命乞いから始まる魔族配下生活

月森かれん

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第2章

また合いブロする

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 (なんでこうなったんだ……?)

 俺はユに浸かりながら混乱していた。目の前にはタイルの上で横一列に並んでカケユをしている暗黒ナイトたち。
そしてフロの淵にはエフォール。彼はそこに座ってバスタブから溢れ出したユに浸っていた。
普段は兜で隠れているクセのある濃い緑色の髪がユゲで湿っている。
リラックスした様子で大きく息を吐いたあと、俺に声をかけてきた。

 「いやー、モトユウ2等兵が見つかってよかったです」

 「そ、そう?」

 「はい!見つからなかったらフロ入れないままでした」

 時間は昼ごろまでに遡る。
 夢の件でモヤモヤしながら城内を歩いていた俺は、背後から聞こえてきた不思議な音に足を止めた。
足音だとは思うのだが、ガシャガシャという金属音の方が強い。

 (鎧、だよな?となるとへネラルさん?)
 
 しかしすぐに俺の疑問は大声でかき消された。

 「モトユウ2等兵~~‼‼」

 「うぇ⁉」

 「ここにいたですか!フロ入るですよ!フロ!」

 「フロ⁉」

 (エフォールもフロ好きなのか?)

 わけがわからず単語を繰り返す。そんな俺を見て
エフォールはしっかりと首を縦に振った。

 「はい!暗黒ナイトたちがモトユウ2等兵も一緒ってきかないんですよ!」

 「そ、そうなんですか?」

 「自分もビックリですよ!ああも複数に訴えられたら連れてこないといけないのです!」

 「なんか、ごめんなさい」

 「あー、謝ることじゃないのですよ。ナイトたちの意志が強かっただけなのです。
 あとカケユってなんですか⁉」

 「カケユ知ってるんですか?」

 質問を質問で返してしまったにも関わらず、
エフォールは特に気にしていない様子で頷く。
確かデュークさんと暗黒ナイトたちしか知らないはずなので、
どちらかに教えてもらったのだろう。

 「はい。なんでそんなにモトユウ2等兵と入りたいのか聞いたら――」

 ―――――――――――――――――――

 「ユ!」

 「カケユ」

 「カケユ!」

 「モエ!」

 ―――――――――――――――――――

 「という感じでした」

 「な、なるほど……」

 「さあ、経緯も話したしゴーゴーです!」

 (やっぱり暗黒ナイトたちか。萌えパワー入ってるヤツがいるけど、
またメイド服着たオネットに応援してもらったのか?)
 
 割と不思議な経緯で今に至る。
 俺が眠っている間に武器磨きでもしていたのかもしれない。少しホッコリしながら暗黒ナイトたちに目を向けると、
カケユ合戦が始まっていた。きっかけは前と同じだろう。
エフォールもビックリして声を上げる。

 「わー⁉何ですか、あれ!」

 「1体のユ飛沫が別のにかかって連鎖したんだと……。遊びでやってるみたいなので、
気にしなくて大丈夫だと思いますよ」

 「楽しいんですかね」

 「やめないのを見ると……」

 たぶん、俺とエフォールは似たような感情を抱いていると思う。
すぐにやめさせるような行動でもないため、どうリアクションをしていいのかわからなくなる。

 (でも本当に止めるタイミングが難しいんだよな。
前はへネラルさんが止めてくれたけど、今はいないし)

 かといって、ずっとこのままではいけないだろう。
エフォールも眉を寄せて唸っている。

 「むー、リラックスするのも大事ですけど
終わらないのは困りますね」

 「ですよね」

 そのとき、勢いよくドアが開いてデュークさんが顔を覗かせた。

 「やっぱここにいたか~、モトユウちゃん」

 「あ、デューク団長」

 「デュークさん⁉」

 (早⁉もう魔王との話が終わったのか?)

 つい身構える。わざわざ俺のところに来たということは結果報告の可能性が高い。
 階級の意識が強いようで、さすがに暗黒ナイトたちは1度手を止めてデュークさんに敬礼した。
そのまま止まるかと思いきやすぐにカケユ合戦が再開される。

 「ヒハハハハッ!楽しそーだな!」

 デュークさんは笑いながら軽く手を挙げて答えるとユに浸かる。
そして俺の近くまで来てからエフォールに目を向けた。

 「ヤッホー、エフォールちゃん。久しぶりだなー」

 「お久しぶりなのです!相変わらずですね」

 (久しぶり?あんまり会わないのか?)
 
 魔族たちは単独行動が基本みたいなので、なかなか会うことがなくても不思議ではないのだが、
意外なことでビックリした。

 「というか、デューク団長、いつもそんな感じなのですか?」

 エフォールは俺にくっついているデュークさんを引いた目で見ながら言う。

 「おうよー。俺のお気に入りだからー。
な~?モトユウちゃん?」

 「……らしいです」

 「そこは肯定しとこうぜ~、モトユウちゃん。
ちょっとショック~」

 「な、なるほど、です……」

 (エフォールが引いてる。やっぱりデュークさんが変わってるのか)

 俺自身このようなスキンシップは嫌ではないのだが、デュークさんに限っては、あまりして欲しくなかった。
身体が危ないからだ。

 (実際、ギリギリな場面あったしな。それにデュークさん、女性には興味ないし。
 ん?でもエフォールたちには普通に接してるよな?
もしかして俺限定⁉)

 ニンゲンだからだろうか。理由はわからないが、このまま俺が何も言わなければ
半年もしないうちに喰われそうな気がする。
 考え込んでいる俺を気に留めていないのか、
デュークさんは思いだしたように小さく声を上げるとエフォールに向き直った。

 「あ、そうだエフォールちゃん。
明日モトユウちゃん連れてっていい?」

 「むー、自分としては訓練に参加してもらいたいのです。
それにへネラル団長にも聞かないといけないので、少し待ってもらえますか?
早朝までには言いに行きますから」

 「りょーかーい」

 (俺の意見は聞かないのかよ⁉)

 勝手に決められた。デュークさんはともかく
エフォールは俺に聞いてくるだろうと思っていたので予想外だ。

 「あ、あのー、肝心の俺の意見は?」

 「え、なにがなんでも連れてくぜー?
モトユウちゃんいないと困るから」

 「何する気ですか⁉」

 「ナイショ」

 笑顔で返されて問い詰める気もなくなった。
俺たちのやり取りを見ていたエフォールが諦めたようにため息をつく。

 「はー、わかりました。へネラル団長には上手いこと言っておきます。
どうせ止めても無駄でしょう」

 「サンキュー、エフォールちゃん」

 「でも訓練に支障が出ないようにして
くださいね」

 「大丈夫大丈夫ー。ギリギリの範囲でやるから。
 つーか、やっぱりモトユウちゃん今から連れてっていい?
1個やらなきゃいけないことがあったんだわ」

 「えー、急ぎですか?」

 「急ぎー」

 (やらなきゃいけないこと?
ベッドの材料集めか?)

 2人の会話を聞きながら俺は首を傾げた。
それ以外に急ぎの用事が思いつかない。

 「おし、そうと決まれば行こうぜ、
モトユウちゃん!」

 「えっ⁉ちょっ⁉」

 (もう⁉フロ入りたいんじゃないのか⁉)

 デュークさんは戸惑っている俺の腕を掴むと
強引に引っ張っていった。
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