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すずちゃんのJK生活
第30話 文化祭、始動!
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朝のチャイムが鳴る前から、グリフィンチ学園の中庭はすでににぎわいを見せていた。いつもは落ち着いた制服姿の生徒たちも、この日ばかりは思い思いの衣装や法被を身にまとい、準備に勤しんでいる。焼きそばの匂い、ポップコーンの弾ける音、太鼓の音色に混じって、誰もがいつもよりほんの少し浮かれていた。
小鈴は教室の隅で、文芸部の出展ブースで配布する冊子の最終確認をしていた。
「……うん、印刷ミスもなさそう。ページも順番通り。よかった……」
初めての文化祭参加。しかも、部活動の代表として出す初めての作品。緊張と不安と、ほんの少しの期待が入り混じって、胸の奥が妙に落ち着かない。
「小鈴ちゃん、確認終わった? 俺のポエムコーナー、ちゃんと“校正不可”って書いてあるよね?」
「紅葉先輩、それ去年妹さんの写真に添えたやつですよね!? なんで今年も!?」
「妹の魅力を文字で残すのは兄として当然の使命だと思うんだけど?」
「間違っても楓ちゃんにバレたら……」
「死ぬね」
「わかってるならやめてください~!!」
いつものようなやり取りに、隣の席から優凜が苦笑しながらひとこと。
「それにしても、あのページだけ文字がやたら情熱的なの、すぐにわかるのよね……」
「お褒めの言葉と受け取っておくよ、優凜ちゃん」
廊下の向こうから聞こえてくる「焼きそば!」「チュロスあります!」という声に混じって、文芸部のブースにも人が集まり始めていた。
「こんにちはー! あ、これが文芸部の冊子……あれ、意外とちゃんとしてる!」
「し、失礼ですね!?」
小鈴のツッコミに、周囲がくすくすと笑う。
いつもは静かな文芸部が、今日は珍しく陽気な空気に包まれている。
そんな中、一郎が静かに会場の隅から戻ってくる。手には冊子を数部抱えていた。
「他のクラスに配ってきた。宣伝用」
「ありがとう、一郎くん。どうだった?」
「……七割くらい“意外と面白そう”って反応だったよ。あとは“誰が書いたの?”って質問が多かった」
「あっ……それ、困るやつだ」
冊子の中には、匿名で書かれた各メンバーの短編や随筆、詩が並んでいる。そのなかに一つ、小鈴の名前を隠した《異能力》をテーマにした物語も含まれていた。
フィクションだと思わせる形にはしたが、それでもその一節一節には、彼女の実体験が濃く滲んでいる。
(見られたくない……でも、読んでほしい)
そんな矛盾した思いが、ページの間に挟まっていた。
「まあ、名前は出してないから。誰にもバレないよ」
「うん……そうだね」
ふと、ブースの脇から顔を出したのは、準部員として参加している楓だった。彼女はエプロン姿に着替えていて、屋台の手伝いの合間に差し入れを持ってきてくれたようだ。
「すずちゃん、ほら。冷たい抹茶ラテ! あたしの手作り!」
「えっ、ほんとに!? ありがとう!」
「もちろん味見してないけど!」
「し、してぇ!?」
和やかな時間の中、ふと視線が交錯する。
紅葉が、遠巻きに冊子を手に取ったまま、小鈴のページをじっと見つめていた。
「……小鈴ちゃん、この文章。すごく、“君らしい”ね」
「えっ……」
「なんかさ。ちゃんと前を見てる。迷いながらでも、自分の意思で、って感じ。俺は好きだな、こういうの」
唐突な言葉に、思わず心臓が跳ねる。
(……やめてほしい、そういう不意打ち)
「……ありがとうございます」
素直にお礼が言えたのは、自分でも少し驚きだった。
──昼を過ぎても、文化祭の熱気は冷めなかった。裏文芸部としての活動は今日だけはお休み。けれど、その影は完全に消えてはいなかった。
部室の机の引き出しには、一郎が回収した“地下階の設計図”の断片。優凜が作成中の武器設計図。そして、紅葉が記した“異能観測記録”。
それらはすべて、今は鍵をかけて眠っている。
(今日だけは、普通の文化祭。普通の生徒として)
けれど。
それがいつまで続くのかは、誰にもわからない。
「おいおい! くじ引きで当たったんだから、さっさとメイド服に着替えなよ一郎くん!」
「断る」
「お願い! 着てくれたら一生のお願いに使わないから!」
「どれが一生のお願いなのか数えてるぞ、楓」
「ヒィッ!?」
教室には笑い声が響く。
夕暮れが近づき、そろそろ閉会式の準備が始まる頃。
祭の喧騒の中、小鈴はふと空を見上げる。
この日常が、ずっと続きますようにと、願ってしまう。
だが彼女はもう知っている。
その願いは、願った瞬間から儚いものになるということを。
小鈴は教室の隅で、文芸部の出展ブースで配布する冊子の最終確認をしていた。
「……うん、印刷ミスもなさそう。ページも順番通り。よかった……」
初めての文化祭参加。しかも、部活動の代表として出す初めての作品。緊張と不安と、ほんの少しの期待が入り混じって、胸の奥が妙に落ち着かない。
「小鈴ちゃん、確認終わった? 俺のポエムコーナー、ちゃんと“校正不可”って書いてあるよね?」
「紅葉先輩、それ去年妹さんの写真に添えたやつですよね!? なんで今年も!?」
「妹の魅力を文字で残すのは兄として当然の使命だと思うんだけど?」
「間違っても楓ちゃんにバレたら……」
「死ぬね」
「わかってるならやめてください~!!」
いつものようなやり取りに、隣の席から優凜が苦笑しながらひとこと。
「それにしても、あのページだけ文字がやたら情熱的なの、すぐにわかるのよね……」
「お褒めの言葉と受け取っておくよ、優凜ちゃん」
廊下の向こうから聞こえてくる「焼きそば!」「チュロスあります!」という声に混じって、文芸部のブースにも人が集まり始めていた。
「こんにちはー! あ、これが文芸部の冊子……あれ、意外とちゃんとしてる!」
「し、失礼ですね!?」
小鈴のツッコミに、周囲がくすくすと笑う。
いつもは静かな文芸部が、今日は珍しく陽気な空気に包まれている。
そんな中、一郎が静かに会場の隅から戻ってくる。手には冊子を数部抱えていた。
「他のクラスに配ってきた。宣伝用」
「ありがとう、一郎くん。どうだった?」
「……七割くらい“意外と面白そう”って反応だったよ。あとは“誰が書いたの?”って質問が多かった」
「あっ……それ、困るやつだ」
冊子の中には、匿名で書かれた各メンバーの短編や随筆、詩が並んでいる。そのなかに一つ、小鈴の名前を隠した《異能力》をテーマにした物語も含まれていた。
フィクションだと思わせる形にはしたが、それでもその一節一節には、彼女の実体験が濃く滲んでいる。
(見られたくない……でも、読んでほしい)
そんな矛盾した思いが、ページの間に挟まっていた。
「まあ、名前は出してないから。誰にもバレないよ」
「うん……そうだね」
ふと、ブースの脇から顔を出したのは、準部員として参加している楓だった。彼女はエプロン姿に着替えていて、屋台の手伝いの合間に差し入れを持ってきてくれたようだ。
「すずちゃん、ほら。冷たい抹茶ラテ! あたしの手作り!」
「えっ、ほんとに!? ありがとう!」
「もちろん味見してないけど!」
「し、してぇ!?」
和やかな時間の中、ふと視線が交錯する。
紅葉が、遠巻きに冊子を手に取ったまま、小鈴のページをじっと見つめていた。
「……小鈴ちゃん、この文章。すごく、“君らしい”ね」
「えっ……」
「なんかさ。ちゃんと前を見てる。迷いながらでも、自分の意思で、って感じ。俺は好きだな、こういうの」
唐突な言葉に、思わず心臓が跳ねる。
(……やめてほしい、そういう不意打ち)
「……ありがとうございます」
素直にお礼が言えたのは、自分でも少し驚きだった。
──昼を過ぎても、文化祭の熱気は冷めなかった。裏文芸部としての活動は今日だけはお休み。けれど、その影は完全に消えてはいなかった。
部室の机の引き出しには、一郎が回収した“地下階の設計図”の断片。優凜が作成中の武器設計図。そして、紅葉が記した“異能観測記録”。
それらはすべて、今は鍵をかけて眠っている。
(今日だけは、普通の文化祭。普通の生徒として)
けれど。
それがいつまで続くのかは、誰にもわからない。
「おいおい! くじ引きで当たったんだから、さっさとメイド服に着替えなよ一郎くん!」
「断る」
「お願い! 着てくれたら一生のお願いに使わないから!」
「どれが一生のお願いなのか数えてるぞ、楓」
「ヒィッ!?」
教室には笑い声が響く。
夕暮れが近づき、そろそろ閉会式の準備が始まる頃。
祭の喧騒の中、小鈴はふと空を見上げる。
この日常が、ずっと続きますようにと、願ってしまう。
だが彼女はもう知っている。
その願いは、願った瞬間から儚いものになるということを。
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