集中できねーもん」

 チラリと後ろを見ると通常のオークが30体以上はいる。

 (確かに)

 「多少のケガは覚悟しておかなきゃ……」

 「だなー。そうだモトユウちゃん、ちょっと手伝って~」

 「はい?」

 いきなり立ち止まったデュークさんに慌てて合わせる。
 
 「薬の効果続いてるー?」

 「いえ、さっき切れました」

 「じゃ、また飲んでー」

 「は、はあ……」

 デュークさんの意図が読めないまま、とりあえず2瓶目を
飲み干す。
 
 「よっし飲んだなー。オラ、いってこーい!」

 今度は左腕を掴まれて思い切り投げ飛ばされた。
俺は全身に風を受けながらオークの群れに突っ込んでゆく。
 
 「えぇぇーーーーッ⁉」

 (またかよ⁉)

 「ヒハハハッ!名づけて、モトユウちゃん砲‼」

 (一方的だー‼)

 とはいえ、もう投げられてしまったので、
できることは限られる。

 (剣を振るしかない!)

 風に抵抗しながら、なるべく剣を振り回す。
何度も皮膚を断ち切った感触が腕に伝わった。
 それと同時に投げられた勢いが落ちて急いで受け身をとる。
肩の部分にに石が当たって服が少し破れた。

 「いって……」

 「そのまま頭下げてなぁ!」

 「うぇ⁉」

 デュークさんの鋭い声がとんできて上げようとしていた
頭を慌てて地面につける。
 直後、オーク達の悲鳴が聞こえて、強い風が頭上を
吹き流れていった。

 (なぎ払ったのか……)

 「サンキュ~、モトユウちゃん~。
やっとジャマが消えたぜ」

 デュークさんの言葉にハッとして周りを見ると少し見慣れた荒れ地が映る。
あれだけいたオークたちは影も形もない。

 「グオ゛オ゛オオォッ‼」

 俺たちの目の前には例のデカいエインシェントオークが
怒りの咆哮を上げていた。
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