【R18】一目惚れされた俺!恋人は俺だけに甘いスパダリだった!

望月 キララ

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# 48ー友情ー

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 しばらくの間、二人は点滴を受けていたが、やがて仕事の時間が迫ってくる。

 今日はやけに静かな夜だ。いつもの当直は、救急車のサイレンや院内放送が鳴りっぱなしで慌ただしいことが多いのに、今夜はその音がまるでない。確かに、救急車が来ない夜というのは平和でありがたいことだ。しかし、こんなことは滅多にない。もしかしたら、望がこの病院で働き始めてから、初めてのことかもしれない。

「こんな静かな夜は珍しいよなぁ?」

「ああ……」

「多分、今日は緊急の患者さんは来ないんじゃないかな。だからさ、桜井さんのところに行ってくればー」

 その言葉に、望の胸は少しだけ高鳴る。心臓が勝手に早く打つのを感じ、つい和也を見つめてしまう。

「……え? でも、その……緊急の患者さんが来たら、その……あ、ヤ、ヤバイだろ?」

 和也の軽口に動揺する望。言葉に詰まりながらも、顔は少し赤くなっていた。

「大丈夫だって! 簡単なことなら俺がやっておくし……他にも医者はいるんだろ?」

「いるんならいいんじゃねぇの? だって、そいつにも経験って積ませなきゃなんねぇだろ?」

「ま、そうなんだけどさ……。ま、ヤバイと思ったら呼べよ!」

 望は、新人医師が当直医だということに不安を覚えつつも、視線を宙に浮かせ、何かを考える。

 それに気づいた和也は、にやにやと笑みを浮かべながら、

「はいはい……分かってるから」

「本当にお前……変わったんだな」

「ん? あ、まぁね」

 和也はもう望のことを完全に受け入れ、諦めたのだろう。今は逆に、雄介と望の関係を祝福しているようにも見える。実際、この会話の間、和也の顔にはにこやかな笑みが浮かんでいた。

 そして和也は立ち上がり、望の背中をポンっと押す。半ば無理やり雄介の病室に向かわせる形で追い出すと、望はその背中に押されるまま、素直に廊下へと出て行った。嫌ではないから、自然と足が前に出る──完全に嫌なら、背中を押されても踏ん張って出て行くことはないのだ。

 和也は笑顔で望を送り出し、自分は椅子に腰を下ろす。

 一方、追い出された望は腕を組み、廊下をゆっくり歩きながら考えていた。

 どうやって雄介の病室に入ろうか。部屋に入る理由は? 少し考え込む望。確かに半分無理やり押し出されたのだが、病室に入る明確な理由は見つからない。

 首を傾げ、足を止めて迷いながら歩いているうちに、いつの間にか雄介の病室前まで来てしまっていた。無意識の行動というものは、時に恐ろしいほど自然なものだ。

 そこで望は思い切って病室に入ろうとした瞬間、声がかかった。

「先生? そこで何してるん?」

 一瞬、望の体がビクッと震える。しかし、声の主を見てすぐに安心し、少し顔を赤らめながら、

「あ、だから……その……えーと……」

 視線を宙に漂わせ、言葉を濁す望。しかし次の瞬間、気を取り直して口を開く。

「……って、お前こそ何してんだよ? 今は夜中だぞ」

 小さな声だが、焦りと戸惑いが混ざっている。声をかけたのは、この病室の主であり、今では望の恋人となった雄介だ。和也に押されて来たとはいえ、望の行き先は雄介の病室に決まっていた。

 間もなく退院を控える雄介は、もうしっかりとした足取りで廊下を歩いている。

「……へ? あ! 俺か? トイレやトイレ」

「そうだったのか」

「今日、望は当直なん?」

「ああ、まぁな……今はその……暇だったから、患者さんの様子を見回っていただけで」

 視線を宙に浮かべる望。嘘をついているのは明らかだが、雄介はそのことに気づいていないのか、あるいは分かっていても敢えて何も言わないのか──。雄介は微笑みながら、望の背中を優しく押し、病室の中へと導くのだった。
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