58 / 93
第2章
ドーワ族と交渉する
しおりを挟む
「こ、こんにちはー」
城に帰ってきてすぐにドーワ族の工房を訪ねていた。
声をかけるとネキがひょっこりと顔を覗かせる。
「……いらっしゃい、ニンゲンさん」
「あ、ネキ。親方さんいる?」
「……いる。あ!」
ネキは俺が持っているプラティヌ鉱石を見て大きく目を開いた。
しばらくそれを見つめたあと、ゆっくりと俺に顔を向ける。
「……と、採ってきたの?」
「うん。協力してもらったけどね」
「……………………親方ーー‼」
大声で叫びながらネキが工房に入っていくとすぐに怒鳴り声が聞こえた。
「ごちゃごちゃうるせぇぞ!ネキ!」
「うるさくない!ニンゲンさん鉱石持ってきた!ほんと!
スゴい!」
「……ああ?」
意外そうな声がしてバタバタと足音がこちらに向かってくる。出てきた親方は俺を見て目を見開いた。
「ど、どーもです」
「……まさか本当に採ってくるとはな」
「え、信じてなかったんですか?」
「口だけだろうと思ってたんだよ。
どれ、見せてみろ」
親方は鼻を鳴らして俺から鉱石を奪い取るように持つと、いろいろな角度から眺め始めた。
真剣な表情で声をかける隙がない。
しばらくすると俺に顔を向ける。
「1人で採ったのか?」
「いえ、3人です」
「…………正直、驚いている。ほぼ無傷じゃねぇか」
「もし価値が下がったらいけないと思って気をつけました」
(やっぱキズついたらダメだったのか。注意しててよかった)
親方はしかめっ面ではあるが怒りなどは感じ取れない。
たぶん普通の表情なのだろう。なんとなくだが、交渉するなら今だと思った。
「そ、それで、ベッド、作ってもらえませんか?」
「………………………………」
(や、やっぱりそれとこれとは別なのか?作ってもらえない?)
少し眉をつり上げた親方を見て不安と恐怖を覚える。
とはいえ、やれるだけのことはやったのでドキドキしながら返答を待つしかない。
親方は目を閉じると息をついた。
「……木材はあるか?あるなら持ってきな。作ってやるよ」
「ありがとうございます!!」
深く頭を下げるとさっそく取りに向かう。
するとネキがトコトコついてきた。
「……ウチも行く」
「いいの?それに木材重いけど」
「……ドーワ族をナメないで」
1人で運ぶつもりだったが、せっかくの厚意をムダにしたくない。
裏に戻ると放置したままだった木材を見つける。全部で10。
1回に2つ運ぶとして、ネキもいるので3往復すれば終わりそうだ。
「……これ運ぶのね」
「うん。とりあえず1回調理場まで全部――」
「よいしょっと」
俺は口を開けたまま動きを止めた。なぜならネキはスレンダーな体型とは裏腹に木材を軽々と担ぎ上げていて、
しかも1つだけではなくさらに4つ増やす。
「重くないの⁉」
「……平気。ドーワ族は力が強いんだよ。知らなかった?」
「聞いたことはあったけど、見るのは初めてで」
ハラハラしている俺とは対照的に、ネキは普段通りのやる気のなさそうな顔だ。
重さなんて気にしていないようだ。
「……で、さっき言いかけてたけど調理場まで全部運ぶんでしょ?」
「う、うん」
まさかネキが5つも持っていってくれるとは思わなかったので2往復で終わってしまった。
その分時間ができたので、地下への入り口を開けて木材を1本ずつ通す。
キズを増やさないように気をつけながら5本目を運んでいると工房から親方の声が響いてきた。
慌てて向かって経緯を説明する。
「ってなんだこりゃ⁉表面ガッタガタじゃねぇか!」
「す、すみません。樹皮ぐらいは剥がしておいた方がいいかと思って。
そのままの方が良かったですかね……」
親方は視線を木材に移して眺めていたが、諦めたようにため息をついた。
「いや、ありがたい。ここまでしてくるヤツは滅多にいないからな。
だが……これだったら俺がやった方がマシだ」
「すみません、不器用で……」
「いい。俺たちの負担を少しでも軽くしようと思ってやったんだろ?
文句なんて言ったら罰が当たるな。言わねぇけどよ」
(もしかしてこんな態度なのは理由があるのか?)
明らかに最初と態度が違う。少しは気を許してもらえたのだろうか。
考えていると、木材を2つ抱えたネキが頬を膨らませて顔を覗かせる。
「……ニンゲンさん、途中でやめないで」
「あっ、ごめん!ネキ!」
慌てて駆け寄って持とうとしたが、避けられた。
どうやら怒っているようだ。
「……ウチが運ぶ」
「あーあ、ネキの機嫌損ねたな。めんどくせぇぞ。
機嫌を直したいなら何か食い物持ってきな」
(マジか……)
「って、そんな湿気た顔すんなよ。食べられる物だったら何でもいいぞ。
その代わり大食いだから、3人分持ってきな」
「マジですか⁉」
「ああ」
首を縦に振った親方を見て憂鬱な気分になる。3人分集めるのはけっこうキツいかもしれない。
目標は果たしたし、次の目的ができてしまったので帰ることにする。
「じゃあ、俺そろそろ」
「ああ、帰る前に身長測らせてくんな。じゃないと、サイズ合わねぇぞ」
「お願いします!」
「……アンタおもしれぇな。なんでそんなに頭下げんだよ?」
「癖です」
いつからそうなったのかは覚えていないが、ある意味、
俺のチャームポイントになっている。
「なんだそりゃ。
まあいい、そのまま立ってろよ」
親方は木材を俺の横に立てて、頭より少し上の位置に赤い線を引いた。
「これでよし。
確実に3日はかかるからな。それ以降にちょくちょく顔出してくんな」
「わかりました。ありがとうございます!」
ネキにもお礼を言おうと思ったが、俺に背を向けて持ってきた木材を並べていた。
親方とのやり取りは聞こえているはずなのにこちらを向かないということは、まだ機嫌が悪いのだろう。
とはいえ、お礼は言っておかないといけない。
「ネキもありがとう!」
「…………………………」
(ノーリアクション。次来るときに食べ物3人分、か)
もう一度頭を下げてから工房を後にした。
城に帰ってきてすぐにドーワ族の工房を訪ねていた。
声をかけるとネキがひょっこりと顔を覗かせる。
「……いらっしゃい、ニンゲンさん」
「あ、ネキ。親方さんいる?」
「……いる。あ!」
ネキは俺が持っているプラティヌ鉱石を見て大きく目を開いた。
しばらくそれを見つめたあと、ゆっくりと俺に顔を向ける。
「……と、採ってきたの?」
「うん。協力してもらったけどね」
「……………………親方ーー‼」
大声で叫びながらネキが工房に入っていくとすぐに怒鳴り声が聞こえた。
「ごちゃごちゃうるせぇぞ!ネキ!」
「うるさくない!ニンゲンさん鉱石持ってきた!ほんと!
スゴい!」
「……ああ?」
意外そうな声がしてバタバタと足音がこちらに向かってくる。出てきた親方は俺を見て目を見開いた。
「ど、どーもです」
「……まさか本当に採ってくるとはな」
「え、信じてなかったんですか?」
「口だけだろうと思ってたんだよ。
どれ、見せてみろ」
親方は鼻を鳴らして俺から鉱石を奪い取るように持つと、いろいろな角度から眺め始めた。
真剣な表情で声をかける隙がない。
しばらくすると俺に顔を向ける。
「1人で採ったのか?」
「いえ、3人です」
「…………正直、驚いている。ほぼ無傷じゃねぇか」
「もし価値が下がったらいけないと思って気をつけました」
(やっぱキズついたらダメだったのか。注意しててよかった)
親方はしかめっ面ではあるが怒りなどは感じ取れない。
たぶん普通の表情なのだろう。なんとなくだが、交渉するなら今だと思った。
「そ、それで、ベッド、作ってもらえませんか?」
「………………………………」
(や、やっぱりそれとこれとは別なのか?作ってもらえない?)
少し眉をつり上げた親方を見て不安と恐怖を覚える。
とはいえ、やれるだけのことはやったのでドキドキしながら返答を待つしかない。
親方は目を閉じると息をついた。
「……木材はあるか?あるなら持ってきな。作ってやるよ」
「ありがとうございます!!」
深く頭を下げるとさっそく取りに向かう。
するとネキがトコトコついてきた。
「……ウチも行く」
「いいの?それに木材重いけど」
「……ドーワ族をナメないで」
1人で運ぶつもりだったが、せっかくの厚意をムダにしたくない。
裏に戻ると放置したままだった木材を見つける。全部で10。
1回に2つ運ぶとして、ネキもいるので3往復すれば終わりそうだ。
「……これ運ぶのね」
「うん。とりあえず1回調理場まで全部――」
「よいしょっと」
俺は口を開けたまま動きを止めた。なぜならネキはスレンダーな体型とは裏腹に木材を軽々と担ぎ上げていて、
しかも1つだけではなくさらに4つ増やす。
「重くないの⁉」
「……平気。ドーワ族は力が強いんだよ。知らなかった?」
「聞いたことはあったけど、見るのは初めてで」
ハラハラしている俺とは対照的に、ネキは普段通りのやる気のなさそうな顔だ。
重さなんて気にしていないようだ。
「……で、さっき言いかけてたけど調理場まで全部運ぶんでしょ?」
「う、うん」
まさかネキが5つも持っていってくれるとは思わなかったので2往復で終わってしまった。
その分時間ができたので、地下への入り口を開けて木材を1本ずつ通す。
キズを増やさないように気をつけながら5本目を運んでいると工房から親方の声が響いてきた。
慌てて向かって経緯を説明する。
「ってなんだこりゃ⁉表面ガッタガタじゃねぇか!」
「す、すみません。樹皮ぐらいは剥がしておいた方がいいかと思って。
そのままの方が良かったですかね……」
親方は視線を木材に移して眺めていたが、諦めたようにため息をついた。
「いや、ありがたい。ここまでしてくるヤツは滅多にいないからな。
だが……これだったら俺がやった方がマシだ」
「すみません、不器用で……」
「いい。俺たちの負担を少しでも軽くしようと思ってやったんだろ?
文句なんて言ったら罰が当たるな。言わねぇけどよ」
(もしかしてこんな態度なのは理由があるのか?)
明らかに最初と態度が違う。少しは気を許してもらえたのだろうか。
考えていると、木材を2つ抱えたネキが頬を膨らませて顔を覗かせる。
「……ニンゲンさん、途中でやめないで」
「あっ、ごめん!ネキ!」
慌てて駆け寄って持とうとしたが、避けられた。
どうやら怒っているようだ。
「……ウチが運ぶ」
「あーあ、ネキの機嫌損ねたな。めんどくせぇぞ。
機嫌を直したいなら何か食い物持ってきな」
(マジか……)
「って、そんな湿気た顔すんなよ。食べられる物だったら何でもいいぞ。
その代わり大食いだから、3人分持ってきな」
「マジですか⁉」
「ああ」
首を縦に振った親方を見て憂鬱な気分になる。3人分集めるのはけっこうキツいかもしれない。
目標は果たしたし、次の目的ができてしまったので帰ることにする。
「じゃあ、俺そろそろ」
「ああ、帰る前に身長測らせてくんな。じゃないと、サイズ合わねぇぞ」
「お願いします!」
「……アンタおもしれぇな。なんでそんなに頭下げんだよ?」
「癖です」
いつからそうなったのかは覚えていないが、ある意味、
俺のチャームポイントになっている。
「なんだそりゃ。
まあいい、そのまま立ってろよ」
親方は木材を俺の横に立てて、頭より少し上の位置に赤い線を引いた。
「これでよし。
確実に3日はかかるからな。それ以降にちょくちょく顔出してくんな」
「わかりました。ありがとうございます!」
ネキにもお礼を言おうと思ったが、俺に背を向けて持ってきた木材を並べていた。
親方とのやり取りは聞こえているはずなのにこちらを向かないということは、まだ機嫌が悪いのだろう。
とはいえ、お礼は言っておかないといけない。
「ネキもありがとう!」
「…………………………」
(ノーリアクション。次来るときに食べ物3人分、か)
もう一度頭を下げてから工房を後にした。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
12/23 HOT男性向け1位
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
クラス転移したからクラスの奴に復讐します
wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。
ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。
だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。
クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。
まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。
閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。
追伸、
雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。
気になった方は是非読んでみてください。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
神は激怒した
まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。
めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。
ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m
世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる