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第1部 魔族配下編 第1章
連帯責任をとらされる
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「ようやく来ましたか。お待ちしておりました」
イスに座っている俺とデュークさんの前には影のある笑みを浮かべたテナシテさん。
言葉を発するのも躊躇するピリピリした場の空気に、
さすがのデュークさんも真顔で黙っている。
狂気を含んで笑っていた時の空気よりマシだが、
それでも怖いものは怖い。
「忘れていなかったのですねぇ」
「忘れてませんよ⁉言われたの朝ですし!」
「それもそうですね、フフフ」
慌てて答えるとテナシテさんは小さく笑って俺たちに1歩
近づいた。ちょうどデュークさんの影を踏むような位置に
なる。
さっきより顔の影は薄くなったが、まだ怖い。
「さて、本題に入りましょうかデュークさん?」
「オウ……。その前に確認だけどテナシテちゃん……
もしかして怒ってる?」
ようやくデュークさんが口を開いた。今の状態を悪化させないように
慎重に言葉を選んでいるようだ。
「もしかしなくても怒っています。
勝手にモトユウさんの薬を飲まないでください」
「そりゃ悪かったさ~。でも好奇心は止めるの
ムリだぜ。しかも血の色でウマそうに見えたし~」
「血が好きだったのですか。迂闊でしたね……」
テナシテさんが小さくため息をつく。
「あ~、あとテナシテちゃん?俺さっきから指先すら
動かせないんだけど?」
「動きを封じていますので当然です」
「ヘ?」
(やっぱりか。シャドウバインド、だっけ)
相手の影を踏むだけで動きを封じることのできる魔法で、俺も1度くらった。
瞬きはできて声も出せるのに体は動かせないという不思議な状態になる。
さっきテナシテさんが移動した時にまさかとは
思っていた。
「いやいやいや、ジョーダンだろテナ――」
「………………………」
無言の圧力を加えているテナシテさんに
デュークさんがまた黙り込んだ。
しかし僅かではあるがテナシテさんの怒りもおさまった
ように見える。
(デュークさんが押されてる⁉なんか新鮮)
口に出したら間違いなく怒られるが、2人のやり取りを見てホッコリする。
緊張で固まっている体をほぐそうとして、
全く動かせないことに気づいた。
「俺もッ⁉」
思わず声を出すとテナシテさんが俺の方を向く。
「はい。連帯責任です。薬を飲むのを見ていた
モトユウさんにも少しですが責任があります」
「とっさのことに反応なんてできませんよ⁉」
「わかっています。でも連帯責任です、フフフ」
(理不尽だな⁉)
「それで、薬を飲んだあとデュークさんはどうなったの
ですか?」
「全身が熱くなったなー。このまま焼け死ぬかと
思った」
(俺と同じ状態だったのか)
確信は持てないが俺の薬の効果とは、発熱させてそれを
パワーに変えているのだろう。何度か剣を振れば熱は冷めるし、
それ以外に考えが思い浮かばない。
「それから?」
「全身から薄いオーラが出て、模様も濃くなってました
よね……」
俺がそう言った直後、テナシテさんがまた険しい表情に
なり、体を動かせないデュークさんからは強い怒りを感じ
取った。
(な、なんかマズいこと言ったか⁉)
「モトユウさん、それは事実ですね?」
「はい……」
俺の答えを聞くとテナシテさんは深いため息をついた。
しかし、呆れているというよりはモヤモヤを吐き出した
感じだ。
「オーラが出て模様が濃くなったということは、
一時的ではありますが最大限のパワーが引き出された証拠です。
モトユウさん用の薬はデュークさんにとって
良くない効果でしたか」
(最大限のパワー……)
背筋が冷たくなる。リーダーのエインシェントオークの
両足を2振りで斬り落としたし、真っ二つにした斬撃も
凄まじい威力だった。最大限のパワーと言われたら
納得する。
たが、俺の背筋が冷たくなっているのはデュークさんの
パワーに恐怖を覚えたからではない。
以前、敵として戦った時はそんな状態になっていなかったからだ。
(本気じゃなかったのか。加減してたってことだよな)
魔王から何か言われていたのかもしれない。もしかすると
デュークさんたち幹部や魔王は本気じゃなかった可能性がある。
「とにかく、他人の薬を1口分でも飲まないでくださいね、デュークさん」
「了解」
デュークさんの声を聞いて我に返る。まだ真顔だし語尾も伸びていない。
「あと、デュークさん。近いうちにサンプルを採らせてくださいね。
何かの拍子に薬作ってくれと言い出しても
大丈夫なように」
「じゃ、その時は頼むわ。何か役に立つ時が来るかも
しれないからな」
「わかりました。私からの話は終わりです。
動きを封じてすみませんでしたね」
やっとテナシテさんから解放してもらって裏を歩いているのだが、
隣を歩くデュークさんの機嫌が良くなっていない。
いつもなら真っ先に話し出すのに部屋を出てから1度も
口を開いていないからだ。
(やっぱり薬を飲んだ後の状態を言ったのが
マズかったか。でもここまで不機嫌にならなくても……)
口走ったのは申し訳なかったが、何か話題を出さないと
このムードに俺が耐えられない。
「あ、あの、デュークさ――」
「モトユウちゃん、ちょ~っと話そうぜ?」
言葉は伸びているものの、真顔のデュークさんに、
俺は頷くことしかできなかった。
イスに座っている俺とデュークさんの前には影のある笑みを浮かべたテナシテさん。
言葉を発するのも躊躇するピリピリした場の空気に、
さすがのデュークさんも真顔で黙っている。
狂気を含んで笑っていた時の空気よりマシだが、
それでも怖いものは怖い。
「忘れていなかったのですねぇ」
「忘れてませんよ⁉言われたの朝ですし!」
「それもそうですね、フフフ」
慌てて答えるとテナシテさんは小さく笑って俺たちに1歩
近づいた。ちょうどデュークさんの影を踏むような位置に
なる。
さっきより顔の影は薄くなったが、まだ怖い。
「さて、本題に入りましょうかデュークさん?」
「オウ……。その前に確認だけどテナシテちゃん……
もしかして怒ってる?」
ようやくデュークさんが口を開いた。今の状態を悪化させないように
慎重に言葉を選んでいるようだ。
「もしかしなくても怒っています。
勝手にモトユウさんの薬を飲まないでください」
「そりゃ悪かったさ~。でも好奇心は止めるの
ムリだぜ。しかも血の色でウマそうに見えたし~」
「血が好きだったのですか。迂闊でしたね……」
テナシテさんが小さくため息をつく。
「あ~、あとテナシテちゃん?俺さっきから指先すら
動かせないんだけど?」
「動きを封じていますので当然です」
「ヘ?」
(やっぱりか。シャドウバインド、だっけ)
相手の影を踏むだけで動きを封じることのできる魔法で、俺も1度くらった。
瞬きはできて声も出せるのに体は動かせないという不思議な状態になる。
さっきテナシテさんが移動した時にまさかとは
思っていた。
「いやいやいや、ジョーダンだろテナ――」
「………………………」
無言の圧力を加えているテナシテさんに
デュークさんがまた黙り込んだ。
しかし僅かではあるがテナシテさんの怒りもおさまった
ように見える。
(デュークさんが押されてる⁉なんか新鮮)
口に出したら間違いなく怒られるが、2人のやり取りを見てホッコリする。
緊張で固まっている体をほぐそうとして、
全く動かせないことに気づいた。
「俺もッ⁉」
思わず声を出すとテナシテさんが俺の方を向く。
「はい。連帯責任です。薬を飲むのを見ていた
モトユウさんにも少しですが責任があります」
「とっさのことに反応なんてできませんよ⁉」
「わかっています。でも連帯責任です、フフフ」
(理不尽だな⁉)
「それで、薬を飲んだあとデュークさんはどうなったの
ですか?」
「全身が熱くなったなー。このまま焼け死ぬかと
思った」
(俺と同じ状態だったのか)
確信は持てないが俺の薬の効果とは、発熱させてそれを
パワーに変えているのだろう。何度か剣を振れば熱は冷めるし、
それ以外に考えが思い浮かばない。
「それから?」
「全身から薄いオーラが出て、模様も濃くなってました
よね……」
俺がそう言った直後、テナシテさんがまた険しい表情に
なり、体を動かせないデュークさんからは強い怒りを感じ
取った。
(な、なんかマズいこと言ったか⁉)
「モトユウさん、それは事実ですね?」
「はい……」
俺の答えを聞くとテナシテさんは深いため息をついた。
しかし、呆れているというよりはモヤモヤを吐き出した
感じだ。
「オーラが出て模様が濃くなったということは、
一時的ではありますが最大限のパワーが引き出された証拠です。
モトユウさん用の薬はデュークさんにとって
良くない効果でしたか」
(最大限のパワー……)
背筋が冷たくなる。リーダーのエインシェントオークの
両足を2振りで斬り落としたし、真っ二つにした斬撃も
凄まじい威力だった。最大限のパワーと言われたら
納得する。
たが、俺の背筋が冷たくなっているのはデュークさんの
パワーに恐怖を覚えたからではない。
以前、敵として戦った時はそんな状態になっていなかったからだ。
(本気じゃなかったのか。加減してたってことだよな)
魔王から何か言われていたのかもしれない。もしかすると
デュークさんたち幹部や魔王は本気じゃなかった可能性がある。
「とにかく、他人の薬を1口分でも飲まないでくださいね、デュークさん」
「了解」
デュークさんの声を聞いて我に返る。まだ真顔だし語尾も伸びていない。
「あと、デュークさん。近いうちにサンプルを採らせてくださいね。
何かの拍子に薬作ってくれと言い出しても
大丈夫なように」
「じゃ、その時は頼むわ。何か役に立つ時が来るかも
しれないからな」
「わかりました。私からの話は終わりです。
動きを封じてすみませんでしたね」
やっとテナシテさんから解放してもらって裏を歩いているのだが、
隣を歩くデュークさんの機嫌が良くなっていない。
いつもなら真っ先に話し出すのに部屋を出てから1度も
口を開いていないからだ。
(やっぱり薬を飲んだ後の状態を言ったのが
マズかったか。でもここまで不機嫌にならなくても……)
口走ったのは申し訳なかったが、何か話題を出さないと
このムードに俺が耐えられない。
「あ、あの、デュークさ――」
「モトユウちゃん、ちょ~っと話そうぜ?」
言葉は伸びているものの、真顔のデュークさんに、
俺は頷くことしかできなかった。
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