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すずちゃんのJK生活
第31話 自由時間と、それぞれの文化祭
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「完売……です!」
弾けるような声で報告した小鈴の手には、最後の一冊が残されていた。
それを受け取ったのは、演劇部のきらびやかな衣装に身を包んだ女生徒。舞台袖から抜け出してきたような、まだ興奮冷めやらぬ笑顔だった。
「文芸部って、もっとお堅いイメージだったけど……読みやすかったし、普通に面白かったよ。来年も楽しみにしてるね」
「……あ、ありがとうございますっ!」
小鈴は思わず深く頭を下げ、はっとして顔を上げると、周囲の視線に気づいた。
文芸部メンバーたちが、いつの間にか手を止めてこちらを見ていた。紅葉、一郎、優凜、そして端っこで物静かに控えていた都斗までが、まるで舞台の千秋楽を祝うように温かな拍手を送っていた。
「これで、冊子分は全部終了だね」
「……本当に、お疲れ様」
「打ち上げは……俺の別荘か」
「おい都斗、それ言うのフライングだぞ。まだ文化祭終わってないからな」
「ん」
小さく頷いた都斗の反応に、紅葉が笑い、周囲も思わず吹き出す。
「じゃあ、ここからは自由行動ってことでいいかな?」
優凜が持ち前のスムーズな進行力で切り出すと、自然と皆が頷いた。
「せっかくだし、すずちゃん一緒に回らない?」
その声とともに、隣にいた楓がパッと手を取ってきた。
「えっ、い、いいの……?」
「もちろん! 女子会タイムだよ女子会! あっ、ゆりちゃんもいこーよー!」
「ええ。せっかくのお祭りだもの、楽しまなきゃ損よ」
ぐいぐいと引かれるままに、小鈴は笑いながらその輪の中へ。
文芸部の女子組は、気づけば自然な流れで文化祭見学ツアーに出発していた。
「見て見て、あそこのお化け屋敷、“本気出した”って書いてある!」
「入るならあれがいい。リアリティある系」
「ゆ、優凜さんノリノリですね……」
「いざとなったらすずちゃんの《貪食》で全部解決できそう」
「文化祭の出し物に能力持ち込まないで!?」
「でも万が一異能型の怪異が潜んでたら対処可能、って意味では完璧な布陣よね」
「いないでしょ!? ……多分!」
校舎の片隅に作られたホラー演出の迷路にきゃあきゃあと反応し、スイーツコンテストでは投票用の試食券を大事そうに握りしめ、撮影スポットではハロウィン風の衣装に帽子をかぶって何度もポーズを変える。
女子組の文化祭巡りは、終始にぎやかだった。
ふとした瞬間、小鈴は気づく。
(……なんだろう。私、すごく笑ってる)
グリフィンチ学園に入学したばかりの春、あんなに憧れていた場所に立ちながら、どこか遠い場所にいるような孤独を感じていた。
外部生という立場。周囲は才気あふれるエリートたちばかりで、自分だけが何か足りないような、そんな感覚が消えなかった。
でも、今は違う。
紅葉たちの言葉、優凜のさりげない気遣い、楓の天真爛漫な笑顔。
彼女たちが紡ぐ時間の中で、自分もたしかに存在している――そんな実感があった。
「すずちゃーん、次は射的! ポイント貯めると景品もらえるって!」
「じゃあ一発で落としたらアイス奢ってもらえるってこと!?」
「負けないからね!」
「いやいや、そこは譲ってよぉ~!」
楽しげな声が、夕焼けに染まり始めた学園に響く。
──その姿を、校舎の二階、窓際の廊下から静かに見下ろしている影があった。
「……楽しそうだな」
「ほんとにな」
紅葉と一郎が、並んで外を眺めていた。その間に立つ都斗は、無言でじっと目を細める。
「俺たちも回るか?」
紅葉の問いに、一郎は少しだけ考えるように首を傾げた。
「……行っても、邪魔になるだけだろ」
「それは否定できない」
互いにふっと笑い合う二人。その横で都斗がぽつりと呟いた。
「……護衛、しなくていいのか?」
「今日は非戦闘日だしな。それに、俺の妹を一番安心して任せられるのは、たぶん今のメンバーだよ」
「……そ」
頷く都斗の目には、わずかな安堵と、言葉にできない感情が揺れていた。
その姿を見ながら、紅葉が静かに呟いた。
「妹のことも、大事だけどさ。……あいつらの“日常”も、大事にしたいなって、最近よく思うんだ」
その言葉に、一郎が少しだけ目を細める。
「それが守れるのは、今のうちかもしれないからな」
その一言には、かすかに陰が差していた。
──
夕方。そろそろ文化祭も終盤に差しかかる頃。
教室に戻ってきた女子たちは、射的で当てたぬいぐるみや、焼きそばのトッピングストラップなど、思い思いの戦利品を手にしていた。
「いやぁ~、満喫したぁ!」
「来年もあれやりたいね」
「また皆で来ましょう、ね?」
「もちろん!」
無邪気な笑顔。弾けるような声。
その先に、明日も明後日も続いていくと信じていた。
けれど──
祭のあとには、必ず静けさが訪れる。
そしてその静けさは、時に、異変の始まりを運んでくる。
──だからこそ、今は。
この日を、心から楽しんでおこう。
そんな気持ちだけが、小鈴の胸の奥で、静かに、けれど確かに灯っていた。
弾けるような声で報告した小鈴の手には、最後の一冊が残されていた。
それを受け取ったのは、演劇部のきらびやかな衣装に身を包んだ女生徒。舞台袖から抜け出してきたような、まだ興奮冷めやらぬ笑顔だった。
「文芸部って、もっとお堅いイメージだったけど……読みやすかったし、普通に面白かったよ。来年も楽しみにしてるね」
「……あ、ありがとうございますっ!」
小鈴は思わず深く頭を下げ、はっとして顔を上げると、周囲の視線に気づいた。
文芸部メンバーたちが、いつの間にか手を止めてこちらを見ていた。紅葉、一郎、優凜、そして端っこで物静かに控えていた都斗までが、まるで舞台の千秋楽を祝うように温かな拍手を送っていた。
「これで、冊子分は全部終了だね」
「……本当に、お疲れ様」
「打ち上げは……俺の別荘か」
「おい都斗、それ言うのフライングだぞ。まだ文化祭終わってないからな」
「ん」
小さく頷いた都斗の反応に、紅葉が笑い、周囲も思わず吹き出す。
「じゃあ、ここからは自由行動ってことでいいかな?」
優凜が持ち前のスムーズな進行力で切り出すと、自然と皆が頷いた。
「せっかくだし、すずちゃん一緒に回らない?」
その声とともに、隣にいた楓がパッと手を取ってきた。
「えっ、い、いいの……?」
「もちろん! 女子会タイムだよ女子会! あっ、ゆりちゃんもいこーよー!」
「ええ。せっかくのお祭りだもの、楽しまなきゃ損よ」
ぐいぐいと引かれるままに、小鈴は笑いながらその輪の中へ。
文芸部の女子組は、気づけば自然な流れで文化祭見学ツアーに出発していた。
「見て見て、あそこのお化け屋敷、“本気出した”って書いてある!」
「入るならあれがいい。リアリティある系」
「ゆ、優凜さんノリノリですね……」
「いざとなったらすずちゃんの《貪食》で全部解決できそう」
「文化祭の出し物に能力持ち込まないで!?」
「でも万が一異能型の怪異が潜んでたら対処可能、って意味では完璧な布陣よね」
「いないでしょ!? ……多分!」
校舎の片隅に作られたホラー演出の迷路にきゃあきゃあと反応し、スイーツコンテストでは投票用の試食券を大事そうに握りしめ、撮影スポットではハロウィン風の衣装に帽子をかぶって何度もポーズを変える。
女子組の文化祭巡りは、終始にぎやかだった。
ふとした瞬間、小鈴は気づく。
(……なんだろう。私、すごく笑ってる)
グリフィンチ学園に入学したばかりの春、あんなに憧れていた場所に立ちながら、どこか遠い場所にいるような孤独を感じていた。
外部生という立場。周囲は才気あふれるエリートたちばかりで、自分だけが何か足りないような、そんな感覚が消えなかった。
でも、今は違う。
紅葉たちの言葉、優凜のさりげない気遣い、楓の天真爛漫な笑顔。
彼女たちが紡ぐ時間の中で、自分もたしかに存在している――そんな実感があった。
「すずちゃーん、次は射的! ポイント貯めると景品もらえるって!」
「じゃあ一発で落としたらアイス奢ってもらえるってこと!?」
「負けないからね!」
「いやいや、そこは譲ってよぉ~!」
楽しげな声が、夕焼けに染まり始めた学園に響く。
──その姿を、校舎の二階、窓際の廊下から静かに見下ろしている影があった。
「……楽しそうだな」
「ほんとにな」
紅葉と一郎が、並んで外を眺めていた。その間に立つ都斗は、無言でじっと目を細める。
「俺たちも回るか?」
紅葉の問いに、一郎は少しだけ考えるように首を傾げた。
「……行っても、邪魔になるだけだろ」
「それは否定できない」
互いにふっと笑い合う二人。その横で都斗がぽつりと呟いた。
「……護衛、しなくていいのか?」
「今日は非戦闘日だしな。それに、俺の妹を一番安心して任せられるのは、たぶん今のメンバーだよ」
「……そ」
頷く都斗の目には、わずかな安堵と、言葉にできない感情が揺れていた。
その姿を見ながら、紅葉が静かに呟いた。
「妹のことも、大事だけどさ。……あいつらの“日常”も、大事にしたいなって、最近よく思うんだ」
その言葉に、一郎が少しだけ目を細める。
「それが守れるのは、今のうちかもしれないからな」
その一言には、かすかに陰が差していた。
──
夕方。そろそろ文化祭も終盤に差しかかる頃。
教室に戻ってきた女子たちは、射的で当てたぬいぐるみや、焼きそばのトッピングストラップなど、思い思いの戦利品を手にしていた。
「いやぁ~、満喫したぁ!」
「来年もあれやりたいね」
「また皆で来ましょう、ね?」
「もちろん!」
無邪気な笑顔。弾けるような声。
その先に、明日も明後日も続いていくと信じていた。
けれど──
祭のあとには、必ず静けさが訪れる。
そしてその静けさは、時に、異変の始まりを運んでくる。
──だからこそ、今は。
この日を、心から楽しんでおこう。
そんな気持ちだけが、小鈴の胸の奥で、静かに、けれど確かに灯っていた。
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