命乞いから始まる魔族配下生活

月森かれん

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第2章

夜の城外を探索する

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 「はぁ、よかった」

 自室に戻って壁にもたれかかる。
どうなるかと思ったが無事にベッドを作ってもらえることになって安心した。
 ふと、窓から外を見るとちょうど日が落ちようとしている。

 「まだ1日も経ってなかったのか。いろいろあり過ぎて3日ぐらい経ったかと思った」

 魔族たちの訓練、プラティヌ鉱石の採取、そしてドーワ族との交渉と立て続けだった。
 そのまましばらくボーっと空が暗くなるのを眺める。

 「無事に終わっただけいいか……。
 そういえば、夜の城外って行ったことないな」

 1度気になるとそのことばかり考えてしまう。
昼とは違った景色が見られるだろう。
絶対に今日やらないといけないわけではないのだが、
気にしすぎて眠れないかもしれない。
 
 「グルッと1周だけ……。逃げるわけじゃないんだし、いいよな?」

 自分に言い聞かせるようにして部屋を出た。
廊下は昼間と同じようにシンとしているが、外が暗いからかブキミさが増している。

 (でもこんなに静かだったか?
デュークさんとフロ入った後とか通ったけど、ここまでではなかった気がするんだけどな)

 何度も通っているが環境なんて考えている余裕はなかったと思う。
 少し足を動かしただけでも音が響きそうで怖いので、背中を丸めてつま先歩きで進むことにした。
どうしても王座の間の前を通らなければならず、少し震えながら中を見たが魔王の姿は見えない。ホッと胸をなでおろしてゆっくり進んだ。
 とはいえ魔王だけでなく、魔族の誰かに見つかったら大変だ。
慎重に周囲の様子を伺いながら、どうにか1階に降りて外に出ることができた。 

 (悪いことしてるわけじゃないんだけど、落ち着かない)

 1人でコソコソと行動しているからだろうとは思う。
それに部屋から今まで魔族の影すら見ていない。見つかっても困るが、逆に不安になってくる。
単純に規則正しい生活をしているだけかもしれないが。
  奇跡的に誰にも会わずに見慣れた黒い門が視界の奥に映る。

  (よし!門が見えた!あともう少し――)

 「ど~こ行くのさぁ~?」

 背後から抱きつかれた。すでに声で誰かわかってはいるが、
こんなことをしてくる人なんて1人しかいない。

 「デ、デュークさん……」

 「こんな時間に出歩いてるなんて珍しいじゃない~。
 なに、討伐?それとも個人的な用事?」

 「えっと、その」

  (よりにもよってデュークさん!?
言ってもいいんだろうけど……)

 「まさか逃げようと――」

 「違います!」

 即答するとデュークさんが笑う。
いつも通りの笑顔にホッとした。

 「ヒハハッ!そんな慌てて言わなくてもいいじゃん~。
んで?何用?」

 「夜の城外に行ったことないなって考えてたら、居ても立っても居られなくなってしまって」

 「ン?そうだったか~?」

 「はい。
 あと、離れてくれません?」

 「どうしよっかな~」

 言いながらデュークさんはさらに密着してきた。単なるスキンシップだとは思いたいが、度を越している気がする。
 それにしても、どうやったら音や気配もなく近づいてこれたのだろう。
全く気づけなかった。 

 (距離近いし少し苦しい。マジでどうしたらいいんだ、コレ⁉)

 かといって、振りほどく勇気もない。仮に振りほどいたとしても、
またすぐに抱きつかれそうだ。
 どうしようか考えていると耳元で囁いてくる。

 「……今から「ツケ」、払ってもらってもいいぜ?」

 「え゛⁉い、いきなり何言い出すんですか⁉」

 「何ってそのままの意味よ~?俺はいいけどな?」

 「え、いや……」

 「な~んてな。ある程度溜まったら払ってもらうから、
今日はまだ大丈夫だぜ~」

 「は、はぁ」

 (心臓に悪い。でも今から払うよりは全然マシだ!)

 デュークさんはホッとしている俺を解放すると、今度は正面に立った。

 「俺もついてこーっと。
 そういや、具体的に何するのさ~?」

 「城の周りを1周しようと思って」

 「リョーカイー。じゃ、行こうぜ!」

 「え⁉」

 笑顔で言うと同時に俺の腕を掴んで引っ張っていく。
わけがわからないまま送れないように足を合わせた。


 
 半周まで来たところで、右の方からズシンと地響きが足に伝わってきた。
思わず足を止めてデュークさんと顔を見合わせる。

 「なんですかね、これ?」

 「さぁ~?」

 モンスターだろうか。しかし止まるわけにもいかないので、速度をおとして進む。
 俺たちは右に進んでいるし、地響きもだんだん近づいて影が2つ見えてきた。あれが地響きを起こしているモノだろう。
 それらとの距離も短くなってきて俺は思わず足を止めた。
灰色の岩体、そして所々に光る白い石。

 「ブラティヌゴーレム⁉」

 「お、マジだ~。
 でもアイツラは滅多にテリトリーから出ないはずだぜ?」

 「それぐらい大事な用が――」

 そこまで言って1つ思いた当たることがあった。鉱石採取だ。
1体のゴーレムの腕を斬ってしまったので、仕返しに来たのかもしれない。

 「もしかして昼間の復讐⁉」

 「そんだけのためにテリトリー離れる~?フツー?」

 「あり得るかもしれないじゃないですか⁉」

 「だったらもっと数引き連れてくるだろ~」

  (あ、確かに)

 デュークさんの言うことも最もで、恨みがあるのなら全力で来るはずだ。
しかし2体だけしかいないのなら目的は別にあるのだろう。
 ゴーレムたちは俺の前で立ち止まる。

 (俺⁉やっぱり怒ってるのか!?)

 「どーするよ?斬るか?」

 「様子見――いや1回謝ってみます!」

 「は?マジで言ってる?」

 「通じるかわかりませんけど」

 「あ、そう……」

 デュークさんは呆れたように声を漏らした。
しかし、俺の真横に立つとゴーレムたちを睨みつける。
気を出して威嚇はしているものの剣は出していないので戦うつもりはないみたいだ。

 (ゴーレムたち、何もしてこないな?デュークさんの気に警戒してるのか?
 でも、謝るなら今だ!)

 「腕斬ってすみませんでした!」

 いつかのときのように地面に座って頭を下げる。やりすぎだとは思ったし、そもそもモンスター相手に真剣さが伝わるかわからないが、これ以外に思いつかなかった。
 てっきり腕を振り下ろすか何かしてくるかと思ったのに、ゴーレムは少しだけ足を曲げただけだ。 

 『ニンゲン、カンシャ』

 「…………喋ったー⁉」

 すこしの間を開けて俺とデュークさんが同時に叫ぷ。

 「って、なんでデュークさんまでビックリしてるんですか⁉」

 「そりゃビックリするだろ⁉
口利くヤツは初めてだ‼」

 確かに城の周りにいるエンシェントオークや突撃バッファローは鳴き声だけだった。
 人型に近いので言葉が話せるのだろうか。

 「そういえば感謝って……」

 俺の言葉を聞くと、後ろにいるもう1体のゴーレムが左腕をグルグルと回す。

 『ウデ、ウメル。ナオル、ハヤイ』 

 「あ……」

 採取の時ゴーレムの腕が大きすぎたため切断し、不要な部分は地面に埋めたのだった。
仕組みはわからないが腕の再生に貢献したらしい。
 
 『キチョウ』

 そう言うとゴーレムは足を伸ばして帰って行った。
呆気にとられた俺たちは地響きを感じながらしばらく立ち尽くしていたが、
先に我に返ったデュークさんが髪の毛をワシャワシャとかき乱してくる。

 「スゲ~な~、モトユウちゃんッ!!
俺らどころかモンスターとも仲良くなれるなんてよ~!」

 「俺もッ、ビックリ、してますッ⁉」

 (ワシャワシャが激しい⁉頭が揺れてうまく喋れねぇんだけど⁉)

 俺の様子なんて気に止めていないようで、手を動かしながらデュークさんは話を続けた。

 「わざわざ来るぐらいだから、ゴーレムたちにとっても意外だったん
だろうよー」
 
 「そうッです、ね」

 「ン?モトユウちゃん大丈夫~?」

 「デュークさんが、頭ワシャワシャ、するからですよ」

 ようやく不思議そうに首を傾げて手を止めてくれた。
俺はまだ耐性があるのでよかったものの、弱い人だったらリバース一直線だ。
 話も途切れたみたいなので、明日のことを確認する。

 「あそういえば、デュークさん。明日は」

 「ああ。暴食族グーラブッタ斬るんだろ?
間違っても止めようとすんなよ?」

 「はい……。よろしくお願いします……」

 心のどこかで中止になるんじゃないかと期待していたが、
あっけなく砕かれた。魔族にとっても厄介者なのだから仕方がない。

 「じゃあ、また明日」

 「おうよ~、寝坊すんなよ~?」

 「しませんよ⁉」

 (それにどうせ起こしに来るだろ⁉)

 心の中でツッコミながらデュークさんと別れる。
 初めての夜の城外探索は思っていたよりも悪くなかった。






――――――――――――――――――――――――

 モトユウと別れたデュークは珍しく俯くと
小刻みに体を震わせて笑う。

 「ヒハハハハ。もうゲンカイかも……」
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